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時代背景の殺人事件

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 兄と弟は、8歳くらい年齢が離れている。どうしてこんなに離れているのかというと、最初は、
「子供は一人でいい」
 といっていたのは、母親だった。
 そもそも、精神的に鬱になりやすいタイプだったので、子育てにストレスがたまっていたのだった。
 だから、しばらくは、子育てに集中ということで、
「子供はいらない」
 といっていて、父親も、
「それでいい」
 と思っていたのだ。
 だが、母親のどこに心境の変化があったのか、弟が生まれた。それが、康人だったのだ。
 康人は、兄のことが嫌いだった。性格的に、いつもいじいじしていて、ハッキリしたところがない。
 そして、それは、
「一人っ子として生まれた長男の性格」
 という、いわゆる、
「よくある長男」
 ということであった。
 ただ、そんなところに弟が生まれた。小学4年生になって、弟が生まれたことで、母親は、弟にかかりっきりになった。兄とすれば、面白くないだろう。
 だが、康人が幼稚園に通うようになる頃から、父親は少し変わった。
 兄の方を気にするようになり、まだ幼稚園生の康人に対して、厳しく当たるようになったのだ。
 それは、兄の勇作の幼児時代とはまったく違っていた。
 兄は、父親からも甘やかされていたのだという。
「それが間違いだった」
 とでも、父親は思ったのだろうか。
「兄の、いじいじした性格を、育て方を間違えたとでも思ったのかも知れない」
 ということであった。
 だから、父親は、その頃から、
「父親の威厳」
 というものを示しだしたのだと、中学生になった康人に、母親が教えたのだ。
 ただ、母親も詳しい理由を知らなかったようで、
「お父さんの考えることだからね、お母さんも逆らえないし、何を考えているのか分からなかったわ」
 というのであった。
 母親は、
「父親の威厳」
 というものに逆らえない性格ではあったが、バブルが崩壊し、表にパートで働きに出るようになると、性格が明るくなったのであった。
 子供の康人に分かるわけはなかったが、兄にも分かっていなかったことだろう。
 すでに、大学生になり、家に寄りつかなくなった兄は、大学生活を謳歌していたことだろう。
 就職活動で帰ってきているとはいえ、
「こっちに就職したって、実家になんか、帰ってくるものか」
 とうそぶいていたのだ。
「どうせなら、大学の近くで就職したいんだ」
 といっていた。
「家族の影響を受けないところがいい」
 といっていた。
「一人暮らしをしているにも関わらず、何をいまさら、そんな言い方をするんだろうな?」
 と康人は思っていたが、
「さすがに性格がいじいじしているだけのことはある」
 と中学生ながらも感じるのであった。
「中学生というと、思春期で、大人への階段を上っている最中だ」
 といわれるが、そういわれるのが、あまりうれしくなかった康人だった。
「大人への階段などという、まるで葉が浮くようなセリフは、それこそ、父親にこそふさわしい」
 と思っていた。
 それこそ、
「世間体というものしか気にしていないように見える父親を、いつも嫌だと思うようになっていた」
 と、康人は思っていた。
 もちろん、
「父親の威厳」
 というものが本当に嫌だと思っていたのも、無理もないことであり、
「ただ、それ以上に嫌いな部分がある」
 と感じるようになったのは、中学に入ってからだった。
 特にそれを感じたのが、2年生の時の正月だったか、クラスメイトの仲良しグループが、4人いたのだが、その友達の家に元旦から遊びにいった時のことだった。
 遊んでいて、
「皆楽しそうに遊んでいるから、今日は泊っていっていいわよ:
 と友達のお母さんがそういってくれたのだ。
 そこで、皆自分の家に電話して。許可を得ていた。それが、友達のお母さんが出した、
「お泊りの条件」
 だったのだ。
 それは当たり前のことで、他の3人は、ちゃんと許可が出て、円満に泊ることになったのだが、康人の場合は、家に電話を掛けると、
「帰ってきなさい」
 というばかりだった。
 理由を聞くと、
「お父さんが帰って来いっていうのよ」
 というだけで、父親の真意を言おうとしない。
 結局、泊ることができず、康人は、屈辱に、身を震わせながら、涙を流して、家路を急ぐのであった。
 皆が泊るのに、自分だけが泊れないなどという屈辱は、耐えられるものではない。
 何も悪いことをしているわけではないのに、皆から、
「気の毒だ」
 というような視線を浴びせられ、それこそ、
「なんでおれだけ、こんな目に遭わないといけないんだ」
 と思いながらの強制送還である。
 ただ、家に帰ればどんな目に遭わされるかということは分かっていた。
 それでも何とか家に帰ると、父親は震えながら待っていたようだ。
「ただいま」
 といって、
「屈辱的に震えている顔を見せたくない」
 という思いと、
「父親がどんな顔をしているか分かるだけに、父親の顔を見たくない」
 という思いとで、急いで部屋に帰ろうとすると、案の定、父親が、
「康人。ちょっと来い」
 といって、呼び止めた。
「来た」
 と思ったが、もうその瞬間から、
「ヘビに睨まれたカエル」
 となってしまい、正直ビビってしまったが、それが一番嫌だったのだ。
 無言もまま父親の前に出ると、間髪入れずに、頬を叩かれた。
 これも分かっていたことではあったが、その悔しさは、
「さらなる怒りを感じさせられたが、それ以上に、怒りとともに、憎しみが湧いてきたのだった」
 そして、
「もし、父親に殺意のようなものを抱いたことがあるか?」
 と聞かれると、
「この時だ」
 と答えるに違いない。
 父親がどのような心境なのかは、正直分からないが、
「帰ってきてから、いきなり殴るだろう」
 ということは、想像がついていた。
「なんでいきなり?」
 と他に見ている人がいれば、委縮してしまって、顔も合わせられないだろう。
 母親も何も言えずに、委縮している。しかし、その心境はまったく違うかも知れない。
 それは、康人に対して、
「何、余計なことをしてくれちゃったのよ」
 という感情であろう。
「正月くらい、おとなしくしていればいいものを」
 といいたいのだろう。
 それだけ、
「父親といると、肩身が狭い思いになる」
 ということに嫌気がさしていたはずだ。
 それに、これくらいのことは、母親も分かっていたことだろう。だから、電話口で、
「お父さんがいうから」
 としか言えなかったのだ。
「自分には分かっているが、それを口にしたくない」
 ということからであっただろう。
 というのは、それを言ってしまうと、
「自分で認めることになるからなのかも知れない」
 ということだったのだ。
「私は、そんなお父さんのへそを曲げさせた、あなたを許さない」
 とでも言いたげだった。
 その日から、康人は、
「あれは、本当に父親なのだろうか?」
 と感じるようになってきた、
 そして、
「あれが父親じゃないとすれば、あの母親も違うんじゃないか?」
 と思うようになった。
 中学生になれば、もう知識は大人である。
「父親が違う」
作品名:時代背景の殺人事件 作家名:森本晃次