表裏の感覚による殺人事件
「被害者がうつ伏せになって倒れているから分かったことだ、仰向けになっていれば、コードが下になって、感じる違和感は結局感じることができずに、重要なことを見逃してしまう」
というところであった。
被害者が、まるで警察の捜査に協力するかのように、都合よい形で死んでくれていたというのは、
「我々警察に、早く事件を解決して、敵を討ってくれ」
ということを言っているのではないかとすら思えたのだ。
それは、
「都合のいい解釈であるが、そういうところにこそ、事件の真相が隠れているのではないか?」
といえるのではないだろうか?
そこまで考えると、今度はまた新たな疑問は、桜井刑事に浮かんできたのだが、
「そこまで門倉刑事は気づいているのか?」
ということは、桜井刑事には分かりかねるところであった。
「コートの長さからか、なるほど、コートがダボダボに見えたのも無理もないこと」
ということであった。
だから、桜井刑事が、
「雨の話をした時、このコートがここまで湿気を吸った土の上を転がったわりには、それほど汚れていない」
ということに違和感があったのだ。
この土の汚れがまともに残っていないということは、
「水をはじく性質」
ということでの、
「撥水性」
というものは、新品のコートであれば、しっかり備わっているところの多いだろう。
しかも、
「コートなどは、洗濯機で洗濯など、なかなかできないので、このようにきれいな形状記憶状態でいられる」
というのは、
「少なくとも、おろしてからすぐのものだ」
ということが言えるだろう。
そう思ってコートを見ていると、
「なるほど、明らかに新品だ」
ということが言えるのだった。
そういう意味でも、違和感の正体が、
「このコートは、果たして、被害者の、ものなのだろうか?」
ということであった。
もし、この形状気置き状態でなかったり、汚れが目立っていれば、この違和感は、なかったかも知れない。
ただ、
「ここに落ちたあとに、着替えさせたという感じもない」
となると、少なくともここから落ちる前までには、着ていたということになるであろう。
それを考えると、
「被害者が自分から着て、そのまま着ていた」
ということになる。
「被害者は、そんな違和感はなかったのだろうか?」
と考えると。
「何のために?」
という疑問もさることながら、その他人のコートと思われるポケットに、被害者のパスケースと財布が入っていたというのは、おかしなことではないだろうか?
実際に、被害者が転がっていたところだけでなく、そのまわりも捜索されたが、
「転がってきたわけだから、その時、ポケットであったり、衣類の一部から何かが飛んだりしていないか?」
ということもあって、そこは重点的に調べられた。
これと言って何か、
「遺留品なるものが転がっている」
というものもなく、現状に関しては、初動捜査としてはできる限りのことができていた。
現場保存も、なかなか、人が入り込む場所ではないということで、
「それほど厳重にすることもない」
と思われた。
「形式的な黄色い規制線と呼ばれる帯さえして、立ち入り禁止を明確にしておけばいいだろう」
というくらいのものであった。
現場検証が終われば、今度は、目撃者捜しということになるのだろうが、さすがに、昨夜の午後八時ということで、
「バスから降りる人も、帰る方向は反対方向が多い」
ということで、
「なかなか目撃者捜しというのも、難航しそうだ」
というのは、最初から分かっていることだった。
しかし、逆に、こちらに帰る人は少ないということで、的を絞って捜査することもできる。
目撃者がいるに越したことはないが、もしいないのであれば、
「早めに分かり、見切りをつけることで、他の捜査に当たれるということはありがたいことだ」
ということになるであろう。
それを考えると、
「複雑だな」
と言って、苦笑いをする二人の刑事だったのだ。
近くに家があるというわけではない。
しいていえば、
「この辺りの住宅地の子供が通う学校がある」
ということであった。
小学校と中学校が、この辺りには二つあり、
「こちら側と、住宅街の反対側に、もう一つずつ存在した」
ということで、高校もあるのであったが、それは、
「こちら側に、一つ存在する」
というものであった。
また、実は反対側の学校の近くには、近くにある大学の少し離れたキャンパスがあり、そこでは、
「理数系の学部」
ということであり、それほど広いキャンバスではなかった。
「ちょうど、こちら側にある高校の敷地と。どっこいどっこいではないか?」
と言われることから、
「住宅地の左右の学校は、バランスよう作られている」
ということで、
「この辺りの住宅が、新興住宅街のモデルコースとなるだろう」
と言われるようになっていたのであった。
新興住宅というところは、
「いまさら」
と言われるかも知れない。
ただ、それは、都心部ということであり、山間の場所で、まだ開発ができていなかったところも結構あっただろう。
中には、
「地主への買収」
というのがうまくいかないということもあるだろうが、さすがに昔のように、
「公共事業」
であったり、
「国家の目標やスローガン」
という名目があるわけでもないので、買収がうまくいかないと、ハッキリと、
「作業は進まない」
といえるだろう。
逆に、土地によっては、
「土地を売りたい」
と言い出す人もいるだろう。
最初から、
「土地を売る」
ということは考えていて、その時、
「いかに高値で売るか?」
ということを企んでいるとすれば、
「土地が高いうちに」
というべきか、
「そろそろ値が下がりそうな雰囲気なので、今のうちに売ってしまおう」
と考えるのか、
当然地主だけではその判断は難しいだろうから、専門家に、その鑑定をお願いするということも普通にあることであろう。
「実際に、この住宅街も、同じように、20年くらい前に売られた土地だったのだが、この土地は、他と違って、値段の変動が特殊だった」
と言われている。
他の土地では、
「まだまだ値が上がるだろうから、いま売りに出すのは得策ではない」
と言われていたので、誰も、土地を売る人はいなかった。
この場所でも、他の人が誰も土地を売らないでいたのに、いきなり、この辺りの半分以上の土地を所有していて、不動産屋が、
「あの人は相当慎重な人だから、一番の買収には難関な人だ」
と言われていたのだが、その人がいきなり土地を売ったのだから、他の人も、
「右倣え」
で、ゾクゾクと土地が売られていったのだ。
だから、
「この土地は、想像以上に一気に手に入った」
ということであった。
だから、開発にもそこまで時間が掛からなかったのだ。
実際に土地が更地となり始め、更地に大きな看板として、
「新興住宅建設予定地」
というものが立ってから、実際に、
「学校」
「病院」
などの施設や、
「郵便局」
「交番」
「公民館」
作品名:表裏の感覚による殺人事件 作家名:森本晃次