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三つのわだかまり

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 しかし、このスパイラルは、結構うまくできているのかも知れない。
 本庁の刑事がいなければ、
「俺たちは、所轄の刑事に恨みだけを抱いて、捜査の邪魔になっているだけなのかも知れない」
 と思うのだ。
 そもそも、佐久間巡査部長も、最初は、
「いずれは、署の方の刑事課に配属されたい」
 と感じていた。
 それは、警察に入って最初の一年目だけのことで、それから先は、
「俺は、巡査勤務でいいわ」
 と思うようになったのだ。
 それは、やはり、本庁の刑事に怒鳴られたり、人間扱いされていないというのを見ていたからではないだろうか。
「あんな言われ方をして、俺は我慢できずにいられるだろうか?」
 と感じたからだ。
 佐久間巡査部長は、普段は、
「仏の佐久間」
 と言われるほどに、温和なのだが、何かのスイッチが入った時、前後不覚に陥るほどに、怒り狂ってしまうことがある。
 そのスイッチがどこにあるのか、本人はもちろん、まわりにもまったく分からないのであった。
 その意識は、佐久間巡査部長にはあったのだが、だからと言って、急に怒り出すことはないと思った。
 ただ、他の会社を知らない警察官は、きっと、
「警察ほど、理不尽なところはないかも知れないな」
 と感じている。
 特に、事件があった時など、偉そうにしているくせに、なかなか捜査が進んでいないということが分かると、
「警察なんて当てにならない」
 と思うのだ。
 そもそも、誰かがいなくなったりして、捜索願を出したにも関わらず、
「事件性がない」
 ということで、
「受理はするが、捜査はしない」
 ということを知ると、
「何かあってからでは遅いのに」
 と、地団駄を踏むことになる。
 何かことが起こるのを防ぐのが警察の仕事ではないのか?」
 と思うと、腹が立って仕方がないのだ。
 さらに、これが、
「ストーカー問題」
 というものに至れば、
「警察は何かないと動けないからな」
 と公然というのだ。
 庶民は、
「何かあってからでは遅い」
 ということで、警察に相談に来ているのに、それが、
「門前払い」
 ということになり、結局それが、
「相談者が、殺害された」
 という重大事件となり、警察は捜査と並行して、
「責任を誰に負わせるか?」
 ということを話し合うということになる。
 最初から親身になっていれば、こんな無駄な、
「責任転嫁」
 などなかったに違いない。
 それが、警察組織というものの姿であった。
 佐久間巡査部長は、西脇少年を助けた時は、そろそろ50歳くらいであった。
 だから、もう少しすれば、
「定年退職」
 という年齢になってきた。
 その間に、相変わらずの巡査部長で、
「ここまでくれば、このままでいい。できれば、後進にいろいろ教えてあげられればいいな」
 という程度であった。
 実際に刑事になる人でも、
「ノンキャリ」
 であれば、交番勤務から始まるのが当たり前であった。
 交番勤務を経て、やっと刑事として署の方に配属される。
 それが、ノンキャリと言われる刑事なのであった。
 これが、キャリアともなると、全然違う。
 というのは、
「キャリアで警察に入れば、最初は、警部補から」
 ということになる。
 しかも、ノンキャリが、少しずつでも昇進しようとすると、いちいち、
「昇進試験」
 というものを受けなければいけない。
 しかし、これが、キャリア組ともなると、
「警部補からの昇進には、昇進試験というものはいらない」
 ということになるというものだ。
 これが、ウソか本当かは分からないが、
「俺たち交番勤務には関係のないことだ」
 と最初から気にもしていなかったのだった。
 佐久間警部補は、60歳になるまで、
「西島少年」
 のことを半分忘れていた。
「万引きを見逃してやった」
 というのも日常茶飯事だし、
「こっちが覚えていたとしても、相手は覚えてなどいないさ」
 と思っていた。
 それはもちろんのことであり、
「万引きをしたことなど、黒歴史であり、早く忘れたい」
 と思って、努力して忘れているのが関の山だろう。
 ただ、西島少年はそうではなかった。万引きをしたということは事実であるのに、自分から忘れようとしているわけではないのに、
「覚えていない」
 ということで、
「これじゃあ、健忘症ではないか?」
 と思われるレベルであった。
 それは、きっと、本人が、
「悪いことをした」
 という意識がないからだろう。
 それは、最初からのことで、普通であれば、捕まってしまえば、
「自分の責任だ」
 ということは別にして、悪いことをしたという意識がないからだ。
 それは、
「万引きというのが悪いことだ」
 という意識があってのことである。
 そういう症状は、一種の精神疾患なのかも知れない。
 大人は、そう思って断ずることで、解決しようと思うのだろうが、本当にそうなのだろうか?
 悪いことをしていないと思い続けてきた人間が、
「あれは、本当は悪いことだったのではないか?」
 と感じると、どういうことになるか?
 そのことを、それまで誰も気づくということはなかったのだった。

                 万引きの真相真理

 西島青年が、佐久間巡査部長のことを思い出すきっかけになったのは、自分が就職してからすぐの時、仕事が終わって、帰り夕食の食糧を調達しようと思って立ち寄ったスーパーでのことであった。
 大学時代から、都心で生活をするので、一人暮らしをしていたが、就職も、最初は、
「地元に帰って」
 と思っていたが、なかなか地元での仕事もなかったが、都心部では、まだ少し求人に余裕があるのか、何とか、いくつかの内定をもらい、その中から、選んだ会社に就職していた。
 学生時代には、システム系を専攻していたのだが、就職したのは、金融関係の会社で、しかも、配属が経理部だったことは、少し不満であった。
 もちろん、その会社にもシステム部は存在し、10人くらいの部署で、賄われていたのだが、
「隣の芝は青い」
 ということわざにあるように、実に眩しく見えたのだ。
 そんな会社だったが、本社勤務なのは、ありがたかった。
 大学からも近いので、引っ越す必要もなかった。前のアパートのまま今も暮らしている。ただ、最近は、
「もう少し新しいところに引っ越せればいいんだが」
 と、思うようになってきた。
 経理部に配属というのは、少し不満であったが、給料はそこそこもらえているし、そういう意味では文句はなかった。
 しかも、
「住めば都」
 という言葉があるように、最初は嫌だと思っていた経理部であったが、やってみると、意外と面白いところもあったりする。
 そういう発見が一つ二つと出てくると、
「ここも悪くないな」
 と思うようになったのだ。
 しかも、ここにいれば、転勤というのもない。
 ということで、1年目と2年目とでは、考え方もだいぶ変わってきた。
 最初は、
「システム部に、移動願いを出そう」
 と、年度が変わった時に出すことができる、
「異動願い」
 であったが、
「もういいや」
 と考えるようになったので、結局、異動願いを出すことはなかったのだ。
作品名:三つのわだかまり 作家名:森本晃次