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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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失せ物探し 探偵奇談26 前編

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おちゃわんかいたのだあれ



郁(いく)ら弓道部員は体操着に軍手をはめ、学校の向かいにある球場の奥にある雑木林を目指していた。昼休み、雨は止んでいる。合宿の準備として、寮だった建物の片付けと清掃が指示されていた。

「貴重な昼休み使うんだから、おめーらチャッチャと動けよ!走れ!トレーニングだと思え!」

陸上部主将の駒形の指示で、陸上部員がうげえーと言いながら郁らを追い越していく。最後尾をだらだらついていくのは颯馬(そうま)だ。こういうのは上手にさぼるらしい彼なのだが、インターハイ予選を前にそういった「ずる」はもう駒形に通用しないらしい。

「去年の合宿よかったよねー。川遊びに温泉に、肝試しにおいしい料理…」

郁は部員らと喋りながら昨年の夏を思い出していた。それだけ聞くと、合宿というよりお泊り会と捉えられそうだが、確かに去年の合宿は楽しかった。

「今年は陸上部とぼろい寮で合宿かあ」
「でも、去年みたいな地獄の山道ランニングがないだけマシかもねー」

口ではそんなことを言いながらも、郁ら二年生は昨年と今年では気持ちの入り方がやはり違う。引退の迫る三年生たちと、誰よりも長く過ごしてきたのは二年だから。一日でも長く先輩達とやりたい。負けたくない。そんな切実な緊張感を誰もが胸に抱えているのだとわかる。
中でも、郁の前を伊吹と並んで歩く須丸瑞(すまるみず)は二年生の中で誰よりもその思いを強く抱いているとわかった。副将として主将を助けて来た彼にとって、三年生の夏の大会には自分の引退よりも強い思いがあるはずだ。レギュラーとして、勝敗の一角を担う実力者であり、プレッシャーも相当のものだろう。

(傍目にはいつも通りだけど…)

郁たちには想像もつかない強い気持ちで弓を引いているのかもしれなかった。
郁はその背中をずっと見つめてきた。揺るぎない背中を。どんなときでも、あの背中を見失わずに走ってきた。迷ったときも、躓いたときも、もう駄目だと落ち込んだときも。瑞がいてくれたから。少しでも追いつきたいと思いながら、郁も努力してきたのだ。

(後姿でいい。隣を歩けなくても…)

いつか、まっすぐに前を見据える彼が、振り返って郁を待って立ち止まってくれる。そんな日が来ることはなくても、これからも郁はその背中を追い続けられる自分でありたいと願っている。




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