小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

青い瓶(本人登場)

INDEX|3ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 

私の目を惹いたのは、『青い瓶』としか言い様がなかった。
サイズととしては居酒屋なんかでみるようなハイボールのグラス、概ねそんな程度だ。
でもなんて言うか、不格好で、部位ごとに厚みなんかもでこぼこに見える感じで。
素人が手作りしたようなガラス細工で、見る角度によっては何となく斜めに傾いているような。

何故それが私の目を惹いたのか?
何となく、身体を抱きすくめようとする熱気にさらされたままにも関わらず、私の足はそれとは無関係にピタリと動くのを止めた。
ぼうとしていると本当にこれまた何となくだが、ひらめいた。
何しろ、その色だ。
青い瓶の青い色。
まるで広々と俯瞰する海を思わせるような、ムラのある、でも涼やかな青。
それが飾られていたのは通りに面した雑貨屋で、どこか古めかしく、元号なら2つくらい前の頃から営業しているんじゃないかとか、いやいや今でもここは営業しているのかと、あるいは訝しむような。
そう思っていたからこそ、
カランとベルの音がして――戸が目の前で開いたとき、私はビクリと小さく跳ねた。
「また来ますよ、ご主人」
そう言ったのは黒い前髪をたらんと垂らした優男風と言えなくもない細身の男性で、やや年齢不詳気味に見えたものの、せいぜい四十には届かないくらいかな――と漠然と私に思わせた。
その人が私に気づき、笑顔を浮かべて会釈をしたとき、まだ店の扉は開けられていた。
「店の彼女に宜しくな。名前は――ええと、何度聞いても忘れるなあ」
そして店の奥からは少ししわがれた、そんな声がした。
だから『タイミングが揃ってしまった』というべきなのだろうか。
開けられた扉、その前でショーウィンドウ(といって良いものか?)越しに青い瓶を眺める私、それからお店の奥から呼びかける声。
私が戸惑っていると、目の前の男性が小首を少し傾げて微笑んだ。
それが丁度『入るんですか?』と尋ねているようで。

なので、私は――誘われるように、会釈を返しながらそのお店の中に足を踏み入れた。


作品名:青い瓶(本人登場) 作家名:匿川 名