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研究による犠牲

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「どうして、誘拐事件が起こったのか?」
「犯人の目的はどこにあったのか?」
 ということである。
 身代金の要求もなく、ただ、引き延ばしたうえで、誘拐した子供を、何事もなかったかのように返してきた。
 犯人としても、
「いくら返してきたとしても、誘拐犯ということに変わりはない」
 ということを分かっていないわけではあるまい。
 しかも、子供の誘拐なのだから、そこに何かの理由があってもしかるべきだ。
 そして、この家族である。
 子供の誘拐ということになれば、普通であれば、
「まずは人質の命が第一」
 ということで、警察に知らせることを戸惑うものだ。
 しかし、戸惑うこともなく、、すぐに警察に連絡し、その状況は、
「子供の命」
 というよりも、
「とにかく早く帰ってきてほしい」
 ということの方が強かったように思う。
 犯人も、
「身代金の要求をしてこない」
 ということは、
「被害者をただ、脅迫して、それでいい」
 とでも思っているかのようだった。
 確かに、
「お金が動機でない」
 としても、腑に落ちない。
 それ以外の要求があってしかるべきなのに、その要求がないのだ。
 警察の方としても、被害者の方に聞いたところ、
「こんなことをされる覚えはまったくない」
 ということだった、
 もっとも、最初から、
「分かっている」
 という人もいないだろう。
 しかも、子供が誘拐されて、精神的に混乱している状態で、思いつくということもないだろう。
 もし分かっているとすれば、最初から誘拐されることを予知していたか、身に覚えがある何かがあるかのどちらかであろう。
 実際に、
「誘拐事件は、最初からなかったように、かん口令の方、お願いいたします」
 というくらいだった。
 現場の捜査員とすれば、
「そうは言われましても」
 と最初は言っていたが、実際には、かん口令を敷くしかなかったのだ。
 というのも、この指示というか、命令は、
「上からの指示」
 ということであり、
「そのことに関しては、余計な詮索をしないように」
 ということを言われたのだった。
 要するに、
「上からの圧力が働いた」
 ということであった。
「事件としては、警察の調書に残すが、それを、世間に公開することは、一切許さない」
 ということだったのだ。
 そして、子供が帰ってきてから三日後のこと、
「捜査本部は解散する」
 ということになった。
 かん口令が敷かれてすぐのことだったので、現場捜査員としても、
「上の命令に逆らうわけにはいかない」
 ということであった、
 現場捜査員としても、
「結果、誰も殺されることもなく、無事に戻ってきたのだから、それに越したことはない」
 ということで、他の目の前にある事件を、コツコツ解決していくというのが大切だと思ったのであった。
 それを考えていると、
「捜査本部の解散」
 というのは、捜査員としてはありがたかった。
「他に解決しないといけない事件は、次々に起きているのだ」
 と、上司はいうが、
「まさにその通りだ」
 と、現場の刑事も考えていた。
 なるほど、
「毎日のように、細かい事件は発生していて、一つの事件に掛かり切りということはなかなか大事件でもないと難しい」
 といえるだろう。
 今回の事件も、
「何か腑に落ちないな」
 とは思いながらも、刑事という仕事をこなしていくと、
「過去の未解決事件」
 ということで、
「いずれは忘れていくことになるだろうな」
 という認識になってしまうに違いなかったのだ。

                 記憶喪失

 捜査本部も解散し、警察も意識が事件から一気に遠のいてしまった頃、誘拐された子供が戻ってきたことを喜んでいた被害者だったが、
「実は、そう簡単なことではなかった」
 というのを、今になって思い知っていた。
 確かに、
「子供が保護されている」
 ということを聴いた家族とすれば、
「これで、子供が無事に戻ってくる」
 ということで、警察に対して、
「せっかく捜査して呉れようとしているのを、阻止するような形になった」
 ということであったが、実際に戻ってきた子供が、
「普通ではない状態で戻ってきた」
 ということになっているとは、思ってもいなかった。
「誘拐されていたじきがあった」
 ということで、保護されてから、少し病院に入院することになった。
 体力の消耗があるようで、警察には、
「大丈夫です」
 とは言ったが、万全を期すということで、病院で、見てもらった。
 その時、医者から、
「どうも、記憶喪失に罹っているようですな」
 と言われた。
 医者は、淡々として話をするが、
「と言っても、直近の記憶くらいのことですね。数か月前くらいから過去の記憶はちゃんとあるはずですよ」
 と言っていた。
 父親もさすがに、
「記憶喪失」
 という言葉を聞いた時、
「大丈夫なんですか?」
 と一瞬にして、それまでの誘拐されてからのことが、走馬灯のようによみがえり、精神的にきつかったことを思い出すと、
「警察にあんな態度をとるんじゃなかった」
 と感じた。
 かといって、帰ってきたからと言って、警察に対して、コロッと態度を変えてしまったことは、自分でも分かっていた。
 だから、
「もうこれ以上、警察を頼るわけにはいかない」
 ということで、
「頼る相手は、あそこしかない」
 と、主人は考えた。
 主人が、
「何を考えたのか?」
 ということは別にして、
「どこかで、何かの力が暗躍している」
 ということは間違いなかった。
 警察も、そのことは把握していて、被害者も徐々に分かってきた。
 しかし、
「警察に圧力をかけていると思われる連中」
 と、
「被害者が怯えている相手」
 とは、その正体は本当に同じものなのだろうか?
 そういう意味で、
「警察と被害者の間で、目線が違っている」
 ということなのかも知れない。
 そして、それは、
「最初から違っていた」
 といえるのではないだろうか?
 とにかく、気になることとして、
「子供の記憶がない」
 ということは確かなようで、それも、
「何者かが、催眠術のようなものを掛けているんでしょうね」
 ということであった。
「それじゃあ、記憶が戻らないということも?」
 と主人が聴くと、
「そうですね、そこは何とも言えません。ただ」
 と医者が言いかけた。
「ただ、とおっしゃると?」
 と主人が聴くと、
「無理に思い出させようとすると、記憶のつながりがなくなってしまって、覚えてはいるんですが、今の記憶かた繋がっていないものとなってしまうので、本人が、意識できるところに記憶を持っていくことができなくなってしまって、過去の記憶をすべて思い出せなくなることもありえます。だから、決して無理をしないようにしないといけませんよ」
 というのであった。
 主人はそれを聴いて落胆した。
 まだ、子供に対して、そんな恐ろしい術を掛けた連中が憎らしかった。
 主人は、
「警察に犯人逮捕してもらうために、協力をしなかった」
 ということを後悔するのだった。
 かといって、
「もう遅いのは分かっている」
 そして、
作品名:研究による犠牲 作家名:森本晃次