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黒歴史

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「ええ、彼女は、今の会社が転職してすぐだということだったんですが、彼女は前の会社でしつこく交際を申し込まれ、それを断るうちに、その人が会社の前で待ち受けていることが多くなって、次第に気持ち悪くなってきたという理由で、転職したということでした」
 というので、
「それで、警察に?」
 と桜井刑事が聞くと、
「ええ、別の会社に勤めてからも、しつこく会社の前で待っていることが多かったりしたんだそうです。しかも、その頃から、家の前で張っていることも多くなり、四六時中見張られているようになったことで、ノイローゼのようになったんですね。たまらなくなって警察に通報したとのことでした」
 と生活安全課の人が言った。
「なるほど、それって典型的なストーカー行為でしょうか?」
 と聞くと、
「ええ、そうですね。典型的だと思います」
「それでどのような手段を行ったんですか?」
 と聞くと、
「ご存じのように、警察はそういう相談を受けても、いきなりストーカーの身柄を拘束したり、取り調べのようなことはできないので、まず本人に連絡を取って、ストーカー行為をしないように促すと同時に、彼女の家の周りの警備を強化します。パトロールの回数を、彼女の家の近くだけ少し増やすなどしてですね。そして、彼女のケイタイの番号を登録しておいて、彼女からの着信であれば、110番と同じレベルのものだという認識をする手続きを取りました。そして彼女には、なるべく一人で行動しないようにしてほしいと伝えました」
 ということであった、
「それで、そういう人が彼女のまわりに誰かいたんですか?」
 と聞くと、
「ああ、同僚の女性に、いつも相談に乗ってくれる人がいるということでしたので、その人となるべく一緒にいるようにとは促しました」
「ほう、それならよかったですよね」
 というと、
「ええ、そうなんです。一応できるだけの対策はとった中で、我々がストーカーに連絡を取って、もうやめなさいというと、最初は、自分はストーカーではないと言い張っていたんですが、今度は我々が彼をマークして、ストーキングの物的証拠を見せると、やつは、青くなって、もうしませんということを言い出したんですね。ストーカーというのは、意外と気が小さい人間も一定数いて、彼もその中の一人だったということになるんでしょうね」
 と生活安全課では見ていたようだ。
 そして彼女からも、
「こちらに相談してから、ストーキング行為は最初はあったけど、徐々に少なくなっていって、今では顔を見ることもなくなりました」
 ということだと刑事はいうのだった。
「それがいつ頃のことですか?」
 と桜井刑事が聞くと、
「彼女が最初に来てから、4か月くらいが経っていましたかね」
「携帯電話の対応も、一定期間だけのことで、それが済んでもまだ何かあるようだったら、さらに更新し、期間を延長する」
 ということであったので、実際には、
「その時点で、ストーカー問題は、一応の解決を見た」
 ということであろう。
「彼女はどうでした?」
 と聞くと、
「ええ、だいぶ安心したようでした。初めて顔色もよくて、逆にそれまでがひどい状態だったんだということでしょうね」
 と生活安全課の刑事はいって、少し寂しい表情になったかと思うと、
「そんな彼女が、あれからまだ一年も経たないというのに、殺されてしまうというのは、実に残念なことです」
 という。
「その時のストーカーの男は、それからまったく彼女の前に現れないんですか?」
 というと、
「ええ、現れないようですね」
 ということであった。
 それを聴いた桜井刑事は、その内容を。捜査本部に報告したのだが、捜査本部でも、あたりの聞き込みとしての情報は、相変わらずに、これと言ったものはないようだった。
 防犯カメラの映像を見せてもらい、その写真をもって、彼女の前の会社や、今の会社に見せたりした。
 前の会社に出向いた時、例の、
「ストーカー男」
 というのは会社を辞めていた。
 それは、時期的には、警察から、ストーカー行為を辞めてほしいという、
「警告の電話があった」
 という時期に近かった。
「警察にいわれて引き下がるくらいなので、その正体は、小心者だといってもいいのかも知れない」
 と思った。
 そもそも、ストーカーになるというのは、
「小心者で、声もかけられない」
 という人が多いとも言われている。
 それを考えると、
「小心者の心理状態」
 というものを考えてみないといけないとも思ったので、彼についても、いろいろ元同僚にも聞いてみることにした。
 静香が殺されたということをいうと、
「ああ、彼女がね」
 といって、何か意味深な複雑で、奥歯にものがはさかったかのような表情をする人もいて、それを見ていると、
「何かを隠しているのか?」
 という思いと、
「何か疑問のようなものがある」
 ということなのかと考えるのであった。
「彼女は、殺害されるに至って、心当たりありますか?」
 と聞くと、
「彼女はですね、何かオオカミ少年のようなところがあってですね」
 と言い出したのだ。
 そして、それを言って、少し考えていた。少しして、意を決したように、
「死んだ人のことを悪くいうのは、気が引けるんですが」
 という言い訳をしたうえでさらに続けた。
「静香さんは、どこか狂言癖のようなものがあるというのか、猜疑心が強いからなのか、ウソを言って、人を困らせたりすることが多かったんです。でも、だからと言って、楽しんでいるという風には見えなかったので、何か病気のようなものではないかと思っていたんですよね」
 というのだった。
「それは何か精神疾患というような?」
 と聞くと、
「女性は嫉妬深かったりすると言われるじゃないですか。彼女は、それの極端な感じだといってもいいのではないでしょうか?」
 というのだった。
 この話は彼女に限ったことではなく、
「聞いた人ほとんどがそう答えていた」
 ということであった。
 それは、女性だけではなく、男性からも聞けたことだったので、その信憑性は高いということになると、桜井刑事は感じたのだ。
 それで、
「この事件というのが、ストーカーによる、一種の男女関係の縺れといってもいいのではないだろうか?」
 というところが、その時点での桜井刑事をはじめとした捜査陣の考え方であったのだった。

                 行方不明

 今回の捜査で、付近の聞き込みをしているところで、あるお弁当屋さんの店員が、面白い話をしていた。
「あの事件があった次の日、数人の学生がこの辺りを歩いていたんですけどね。三人くらいだったか、そのうちの一人が、話を聞きながら、大声を出したんです。思わず出てしまったという雰囲気で、すぐに、まわりを気にして、声を下げ気味でしたけど、そもそもが大きいので、ちょっと離れていても聞こえたんですよ」
 ということであった。
「それで?」
 と聞いてみると、
作品名:黒歴史 作家名:森本晃次