いたちごっこの堂々巡り
ということになるのであった。
だから、本部はピリピリとした状況に包まれている。
そういう意味では、警察が取り扱う事件の中で、一番厄介なのは、
「誘拐事件ではないか?」
ということになるだろう。
ただ、他の人に言えば、
「そんな単純なものではない」
という人もいるかも知れない。
それは、
「誘拐というものを見くびっているわけではない」
というのも、
「やくざがらみの事件、特に麻薬捜査などでは、内偵というものが大変だ」
ということで、それこそ、
「命がけの捜査だ」
というものもあるだろう。
「警察の捜査に、楽なものなんかあるわけはない」
と思っている人も多いだろう。
特に警察というのは、
「犯人を逮捕し、証拠を固め、自白に追い込んだところで、検察官が裁判所に起訴する」
というところまでなのだが、
「実際には、そこで刑が確定し、犯人がちゃんと刑期を終えて、再犯はしない」
ということが分かってしまうところが、犯罪というものだ。
といっている捜査官がいるが、まさにその通りである。
「刑事ドラマなどでの、刑期を終えて、ムショから出てきたところを、逮捕した刑事が待っていて、就職の世話をしてやる」
というところまで、面倒見るということが、よく言われているではないか。
本当に実際にそこまでできるかというのは疑問であるが、捜査員がそこまで考えていれば、
「犯罪なんかなくなるのかも知れないな」
と思う人もいるだろう。
もちろん、落胆的ではあるが、捜査員が皆気持ちの上でそれだけのことを考えていれば、少なくとも、
「警察が市民から嫌われる」
ということもないだろう。
そもそも警察というのは、
「市民から嫌われてなんぼ」
と思っている人もいるだろう。
だから、警察幹部は、
「庶民に愛される警察」
というものを目指している。
その理論として、
「警察が威厳を持っていれば、庶民は警察を尊敬してくれ、捜査にも進んで協力してくれる」
と思っている人も上層部には多いことだろう。
というのは、実際には、難しいことなのかも知れない。
それは、
「昭和の刑事ドラマなどを見て育った人にとっては、警察というところは、自分たちの手柄しか考えていない」
と考えるだろう。
そして、平成のトレンディドラマ以降であれば、
「縄張りという管轄問題としての横のつながり」
であったり、
「キャリア組とノンキャリという、上下の関係」」
というものが、まるで、結界のように、警察内部で雁字搦めになっているということから、
「警察を誰が信用するというものか」
と考えるのであった、
確かに昭和の頃も、平成以降であっても、そういうドラマは、
「視聴率優先」
ということで、
「警察というのは、何があっても、市民にこびることはない」
と思い込んでいる人も多いことだろう。
警察も、本当はそんな放送は困ると思っていることだろう。
しかし、
「事実じゃないんですか?」
といわれたりすると、引き下がるしかないかも知れない。
「警察が、放送局と喧嘩になった」
などということになると、
「それこそ、マスゴミの恰好のネタだ」
ということになるだろう。
「人のうわさも75日」
といわれるが、本当にそうであろうか。
特にマスゴミが騒いだことなどは、結構長く騒がれる。
特に、
「警察と放送局の喧嘩」
などという、片が付くわけなどないというような話題には、庶民は、
「これ以上のごちそうはない」
ということで飛びつくことだろう。
どこまで行っても、
「交わることのない平行線」
ということなので、どちらかが疲れてくれば、何らかの結論は出るであろうが、それまでの道のりというのは結構激しく、
「誰も止めることはできないだろう」
ということになるであろう。
それを考えると、
「今のところ、マスゴミにはかん口令を敷いているが、あまり長いと、マスゴミも、その仕事上、黙ってもいられなくなる」
というものである。
警察は、犯人と、被害者の家族。
そして。マスゴミと、三方を敵にしなければいけない。
それぞれに、共有することはないのだろうが、どれが相手であっても、手ごわいのは分かっている。
「どれを優先順位ということにするか?」
ということが問題なのだ。
「副本部長、実は、この事件、まさかと思うのですが、狂言誘拐ではないかと考えるんです」
と、呼び刺した刑事が言った。
副本部長は、それほど驚いた様子がないことに、一同は、今度は、
「自分たちが驚くことになる」
と感じたのだ。
というのも、
「どういうことなんだ?」
と普通であれば聞いてくるはずのことなのに、考え込んでいるというのは見て取れるが、それ以上の質問をしてこないというのはおかしい気がするのであった。
それを見ていた、最初に、
「狂言誘拐」
ということを考えた部下は、
「朝、封書が届いたのは、お聞きになりましたか?」
と副本部長にいった。
「ああ、聞いた」
と答えたのを聞いて、
「あの封書には、消印というものがなく、実際に屋敷に設置されている防犯カメラに投函している様子はどこにもないんですよ」
というと、
「君は何が言いたいんだね?」
と、副本部長は、さらに考えながら言った。
普通であれば、平のぺいぺいの刑事が、話しかけるなど、
「恐れ多い」
といってもいいところなのだろうが、上司と一緒ということで話をしているのだが、やはり、そこか、
「上下関係」
というものを意識しているのか、若手刑事も、副本部長も、それぞれにぎこちなくて、歯車が?み合っていないかのようだった。
それを見ていた上司は、
「何とか、話だけは通じるようにしないと」
ということで、うまく話をつなげようとしているのだった。
「警察としては、組織捜査が基本であり、この原則を崩すわけにはいかない」
というのが、キャリア組にとっての考え方であろう。
そういう意味では、副本部長の立場からは、
「組織捜査を崩さないようにするために、自分がいる」
というくらいに考えているであろう。
それを思えば。今話していることは、ある意味、
「暴挙に近い」
といってもいいだろう。
しかし、それくらいのことをしないと、
「事件は解決しない」
と言ってもいいだろうから、この際、
「警察の威信」
ということを考えると、
「事件の性格的」
にいっても
「早期解決」
ということが望ましいのである。
だから、警察官一人のプライドなどは関係ないといってもいいだろう。
そうでもしなければ、解決しないということであるし、もし、本当に狂言誘拐であれば、
「交わることのない平行線」
ということになり、
「警察のメンツは失墜する」
といってもいいだろう。
そうなると、警察とすれば、
「事件は解決しない」
「市民からは信用されない」
という、
「踏んだり蹴ったり」
ということになるに違いない。
作品名:いたちごっこの堂々巡り 作家名:森本晃次