失せ物探し 探偵奇談26 後編
欲しかったものを並べて、飾り棚にきれいに飾って、こうして眺めているのが好き。わたしはうっとりと肘をつき、壁や棚をみてため息をつく。
あれは美しい歌声。
こっちは綺麗な絵を描く指先。
お気に入りなのは、風の様に走れるカモシカのような足。
淀みなく溢れる美しい言葉を紡ぐ口も、とても素敵。
これは菩薩のような優しく強く、広い心。
その隣にあるのは、誰かを愛していると強く思う気持ち
他にもたくさん。うんとたくさん。欲しいな、いいなと思ったものは、手に入れないと気が済まない。だってそれは、わたしがどんなに望んでも手に入らなかったものだから。
なんてきれい。なんて美しいのだろう。
全部わたしが欲しかったもの。やっと手に入れられた。
そして新しく手にいれた「これ」。世界がとても美しく視える瞳。水面が虹色に踊るなんて。曇り空の向こう側に光が差すなんて。汚い世界、汚れた視界に、薄くて美しいベールがかけられたみたいな視界。
返してなんて、やるものか。どれもこれもわたしのもの。
わたしのことを、誰も思い出してくれない。知ってくれないじゃないか。
だから、返してやらない。この美しい瞳はわたしものだ。だってわたしには、ほかになにもないのだから。
だけど。
だけど本当に欲しい物はこれじゃない。わたしはもうわかっている。絶対に絶対に叶わないわたしの願い。
だれかに、わたしの名前をよんでほしい…
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作品名:失せ物探し 探偵奇談26 後編 作家名:ひなた眞白