失せ物探し 探偵奇談26 後編
よあけのばんに
翌日、部活後の日が暮れる時間。
部活を終えた瑞は、例の寮で伊吹、颯馬、郁らとともに大ホールに集合していた。寝不足で頭が回らないが、伊吹と颯馬が仕入れて来た情報を聞いていると光明がさした気がして気力が沸く。
「失せ物はかつても頻繁にあった。少女の霊が目撃され、感覚や能力をとられた人間が大勢いたようだ」
「それも話を聞いていると、とられちゃうのはその人の突出している特別な才能や力っぽいですよねー」
伊吹のもたらした情報で、おおまかなことは掴めて来た。蒸し暑いこの場所には冷房などあるはずもなく、一同や古ぼけてガクガク首を鳴らす扇風機のぬるい風の中で議論を交わす。
「それにしてもわらべ歌遊びなんて…懐かしいですね」
郁が言った。そう、瑞も聞いたあの歌。かごめかごめは有名な鬼あて遊びだ。あのとき、瑞は負けたのだ。後ろの正面にいた者の名をあてられなかった。
「同じ遊びをして返してもらおうとした人がいたんですね。でもその野球部の主将は、返してもらった例はないっていってましたよね?」
「ああ、畠山はそういってた」
「死者の魂と遊ぶなんて高度なこと、普通の人間には無理でしょうねえ。死者を遊びに誘う力が必要ってことだから」
だけど自分ならできる、と瑞は思う。夢での邂逅を果たしているから。力は取られてしまったが、残っているほんのわずかな力の欠片が少女を感じているし、力を取り戻そうとしているのがわかるのだ。
「彼女は器を取り替えながら奪うことを続けているから、写真を供養しても消えない。返してもらうには、かごめかごめで彼女の名前を言い当てるしかないってことだね」
颯馬の言葉に、瑞は唇を噛む。
「夢は見たけど…名前まではわからなかった…」
湿気に汗ばむ前髪をかきあげる。自身に苛立つ。夢の中にヒントがあったかもしれないのに、二度とも感情に任せたばかりに夢を終わらせてしまった。もっとつぶさに夢の中を歩き回ってみるべきだったかもしれない。
「そんなカリカリするな」
伊吹が言った。
「颯馬が言うには、遊んでいるうちにわかってくることもあるかもしれないそうだぞ」
「え?」
そーそー、とあっけらかんと颯馬が笑う。
「同じところをぐるぐる回り続けることは、古来より境目をぼかしたり曖昧にする儀式として使われてきたんだよ」
「境目?」
「この世とあの世、此岸と彼岸、正気と狂気。その境目ね。そこが曖昧になるころで、この世では見えないものが見えたり、聞こえたり、感じられたりする。一種のトランス状態っていうのかな?降霊術に似てるよねえ」
確かに、と郁が頷いた。
「かごめかごめって、ちょっと怖い遊びだって、小学生のときそんな話が流行してたかも」
「そうだね。歌詞もなんかわけわかんないしね。でもとにかく、やってみる価値はあるってこと」
瑞くんは、力を取り戻したいでしょ?颯馬に尋ねられ、瑞はしばし考えたのち、頷く。
「うん…やっぱ、絶対返してもらう」
この数日、力を失った世界で生きた。穏やかに感じることも、物足りなく感じることもあった。なくてもいいのかな、なんて思うこともあった。悲しい声が聞こえない。助けを求める声も聞こえない。子どもの頃に怖かったあらゆるものの視えない世界。その代わり、この世界を彩る、人間には到底理解できない様々なものも感じられない世界。
作品名:失せ物探し 探偵奇談26 後編 作家名:ひなた眞白