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　ということになると、それ以前の改正は、
「放っておかれる」
　ということになったとしても、それは無理もないということではないだろうか？
　そんなことを考えていると、
「俺たち警察官は、いたちごっこの堂々巡りを繰り返すことになるのではないか？」
　という、虚しさをずっと抱えていることになると感じている人も少なくないだろう。
　だからこそ、警察に対する市民の意識も、
「しょせんは、公務員」
　ということで、何といっても、
「何かなければ、行動しないのが警察だ」
　ということで、いら立っていることも多いことだろう。
　特に、
「失踪届」
　あるいは、
「捜索願」
　と呼ばれるものは、
「事件性がないと、受理はしても、捜査はしない」
　というのが当たり前のようになっている。
　今回のような変死体が上がり、そこで身元照会をすれば、それが、
「行方不明者だった」
　ということになれば、
「早く身元を発見できた」
　ということで、警察も
「手間が省ける」
　という意味での、形式的な届という認識しかないとするならば、
「そもそも、捜索願などというものは、ただの紙切れでしかないではないか？」
　ということになるのだった。
「刑事がいかに事件解決のために捜査をするか？」
　という真剣な刑事課などの部署もあるかと思えば、
「行方不明者の捜索をしない」
　ということはどういうことを示すか？
　ということで、
「警察官は、人手不足」
　ということになるのだろう。
　実際に、そういう問題が警察にはあるのかも知れない。
　それが、
「今になって始まった」
　ということなのか、それとも、
「以前から、慢性的にあったことだったのか」
　ということは、表から見ているだけでは分からない。
　実際には、警察官個人でも、そんな意識はないだろう。
「人手不足なんだろうな」
　とは思っても、ただ、それを受け入れるだけで、理由やそれまでの経緯を調べようとまでは思わないだろう。
　ただでさえ、
「捜査する」
　ということが仕事ではないか。
「仕事以外の時に、仕事のことは考えたくない」
　というのも、当たり前のことなのであろう。
　それを考えると、
「本当に警察は公務員だな」
　と感じる。
　特に、事件捜査の際にいつも引っかかってくる、
「縄張り意識などを考えたり」
　あるいは、
「キャリアやノンキャリと言った、官僚に代表される階級制度」
　なるものというのが、
「いかに面倒くさいものなのか？」
　ということを考えると、うんざりしてくるというものであった。
　今回は、身元もハッキリしていて、ポケットには、免許証も、パスケースもあった。
　そして、被害者には、いくつか気になるところもあったのだが、そこは、二人の刑事は、整理しているようだ。
「まず、被害者は、顔面を殴られたんでしょうね、この血滴は、実際の致命傷になったかも知れない頭の傷だけではなく、顔も殴られているようですね。しかも、一度ならず何度かですね」
　と鑑識がいった。
　二人の刑事は、まだ死体を見ていなかったのでハッキリとはしていなかったが、下まで降りていってからの死体を見た時、まず門倉刑事が、
「うわっ」
　とうめき声のようなものを挙げた。
　それを聴いて、桜井刑事が覗き込むと、今度は、押し出すような声で、
「こ、これは」
　と言って、驚愕した顔になった。
　というのは、その殴られた顔を見た二人の刑事が、
「言葉を失いかけた」
　というのも分かりそうなもので、その顔の様子は明らかに、
「完全に、顔が分からないようしようという意図のようなものがあるのではないか？」
　と思えるほどだったのだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　二人の目撃者

　その様子は、一見、
「断崖に落ちた時についた傷ではないか？」
　とも思えたが、鼻から血が滴っていて、それが固まって口の中に流れ込みそうな勢いのまま凝固しているのを見ると、
「道に落ちていた血滴というのは、ひょっとすると、鼻血なのかも知れない」
　と考えられたのだ。
　明らかに顔は潰れていたが、目だけはしっかりと開いていて、それがまるで、
「断末魔の表情」
　とでもいえばいいのか、
「空を見上げているかのように見える」
　と思われたのだ。
　二人の刑事は、声にこそ出さなかったが、同じことを考えていたのであった。
　そこには、今までに数々の殺人現場をいうものを見てきた刑事には、あるあるなのかも知れないが、恨みのようなものが感じられ、そのたびに、
「背筋も凍る」
　といえるほどの憎しみを感じさせるものが、
「断末魔の表情」
　として瞼の裏に残っている。
　だから、一人一人表情が違うのだろう。いきなり見た時に、最初に瞼の裏に浮かんでくるその顔は決まっていたのだ。
　それは、
「その刑事が最初に見た断末魔の表情であろうか」
　そういう意味では、刑事よりも、鑑識の方が、その現場には必ずいるので、下手をすると、
「夢に出てきて、うなされる」
　というくらいの人もいるだろう。
「こういう表情は、慣れてきたとしても、慣れ切れるものではない」
　と思っている鑑識も多いことだろう。
　死体を、今度は顔を見ないようにして、冷静に見ていた二人の刑事のうち、最初に口を切ったのは、門倉刑事だった。
「うーん、何か違和感は感じるのだけど、それがどこからきているのか、すぐに思いつくわけではない」
　というのだった。
　それを聴いて、桜井刑事も同じことを感じていたからなのか、何も言わなかった。その間に、腕を組んで死体を覗き込みながら、その違和感の出所を考えていたのだった。
　そんな二人の刑事をよそに、鑑識の捜索は、せわしなく行われていた。
　この辺りは、普段人が入り込むことのないところで、断崖絶壁にもなっているところで、いわゆる、
「雑木林になっている」
　ということから、他の場所とは、
「何か空気が違っているようだ」
　という思いを抱かせた。
「そういえば、最近、雨は降っていないよな」
　と桜井刑事がいうと、
「そうですね。もう、一週間くらいは少なくとも降っていないような気がします」
　と言った。
「そのわりに、ここは湿気を帯びていて、この下の土も濡れているように思えるんだけどな」
　と桜井刑事がいうと、今度は鑑識の人が、
「こういう雑木林では起こりがちなんですよ。ここの土質が、そういう最初から湿気を帯びたような形になっているので、ここに転げ落ちたりすると、ドロドロになったりするんでしょうね」
　と言った。
「そのわりには、このコートはそんなに汚れてるような気がしないんだけど？」
　というと、
「そういえばそうですね」
　と鑑識が言った。
　そこで、門倉刑事が、ハッとして、何かに気が付いたのか、死体を上から見下ろす形で見ていると、
「違和感の正体は、このコートの長さなんですよ」
　というのだった。
　それを聴いて、桜井刑事も分かったように、
「なるほど、確かに、膝から下まで、結構長くなっていて、足がどうなっているかということが分からないくらいに長い」
　というのだった。
　これは、