小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

三つのわだかまり

INDEX|7ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

「バックにいじめ問題があるのだろうか?」
 ということを想像させたので、捕まえた万引きGメンは、店主に引き渡したのだが、店主とすれば、
「いくら初犯とはいえ、万引きというのは犯罪は犯罪だ」
 ということで、交番へ通報することにした。
 もちろん、様子を見ていて、彼に事実関係を確認しても、一言も喋ろうとしないからだった。
「このままだと、警察を呼ぶしかないんだけど?」
 といっても、少年は、頭を垂れて、返事をしないどころか、顔を見ようともしない。
 かなり怯えているのか、それとも、これは芝居だということなのか、
「これが芝居だというのであれば、これほど巧妙な芝居はないだろう」
 ということで、
「そんな巧妙なことができるやつが、こんな万引きのような陳腐な犯罪に手を染めるなんて思えない」
 と感じた。
 最近の中学生というのは、
「何を考えているのか分からない」
 というのが、店主の率直な気持ちで、それを考えると、
「自分でも、どうしていいのか分からない」
 ということになり、結局
「警察に通報するしかない」
 ということになったのだ。
 店主も、
「親や学校が先ではないか?」
 と考えたが、
「ここに親や学校の先生に来られて、感情的になられでもすれば、こっちの存在が薄くなってしまい、収拾がつかなくなる」
 と考えたのだ。
 この店長は、どちらかというと、
「事なかれ主義」
 なところがあり、
「面倒なことは嫌いだ」
 というタイプであった。
 それを思えば、
「さっさと警察を呼んだ方がいい」
 と思ったのだった。
「しょうがない。警察に通報だ」
 というと、少し顔を上げて、初めて店長の顔を見た。
 そこには、何か救いを求めるような顔になったが、それは一瞬のことで、覚悟を決めたのか、また下を向いてしまった。
 最初は震えていた身体は、もう震えていない。この状況に慣れてきたということなのだとすれば、
「最初から覚悟をしていたのか?」
 それとも、
「初犯ではない」
 ということになるのか、それを考えると、店長は、
「この少年がよく分からない」
 と感じるようになった。
 店長は、近くの交番に連絡をした。
 さすがにいきなり、警察署への通報まではかわいそうだと思ったのだろう。
「お慈悲だ」
 と思ったのかどうか分からないが、それは、少年には関係のないことだと少年は思っているのかも知れない。
 そして、しばらくすると、
「制服警官」
 がやってきた。
 少年は、
「若い警官が来るものだと思っていたが、やってきたのは、自分の父親よりも老けているのではないか?」
 と思えるような人が来たことで、びっくりしているようだった。
 警官は、店長のいる前で少し事情を聴こうとしたが、なかなか口が重たいのは分かった。
 ただ、少年も、
「事実だけに対して、口は開かないまでも、無言では答えてくれるので、警官は、質問をする形で、話を聞くという形になったのだ」
 だから、実に早くその場は収まり、
「店長さん、このまま交番に連れていっても構いませんか?」
 というと、店長は、最初からそのつもりだったこともあって、
「ええ、かまいません」
 という了解を出した。
「警察に任せたのだから、あとは警察との話になる」
 ということである。
 この時点で、店側とすれば、
「事を大きくする」
 というつもりはなかった。
 それよりも、
「一応未然に防げたのだから、それでいい」
 ということであった。
 万引きGメンも、その仕事をちゃんとしてくれたということで、次がもしあれば、ちゃんと検挙してくれるという実績ができたことはよかったと思っている。
 何といっても、派遣として雇っているのだから、
「どこの店にでもありえることだ」
 という万引きを、ちゃんと検挙するという実績を作ってくれたのはありがたいことだったのである。
 万引きによる被害は、さほどあったわけではないが、店の中には、万引きなどの犯罪に対しての警告のチラシを店内の数か所に貼っているので、とりあえずは、それが警鐘となればいいということであったが、そんな簡単なことではないようだった。
 交番に連れていかれた少年は、だいぶかしこまっているようだが、最初に捕まってから、少し時間が経過したことで、そこまで怯えている様子もなかった。
 警官は、諭すようなものの言い方をしてきたが、少年とすれば、
「鬱陶しい」
 という思いはないようだった。
 それよりも、少し、心地よさがあるくらいで、その気持ちに対して、本人が一番驚いているようだった。
 というのは、
「それだけ、学校というところが、住みにくい環境にある」
 ということだろう。
 友達も、ろくなものではないし、先生に至っては、威張り散らしていて、そのくせ、自分のことしか考えていないという、
「大人のくせに、根性は腐り切っている」
 としか思っていないのだ。
 権力を振りかざしてくるくせに、ちょっと生徒が脅せば、何も言えなくなるという、明らかな、
「弱い者には威張り散らして、強いものには巻かれる」
 という、実に卑怯な性格だと思っていた。

                 卑怯なコウモリ

「卑怯なコウモリ」
 というイソップ寓話の話は、
「学校で習ったことではないか」
 と思うのだった。
 この、
「卑怯なコウモリ」
 という話は、
「獣と鳥が戦争をしているところに、通りかかったコウモリは、獣に向かっては、自分は獣だといい、鳥に向かっては、自分は鳥だといって、逃げ回っていたが、そのうち、戦争が終わると、お互いに仲直りをした時、コウモリの話題となり、コウモリを卑怯なやつだということで、自分たちの前に二度と姿を現すなということで、暗い洞窟の中で、夜だけ活動するという夜行性になった」
 という話であった。
 この少年は、学校の先生をそのコウモリになぞらえて、見ていたのだ。
 ただ、この
「卑怯なコウモリ」
 という話は、
「確かに、コウモリは悪い」
 ともいえるが、元々、
「鳥と獣が戦争をしている」
 ということから始まったことで、戦争さえなければ、コウモリもそんな卑怯なことはしなかったわけだ。
 逆に考えれば、この方法は、コウモリにとって、
「生きていくための知恵」
 というか、本能のようなものだとは考えられないだろうか?
 動物には、
「生きぬくために本能であったり、身体が勝手に反応する」
 というものもあるではないか。
 たとえば、
「保護色で、相手に見つからないようにする」
 というものであったり、
「身体に毒を持っていて、食べようとすると、その毒で相手を殺してしまう」
 というものもあるではないか。
 それと、
「生きるために使う詭弁とは何が違う」
 というのだろうか?
 考えてみれば、この、
「卑怯なコウモリ」
 という話の中で、
「コウモリがついたウソ」
 で、誰が損害を被ったというのだろうか?
 もし、ここに犯罪性があるとすれば、必ず、
「被害」
 というものがあるはずである。
 しかし、ウソをついて、その場を逃れたとしても、別に逃した方が、相手から攻撃されるというような、危機を迎えたわけではない。
 ただ、
作品名:三つのわだかまり 作家名:森本晃次