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青い瓶(本人登場)

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暑い。
本当に、暑い。
その日を端的に言い表すとすれば、それ以上の表現はなかった。
それまでが冷夏冷夏と言われていたので完全に油断していたら、ある雨の日を過ぎるや記録的な猛暑が始まり、今に至る。
こんな時にはできる限り外に出たくなんかない。
なのに無情にも冷蔵庫の中の食料は日々減り続け、ついにニッチもサッチも行かなくなった。

だから私は家の外に出た。
アパートの扉を開いたその瞬間から、煮えたぎるような熱気が私の身体を頼んでもいないのに抱きしめに来る。
こら、夏。それってセクハラだぞ。
私は思わずそんなふうに心の中で独りごちて、でも諦めて表へと歩み出た。

――諸般の事情で引きこもっている私にとって、それはおよそ一週間ぶりの外出になる。
一週間前はまだ人が生きていけるような熱気だったのに、今は私を倒しにかかっているとしか思えない。
車もなければ自転車も前輪をパンクさせて久しい私としては、スーパーまでの約1キロの行程は歩くほかに辿り着く術が無い。
なけなしの日傘を差してはみても、ここまで気温が上がってしまえば紫外線避け以上の意味は何もない。
でも征かねば。
私はついに、カンカンと音を立てて古びて錆の浮いた鉄の階段を降り、アパートの前の道路にまでやって来た。

『歩行』とは、自動作業だ。
私は目的地に着くまで両足を頼りにほとんど気を失っておけば良い。
自ら怠惰と認める私は、スーパーの中で冷房が吐き出す冷気に当たるそのときまで、熱気に耐えて両足を交互に前に出し続けるだけだ。

――そんなふうに思っていたからこそ。
作品名:青い瓶(本人登場) 作家名:匿川 名