小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

三つのわだかまり

INDEX|15ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

 ということであろう。
 一度不安定になれば、元に戻ってしまうというのは、まるで、
「バブルと、その崩壊」
 というものに似ているではないか?
 というのは、
「まるで、階段グラフと、正比例のグラフとが融合したかのようだ」
 という感覚である。
 つまり、
「階段グラフのように段階があるのだが、そのかわり、そこまでの間に、少しずつ坂になっているという状態である」
 そして、
「その坂を上っている途中に、気づいていなかった段階があり、そこで不意に風船が破裂したかのようになり、一気に奈落の底に落ちていた」
 ということである。
 その底には、何かがあるというわけではなく、真っ暗で何も見えない。そんなところにいたのが、店長であり、佐久間巡査部長だったのだ。
 何も見えない真っ暗な状態というのが、どれほど怖いか?
 それをその時初めて知った。
 だから、西島は、それから
「自分は暗所恐怖症なんだ」
 と思うようになり、同時に
「閉所恐怖症にもなった」
 ということであった。
 その閉所というのは、暗所からの結びつきだ。
 暗い場所では、まわりが見えないだけに
「暗黒が永遠に続いている」
 ということを感じさせる。
 だから、その永遠が怖いのだ。
 だが、その反動からか、まわりを探っていて、何も触れないことも怖いが。
「もし、そこに何かがあって、触れてはいけないというものだったら?」
 と考えると、恐怖でしかないということになるのだ。
 それを考えると、
「どうすればいいんだ?」
 と感じてしまい、頭の中がパニックになる。
 だから、
「それまで無限だと思っていたものが、密閉された空間だと思うと、身体から、必要以上の脂汗が出てきて、完全に、呼吸困難になってしまっている」
 それこそが、
「パニック障害ではないか?」
 といえるのだろうが、中学生の少年にそんなことが分かるはずもない。
 ただ漠然と、
「俺は何かの精神病なんだ」
 とは感じるだろう。
 ちゃんと病名が分かっていて、説明を受けていれば、それほど惑うことはないのだろうが、自分で漠然と感じてしまったことは、そう簡単に拭えるものではない。
 それを思うと、
「万引きというものを無意識にしてしまった」
 というのも、無理もないことなのかも知れないということであろう。
 ただ、万引きというのが犯罪であり、
「俺がそんなことするはずないじゃないか?」
 という意識があるのも分かっていることであった。
 だから、万引きをしたといっても、無意識のことなので、正直、店長に見つかった時も、
「簡単に許してくれるだろう」
 と思っていたのも事実だった。
 しかし、だんだんと店長がイライラしだしたのが分かった。こっちは無表情であったが、実際には、焦っていたのだった。
「顔色を変えると、相手が怒り出す」
 という思いがあったからで、
「決して店長を刺激してはいけない」
 と思っていたのだ。
 だから、無表情になったのであって、これも意識してのことではなかった。
「そうしなければいけない」
 という思いからしようと思っているが、自分で思っているようにはできなかった。
 だから、無表情でありながら、自分が想定した無表情ではなく、相手に怒りを増幅させるものになってしまったというのは、計算外というよりも、
「これから俺の無表情には、危険性を伴うことになるんだな」
 と感じたのだった。
 無表情というものが、相手に与える危険性がどういうものなのかということを、分かっていなかったことで、警察への連絡になったのだ。
 最初はそこで。
「終わった」
 と思った。
 これで、家族も学校にも知らされてしまって、自分の人生は、嫌でも変えられてしまうと感じたのだが、そう感じたことで、何やら、
「覚悟のようなもの」
 が固まった気がした。
 その瞬間、初めて自分が、
「他人事だ」
 と感じたのだと思ったのだ。
 他人事だと感じたのは、この時が初めてではなかったはずだ。
 しかし、それは、あとから考えて、
「あの時は、都合が悪いことだったので、他人事だと感じていたのかも知れないな」
 と思うことであった。
 その時同時に感じたことではなく、そんな思いを感じたことで、
「記憶と意識の間に時間的な歪」
 のようなものができて、結果として
「意識として残るものではなく、記憶に残るのではないか?」
 と思っていた。
 しかし、この時の万引きに関しては。
「記憶にすら残っていない」
 ということで、よほど、
「忘れてしまいたい黒歴史」
 ということなのだろう。
 確かに、
「初犯」
 ということで、佐久間巡査部長が許してくれたのだが、本人の中から消すことのできない事実としては残ってしまったのだろう。
 だから、そんな黒歴史を、思い出したくないという意識が必要以上に働き、
「思い出したくない」
 と思いながら、覚えていることが、無意識のことであれば、自分で納得できるということになるのだという感覚であった。
 だから、忘れているわけではないのに、
「無意識のうちに、記憶から消えていた」
 と思うようになったのであり、それがまさか、
「記憶に最初からなかったものだ」
 ということを分かっていなかったことで、
「まるで健忘症ではないか?」
 と感じるようになったのだ。
 それを思えば、
「俺は、とにかく物事を都合よく考えよう」
 という思いが強いという意味が分かった気がした。
 と考えるようになった。
 その思いは、万引きから、約10年というものが経った、今という時代だったのだ。
 ある意味、今のこの時期が、
「俺にとっての、あれから、何度訪れたか数えていないという節目であり、段階だったのかも知れないな」
 と感じたのだ。
 大学時代に、一度、たくさん友達を作った時、
「暗かった人生とはおさらばだ」
 と思ったものだ。
 しかし、大学時代に友達もできて、それまでの暗い人生が、まるでバラ色に感じるようになっていたにも関わらず、
「楽しい人生だ」
 と、その瞬間は思うのだが次第に、その感覚が薄れてきて、
「虚しさ」
 というものを感じるようになった。
 それは、
「一日一日は、結構長いのに、一週間一か月が、あっという間に過ぎてしまった」
 と思うようになったからで、
「最初はそれがよかったのだ」
 と思っていたが、それから次第に、まったく違う感覚に変わってきた。
 というのも、
「大学時代という夢のような世界は、たった4年しかないんだ」
 ということであった。
 しかも、3年生の途中からは、就活が始まることで、今までとまったく違う社会に出ることへの恐怖もあり、実際には、3年あればいいという楽しい時間なのに、時間が経てば経つほどあっという間に感じられるということが、恐怖でもあったのだ。
 大学生の時、ひょとすると、
「節目、段階」
 というものがどういうものなのかということに、気づいていたのかも知れないと感じるのであった。

                 人のふり見て
作品名:三つのわだかまり 作家名:森本晃次