黒歴史と普通という感覚
しかし、最初から、
「会社の仕事に適合できない」
という自己理由で辞める人もいる。
昔であれば
「せっかく正社員で働いているのに、もったいない」
という人や、
「やりたくても、病気でできない人がいるというのに、贅沢だ」
という人もいるかも知れない。
そもそも、その病気というのも、場合によっては、その理由というものが、
「上司からパワハラを受けて、精神疾患に陥ったりしたとして、そのへ原因が仕事であれば、会社を辞めるしかない」
ということで、そんな上司がいるところで、こちらに、
「甘い」
などというのは、それこそ、押し付けではないだろうか?
それを言っているのが、他の管理職だとするならば、
「パワハラ行為を辞めさせてから言ってもらいたいものだ」
ということである。
コンプライアンス違反
今の時代は、昔の昭和の時代とは違い、精神疾患に陥ることが結構ある。
「そんな人たちを守る」
という意味で、
「コンプライアンス違反を撲滅しないといけない」
といっておきながら、実際には、
「まったく口で言っていることと違うことをしている連中が山ほどいる」
というものだ。
自分の知り合いが働いている会社であるが、その会社は、元々、
「流通会社のシステム部」
だった。
今から10年くらい前に、会社が民事再生の申請を起こし、事実上の倒産ということになった。
その混乱もあったが、何とかスポンサーも募ることができて、会社は何とか持ち直した。
その友人は、そのシステム部に所属していて、実際に、
「部署替え」
という話もあったが、何とか残ることができて、システム開発を続けていたという。
システム部は、部長の兼ねてからの希望通り、元々の会社から独立し、
「システム会社」
として設立したのだった。
その会社は、ソフト会社ということで、製作したシステムを他のクライアントに売り込んで、保守を行うことが、主な経営方針であった。
つまりは、
「クライアントがいて、そこに売り込み、保守をするわけなので、相手が少々無理なことを言っても、商談で何とかしなければいけない」
つまり、
「システム開発をしながら、営業も兼ねている」
というわけで、今までのように、
「会社のシステムを作っている」
というだけで済むものではなかった。
「相手が、お金を払ってくれる以上、こちらは、文句が言えない立場」
ということだ。
しかも、そのシステムが、24時間体制で、しかも、基幹業務というものが、
「夜中に動く」
ということで、何かトラブルがあったりすると、
「夜中でも携帯電話に電話がかかってきて、対応しなければいけない」
ということになるのだ。
つまりは、
「夜中眠れないからといって、文句も言えない」
ということだ。
しかも、何かトラブルがあって連絡をしてくるのだから、相手が怒っている可能性はかなり高い。
「業務が大幅に遅れて、配達先の客に迷惑をかける」
などということになると、
「責任問題」
ということだ。
とりあえず、その場のトラブル解消に躍起にならなければならず。しかも、システムトラブルというと、よほど慎重にやらないと、
「二次災害」
というものを起こしかねない。
実際の責任問題というのは、
「トラブルが解決してから」
ということになるだろうが、それ以上に、トラブルを増発させないように気を遣わなければいけない。
しかも、基幹業務の担当は数人いるが、責任者というと一人なので、その対応が大変だということである。
実際にそういうことが、毎日のように続いていたという。
「夜中対応しているから」
ということで、昼間会社に出なくてもいいというわけではない、いつものように、会社に、朝の九時から出社して、トラブルの後始末をしなければいけない。
報告書を作り、それをクライアントに説明し、さらに、
「今後、このようなことのないように」
ということで、
「原因の究明。その場の対処、そして今後の対応」
というものを提出する必要がある、
それを月に何度もさせられていては、
「体力も持たない」
だろうし、
「精神的に病んでしまう」
ということになるだろう。
実際にその人は、精神的に病んでしまい、トラブルがなくても、
「夜が眠れない」
という状況に陥り、自殺願望があり、
「自殺未遂」
というものを起こすまでに至ったのだ。
それを考えると、
「家族が心配して、精神科に連れていった」
ということで、会社を数日休むということになった。
すると、会社の同僚は、
「主任さん、大変よね」
とは言いながら、それほど気にしている様子もない」
という。
それどころか、
「精神疾患が分かり、医者から、出社禁止をいわれ、休職状態になると、他の人は、手のひらを返したように、
「面倒くさい」
と言い出したのだ。
それは、その人が弁護士を伴ってきたからであって、
「ハッキリは分からないけど、労災か何かだったんじゃないかな?」
ということで、総務の若い女性が、前は、
「気の毒に」
といっていたのが、手のひらを返したように、嫌悪感をむき出しにするのだった。
ということは、
以前に、
「気の毒に」
といっていたのは、まったくの他人事であり、あとになって、自分に火の粉が降りかかると思うと、露骨に、
「県の勘をむき出しにする」
などというのは、それこそ、
「人間性を見た」
というものであろう。
「もし、旦那さんが、その人の立場だったら、もし会社で、こんな嫌悪感をあらわにされたと思うと、どう感じるだろうね」
と自分がいうと、
「ああ、その若い女性は、まだ結婚していないんだよ」
というのだった。
「なるほど、結婚もしておらず、独身の状態で、子供もいないのであれば、家庭の大変さなんてもの分かるわけはないわ」
ということであった。
だから、
「会社というものが、しかもその総務が、いくらコンプライアンス違反撲滅などといっても、それは口先だけのことであって、実際に自分の仕事だとはいえ、火の粉が降りかかってくると、露骨に嫌な顔をする」
ということである。
確かに、そんな気持ちになるのも分からなくもないが、それを自分から表に出すと、正直、損をするのは自分ということになる。
それが分かっているのかいないのか、その人が休職中も、
「その人の名前を出しただけで、嫌な顔をするのを見ているのは嫌だ」
ということであった。
今の社会というのは、そういう時代である。
「会社が社員のために何もしてくれない」
というのは当たり前のことである。
自分が、まだ新入社員だった頃、最初は半年間、支店で研修期間があったのだが、そこで、一人の女の子が事故を起こしたようで、警察や、保険会社の人が立ち会いに来て、会社の駐車場に置いてある車の検証をしていた。
もちろん、細かい内容は分からなかったが、実際に、まだ新入社員のその女の子は、困ったように下を向いて、泣きそうにしていたのだ。
それを見て、
「かわいそうだ」
と思ったが、誰も事務所から出てくる人もいない。
作品名:黒歴史と普通という感覚 作家名:森本晃次