いたちごっこの堂々巡り
そもそも、白骨になるくらいまで時間が経っているのだから、
「もし、お互いが共犯だというのであれば、それぞれに、まったく知らない相手としてふるまっている方がいいに決まっている」
ということである。
この発想は、
「犯人が、犯行を犯してからすぐに、現場から立ち去りたい」
という心境に陥るのと、ほぼ同じだといえるのではないだろうか?
つまり、
「本能の感覚」
といってもいいだろう。
いくら時間が経っているからといって、いや、
「時間が経っているからこそ、余計に、二人のことを知られるのは、ここまで発見されなかったことを思えば、よかったということにならないか?」
と感じるのだ。
だが、考えてみれば、
「どこかのタイミングで発見されなければいけない死体」
というのもある。
例えば、動機が遺産相続ということであったとすれば、行方不明のままでは、遺産相続が開始されない。
死体が発見されず、行方不明のままであれば、
「失踪届」
というものを出してから、7年が経たなければ、死亡したことにはならないわけで、しかも、
「死亡が確定したとしても、そこから相続手続きまでには、いろいろと時間もかかるだろう」
ということで、それを考えると、
「目的完遂」
のためには、早く死体が発見されてほしいが、かといってあまり早ければ、
「犯人にとって都合が悪いということになりかねない」
ということであろう。
それを思うと、
「犯人が誰であろうと、発見されたということは、ここから、事件の時間がまた動き出した」
ということになり、警察としては、
「ここから事件が始まる」
ということになる。
まずは、鑑識の報告が先決であり、
「いつ死んで、どのように死んだのか?」
ということになる。
しれによって、
「殺人なのか?」
あるいは、
「死体遺棄なのか?」
ということが分かるというものである。
この事件においては、発見者に話を聞くだけが、初動捜査というものだろうということであった。
ただ、警察としては、証言と、実際が違ったことがあった。
それは、
「あの死体を発見者の二人は、白骨死体だとおっしゃいましたが、性格にいえば、腐乱死体になるんですよ。また少しですが、肉の部分や内臓、皮膚の部分も残っていました」
と衝動捜査を終えて署に帰った刑事は、捜査本部でそういった。
「なぜそれを二人に告げなかったのか?」
というと、
「あの二人はただの発見者ということですから、気持ち悪い思いをさせる必要はないと思いまして」
ということであった。
実際に見たのであれば、そこまでは気持ち悪いものではないかも知れないが、
「内臓や皮膚まで残っている」
などという生々しいことを口にすれば、間違いなく想像してしまい、白骨だと思っていたものが違ったということになると、それはそれで、吐き気を催すくらいになるのは、必定だと思うのだった。
それを上司にいうと、
「それはそうだな、下手に刺激して、発見時の正確な話が聴けないということはまずいからな」
ということであった、
それを思うと、
「警察も、結構気を遣っているんだな」
と、発見者の二人がこれを知ると、そう思うかも知れない。
そんな状態で、
「第一発見者が二人だった」
というのは、何かあるのかも知れない。
しかし、それは、捜査本部では、その時はあまり気にすることではなかったが、鑑識がもたらした情報から、何か胸騒ぎが起こるような気がしてきたのだった。
鑑識が情報をもたらしたのは、その死体の発見の翌日の昼前くらいであった。
捜査本部では、ちょうど、初動捜査の報告と、付近の聞き込みの第一段階くらいを終えてからのことだったのだ。
付近の聞き込みといっても、
「死体が腐乱死体」
ということでは、
「少なくとも、半年くらいは経っているだろう」
ということで、聞き込みにいっても、ピンポイントで聞くわけにもいかない。
大体の死亡推定の日時が分かったとしても、そんな古いことを誰が覚えているというのか? 分かったものではない。
そういう意味で、
「この事件は最初から難しい」
ということは分かっていた。
ただ、その考えが、鑑識の報告で、少し変わってきた。
というのは、
鑑識の報告として、最初は、形式的な話がされたのだが、
「死体は大体、死後半年前後と思われます。そして、死体ですが、どうやら、一度内府で刺されてから、首を絞められたというのが正解ではないかと思います」
というと、
「その根拠は?」
と本部長が聴くと、
「ナイフでえぐった角度は、肋骨の損傷具合で分かります、どうやら、それが致命傷ではなかったようで、そこで首を絞めたのではないかと思うんです。もちろん、ここまで腐乱していると、確実だとは言えませんが」
というのであった。
「よし分かった」
と本部長はそういって考え込んでいたが、その横から副本部長が機転を利かせて、
「本部長は、先日の隣の署で起こった殺人事件を思い出しておられるのでは?」
というと、
「ああ、そうなんだ」
と本部長はいった。
その事件とは、
「最初に首を絞められて、その後ナイフで刺され、絶命した死体が発見された」
という事件であった。
その事件は、その場で発見されたもので、発生が今から4か月くらい前のことだった。もちろん白骨になっているわけではなかったのだ。
その二つの事件がいかに結びついてくるのかは、その後の事件の進展によることになるだろうが、そのキーになるのが、
「一度では殺せなかったということなのか、二度も凶行に及んでいるということで、そこに、それだけの動機が含まれているのか?」
ということで、この事件が、
「凶悪犯によるものかどうか?」
ということになり、下手をすると、
「連続殺人となるのではないか?」
と思われた。
しかし、今のところは何も分かっていない。
「それぞれはまったく別の事件だ」
ということでしかない。
何しろ、
「こっちの事件は、今発覚したところだ」
ということだからだ。
それに、一番大きな違いというと、
「一つの事件は、穴に埋められていて、もう一つは、普通に発見された」
ということである。
これだけでも、
「二つの事件はまったく関係ない事件ではないか?」
といえるのではないだろうか。
それを考えると、
「これは、連続殺人事件ではなく。不連続殺害事件」
といってもいいのではないかと考えるのだ。
埋められていたということだけでも、
「殺人事件には変わりはないが、殺人者と、死体遺棄とが本当に同じ人間なのか?」
ということを、刑事の中には考える人がいるからだった。
誘拐事件
「白骨に近い状態の腐乱死体」
というのが見つかって、少ししてのことだった。
「誘拐事件」
というものが、表に出てきたのだった。
発覚したのは、誘拐された子供の親が、警察に事件を通報してきたことから始まった。
警察とすれば、
「誘拐なんて、そんな簡単にできるものではない」
と思っている。
もちろん、だからと言って、
作品名:いたちごっこの堂々巡り 作家名:森本晃次