いたちごっこの堂々巡り
といわれるまでの、寸時に感じていたようだった。
男に言われて、寄り添うようにして歩いていると、男の心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
「この人も緊張しているんだ」
と思った。
「一人だったら、絶対にこんなことはしない」
と思ったことで、彼にとっても、彼女がいることは心強いということであろうか?
男とすれば、
「発見してしまったものを、知らなかったということでその場をスルーしてしまう」
ということになると、
「気になって、その日眠れないんじゃないか?」
と感じたのだ。
彼女としても同じことで、だから、その場から立ち去れなかったというのも分かるというものだ。
しかも、男に声を掛けられるまで、そんなに時間が掛かっていないと思っていたが、いくら男が歩くのが早かったとはいえ、彼女に追い付くには、数分は掛かったことであろう。
それを思うと、彼女は、
「自分の中で、何かの覚悟をもつには十分な時間だったかも知れないけど、彼としては、瞬時のことで、まだまだ戸惑っているのかも知れない」
と感じた。
だから、胸の鼓動の大きいのは分かる気がするのであって、
「彼にとって、私も頼もしい存在なのかも知れない」
と思うと、彼女としても、
「自分の存在が、男性にとって頼もしいと思わせるのだとすれば、これほど愉快なことはないだろう」
と感じたのだ。
ただ、それはまだ、そこに何があるのかということが分からない状態だっただけに、彼女には、まだ余裕があったといえるのだろう。
「うわっ」
と男が声を挙げたので、彼女は、反射的に、その場から目をそらした。
本当であれば、反射的にその方向を見るものだと思っていた彼女としては、自分が思っているのと正反対の行動をしたことにびっくりしてしまった。
「どうしたことなんでしょう」
と感じたが、いつまでも目をそらしているわけにもいかず、今度は、恐る恐る見つめた。
「あっ」
彼女も、思わず叫んでしまった。
掘り起こされたであろう土の中から、何か白いものが光っているようにさえ見えた。その光景は、明らかに不気味なもので、彼女はそれを、
「考古学の発掘現場」
にでも入り込んだ気がしたのだ。
光っているように見えたのは、何か厚めのビニールシートが光っているからだったのだが、その白いものも光っているように感じた。
掘り起こされた土が、丁寧に、山のように築かれていたのも印象的だったのだ。
そのビニールシートに包まれたものは、いくつか発見された。光っていることで、それが何か分かるまでに、そんなに時間が掛からなかったと思ったが、さっきまでの経験から、
「本当にそうだろうか?」
とも感じたのだった。
「急いで警察に連絡しないと」
と男はそう言って、スマホを取り出し、警察に連絡しているようだった。
彼女はその白いものから目が離せなかったが、気持ちは半分放心状態になっていて、警察家の連絡が終わった彼から、
「警察がすぐに来るから、俺たちも待っていないといけない。もう少し明るいところに行こう」
といって、近くのベンチに座ったのだ。
「警察が来るまで、見えるところで見張っておかなければいけないだろうね」
と彼がいうので、
「現場保存ということ?」
と聞くと、彼は頷いた。
その様子を見て、
「ああ、私たちは、何か犯罪に絡むものを発見したんだ」
ということを、その時に、やっと理解した気がした。
それにしても、さっきのあの白いものが、
「人間の白骨死体だ」
ということは分かった。
だとすれば、
「殺人事件」
ということなのか、それとも、
「死んだ人間を穴に埋めた」
ということでの、
「死体遺棄事件」
のどちらかであることに違いない。
そこに、
「何かの組織がかかわっているのではないか?」
と、彼女は感じたが、
「ああ、ミステリー小説の読みすぎかしら?」
と感じたのだ。
ミステリー小説は確かに好きで、よく読むことはあるが、
「謎解きしてみよう」
と思って読み始めても、結局最後は、
「その謎解きの描写に魅了されて、自分で考えるということをしなくなっている」
ということに気づき、
「ああ、そこまで考える必要なんかないんだ」
と感じて、
「やっぱり読書というのは、受動的な趣味なんだ」
と思うのだった。
「静かな場所で、読書を楽しむ環境を自分で作って、本を読む」
それこそが、
「高貴な趣味」
だといえるのではないだろうか?
そんなことを思って、ミステリー小説を読んでいたが、まさか自分が、死体の第一発見者になるとは思ってもみなかった。
しかし、それでも死体というのが、
「たった今殺された」
という生々しいものではなかったのが、せめてもの救いであろう。
しかし、白骨というのも、想像しているよりも、かなりのショックだった。
「だとすれば、これが本当の生々しい死体であったら、もっともっとショックが大きかったはずだ」
と感じることであろう。
警察は、それから10分くらいしてから来た。
今回は、それほど、感覚的なものと、実際の時間に差はなかった。
「男性が一緒にいてくれているからだろう」
と彼女は思ったが、
「まさにその通りだ」
ということであった。
警察というものがどういうものなのか、刑事ドラマやミステリー小説などで知っているつもりだったが、初動捜査では、やはり、捜査の邪魔のないところまで行かされて。そこで、事情を聴かれるということになったのだ。
「お二人はお知り合いで?」
と刑事が最初に聞いてきたということは、
「刑事が見ても、知り合いじゃないと見えたからなんだろうな?」
と彼女は感じた。
彼女が答える前に、彼が答えた。
「電車の中で見かけることはありましたが、会話をしたことはありません。今日は彼女が、あの現場の前で佇んで困惑した様子だったので、声を掛けたんです。すると、その茂美の中で犬が何かをまさぐっていたということで気になると言ったので、じゃあ僕が確認しようということになって、その場所に入ってみたんです。すると……」
といって。彼は、口をつぐんでしまった。
「分かりました」
と刑事がいうと、
「じゃあ、それぞれでお話をお伺いしましょうかね?」
といって、もう一人の刑事を呼んで、それぞれに、話を聞くことになったのだ。
「まさか口裏を合わせているとでも、刑事さんは感じたのかしら?」
と彼女は思ったが、
「警察としては、これが当たり前なのかも知れない」
とも思ったのだ。
警察がきた時、一緒に鑑識も来ているようで、第一発見者の二人は、どうやら二人とも、その死体が、
「完全な白骨」
と思っていたようであった。
二人、それぞれに話を聞いているので、
「口裏を合わせる」
ということができるわけもなく、共犯でもない限りは、二人の意見が一致するというのは、
「本当に共犯なのか、それとも、それ以外の発想が思い浮かばないほどに、そう見えた」
ということになるのであろう。
警察は、
「まさか、こんなに古いものを発見したタイミングで、共犯とは思えない」
と考えた。
作品名:いたちごっこの堂々巡り 作家名:森本晃次