失せ物探し 探偵奇談26 前編
痛い。本当に目から火花が出たかと思った。瑞は両手で額をおさえながら、暗澹たる気持ちで保健室に向かう。隣の郁が心配そうに声を掛けてくれるが、瑞は自分が心底情けなくて顔を見られない。
(サイアク…)
郁の前でこんなかっこ悪い姿をさらすことになるなんて。あのガキンチョ許すまじ。あと颯馬も。
「失礼します」
「はいはい」
優しいおばちゃんといった風貌の保健医は、ちょっと待っててねーと瑞と郁に声をかけた。椅子に座って治療を受けている男子生徒がいた。膝を擦りむいたらしく消毒してもらっている。
「おでこ、大丈夫?ちょっと見せて」
ソファに腰掛けると郁が言った。
「でもこれ、手はずしたら大出血とかしてそうで怖いんだけど…。あと前髪もげてるかも。はげたかもしんない」
「ぶつけたくらいではげはしないよ多分。それに血は出てなさそう」
郁に言われてそっと手をのけると、たんこぶになってるねと郁が言った。心配そうに額の様子を見てくれている。
一之瀬は、いまでも俺のことを好き?
そう聞いてしまいたい衝動に駆られる。長い時間を一緒に過ごす中で、郁のたくさんの表情をみてきた。同じように郁も、瑞とたくさんの経験を重ねた。自分のどこを好いてくれているのかは、瑞にもいまいちよくわからない。情けないところも弱いところも、たくさん見せてきてしまったけれど。彼女は幻滅していないだろうか。好きだと言えない情けない部分も含めて。
「…一之瀬さ、伊吹先輩の言ってたこと、守ってね」
「え?」
作品名:失せ物探し 探偵奇談26 前編 作家名:ひなた眞白