黒歴史と普通という感覚
「極上のサービスだから、年に二度くらいでいい」
というほど、この世界が別世界と感じていたのだろう。
今はまったくその頃とお風呂屋さんも変わった。
今であれば、
「親しみやすさと癒しを求めてやってくる」
という客も多いのだ。
以前のように、一回で、
「六万円以上」
という値段設定だったものが、今では、最安値で、
「一万円未満で入れる」
という格安店であったり、
「三万円前後の予算」
ということでの、大衆店というのもどんどん増えてきて、今では、
「大衆店が、結構多いのではないだろうか」
実際に、大衆店というと、平均年齢の若い子が多く、
「街を歩いている普通の女の子」
というのが相手してくれるということで、客の方も、気取ることなく来れるということで、昔のような、
「別世界」
ということのない。
それこそ、
「お金で時間を買い、その時間内だけでの自由恋愛」
というものを楽しみたいから来ているということである。
だから、中には、
「話だけで終わる」
というお客さんもいると、女の子から聞いたことがあった。
どうやら、その客は、普段は忙しく、会社では、仕事以外のことで話すこともなく、実際に、
「コミュニケーションを取るのが苦手」
という人が多いという。
友達がいるわけでもなく、
「世間話をするとすれば、こういうお店か、美容院の女の子くらいだ」
といっているという。
そういう人は、散髪屋にはいかない。
女の子がカットしてくれるのが分かっているところであればそれでいいが、下手に男だと、
「相手は世間話をしてくるが、こっちは大きなお世話だ」
と思っているからだろう。
それでも、相手が女性だと、そこまではない。今まで男としか話をしたことがなく、それが次第に鬱陶しくなってきた人間が、女の子と話て、
「目からうろこが落ちた」
と感じている人も少なく無いだろう。
自分もそういうところがあったので、最初は、性風俗街への立ち入りは怖かった。
しかし、ネットのサイトがあるのを見て、そこで予約をしてくるようになると、
「女の子が意外と気さくだ」
ということに気が付いた。
昔であれば、
「借金のために働いている」
という音の子が多かったという。
だから、どうしても、
「うしろめたさがあり、別世界だ」
という印象を持つのではないか?
と思ったが、サイトの中で女の子が書いている、
「写メ日記」
などと見ていると、そんな雰囲気もあまり感じられない。
中には、
「現役女子大生」
という子も普通にいる、
逆に、今の時代ではなく、大衆店や、格安店が出てきた頃は、さすがに、
「現役女子大生」
というのは少なかっただろうから、かなり貴重だったことだろう。
「その時の女の子に入ってみたかったな」
とも思ったが、
「どうせそういう子は、予約でいっぱいだろうから、それこそ高嶺の花なんだろうな」
ということで、逆に、気軽に女子大生との自由恋愛を時間内に楽しめるということで、
「今の方がいいか」
と考えるようになったのだ。
どんなところでも変革期というのは珍しいもので、
「お風呂屋さんに大衆店や、格安店が増えてきたおかげで、女の子も、
「アルバイト感覚」
という気さくな雰囲気が増えてきた。
その分、店も価格競争の時代に入ってきたといってもいいだろう、
店とすれば、街が賑やかになるのはいいが、その分、固定客を取られるのはたまったものではない。
かといって、
「一定のサービスを提供するには、最低ラインの価格設定がある」
ということで、簡単に値段を下げるというわけにはいなかいということだった。
そこで考えられることとして、
「お店の個性」
というものだった。
つまりは、
「コンセプトをしっかり持っている店」
ということで、
「他と変わらない」
ということであれば、
「値段が安いところに行こう」
と思うのは当たり前だろう。
ただ、客の立場からいえば、
「あまり安いところは嫌だ」
と考える人もいるだろう。
激安店などが登場してくると、価格競争が蔓延し、だからと言って、激安店などにいけば、
「この店、とんでもない」
というところもあったりする。
それこそ、昔の、
「ぼったくりの店」
に近いような感じで、
女の子のプロフィールには、22歳とか表記しておきながら、出てきたのは、明らかに中年のおばさんで、対応も、
「塩対応」
それこそ、
「早く終わってよ」
という意識からか、客を威圧している有様だったりする。
そんなのに、一度でも当たれば、
「安物買いの銭失い」
という言葉を思わせるだけである。
もっとも、そんな店に客が来ても、それは一度だけしか来ない客であろう。
そんなことは店も分かっているだろうから、いつの間にかなくなっていたということも多いだろう。
最初から、短い期間、稼いで終わりだと思っている経営者もいるだろう。
それは、本店を普通に持っていて、ちょっとした事業拡大というくらいに考えているところだったかも知れない。
しかし、これは、風俗街の、
「黒歴史」
というものだろう。
今では、
「そんな店があった」
ということすら、知らない人ばかりで、
「激安店というのが昔はあった」
というと、信じてくれない人も結構いて、こちらも、話題にすることがなくなってくるので、もう話題にする人もいないだろう。
それでも、大衆店というのは、定着した。
気さくな女の子がコンセプトに合わせて待機しているのだから、人気が出ることだろう。
「学園もの」
であったり、
「メイド風」
「奥様設定」
「SM系の店」
と、コンセプトも様々だった。
店の雰囲気も、昔は暗い部屋というのが当たり前だったが、今は、普通の明かりの部屋に入り、
「プレイの時だけ、照明を落とす」
という女の子が多いという。
「なるほど、気さくな女の子が多く、話に夢中になると、60分コースにしていた場合など、気づけば、あと10分ということもあり、話だけで終わってしまう」
ということもあるだろう、
本来であれば、女の子が気づいて、
「もう、半分時間過ぎてるわよ」
といってあげるものなのだろうが、お互いに話に盛り上がって、客の方も、当初の目的を忘れ、
「まあ、いいか、今度来た時、楽しませてもらうよ」
といって、恐縮している女の子の頭を撫でるというような雰囲気を、実は客は、
「至福の悦び」
と思っているようだった。
だから、その客はしばらくすると、またやってくるのだ。
女の子の方も、
「悪いことしたな」
と思ったかも知れないが、相手はそんなことを感じていない。
女の子は、
「悪いことをした」
と思っているところに、本当に来てくれると、感激し、
「今日は私が頑張る」
ということで、一生懸命に相手をしてくれることだろう。
女の子も、そういう客がいてくれると、自分も、
「働いている甲斐がある」
ということで、一生懸命になることで、
「風俗嬢であることに対して後めたさを感じることはない」
と思うだろう。
それこそが、
「客の望む、自由恋愛」
作品名:黒歴史と普通という感覚 作家名:森本晃次