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時代背景の殺人事件

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 母親は、その時のアリバイを、
「パートが5時に終わり、そこで食事を摂ってから、買い物をして帰ってきた」
 ということであったが、スーパーで母親が目撃もされていないし、防犯カメラにも映っていなかった。
 食事を摂ったところでも、ハッキリとした証言をする人はいなかったので、
「限りなく黒に近い」
 ということであった。
 そして、第一発見者になった兄は、
「アリバイに関しては、ないに等しい」「
 としか言えないのだった。
 実際に、
「鉄壁のアリバイがある」
 という康人は、この時点で、嫌疑から外れる。
「さすがに、中学生の子供が」
 ということで、嫌疑から、最初から外れているようなものだったので、ほとんど捜査線上に浮かんでくることはなかった。
 それは、本人の康人にも分かっていることであり、
「兄や母が疑われているということで、気まずいのはしょうがないが、事件に関しては、ほとんど他人事だ」
 という意識を持っていることであろう。
 次に問題となるのは、
「動機」
 というものであるが、これは、調べれば調べるほど、胡散臭さというものが、ここの家庭には渦巻いていたということが分かってきた。
 普通に何もなければ、
「誰にも知られたくない」
 というような状況であり、
「家族という意味では、誰もが誰かを憎んでいて、勝手な行動をそれぞれでしている」
 ということが明るみに出てくる。
「今の時代、そんな家庭結構多いのかも知れないな」
 というのは、
「最近の事件で、家庭騒動を調べていると、出るわ出るわ。叩けば埃が出るというような家庭ばかりだった」
 といってもいいだろう。
 バブルが崩壊し、一時は、
「天国から地獄」
 ということで、世の中大混乱ということであったが、少し落ち着いてくると、
「世の中がかなり様子が変わった」
 ということもあって、
「どん底の家庭」
 ということでもなければ、
「なんとなく、平和な時代」
 ということで、表向きには、落ち着いているように見えるのだ。
 しかし、その裏では、それぞれに秘密を持っていて、その秘密をひそかに楽しみにしていることで、それぞれが、持っているだけに、
「他人のことは詮索しない」
 という風潮になってきた。
 これは家族であっても同じ」
 ということで、逆に、
「家族だからこそ、そうなのかも知れない」
 ということであった。
 下手をすれば、
「家族に対しての裏切りを、皆、ひそかに持っている」
 ということで、それがあるから、
「家族としての均衡が保てる」
 ということで、それまでの時代の、
「父親の威厳」
 というものによって保たれている均衡が、本当によかったのかどうか。なんともいえない時代であった。
 そもそも、
「殺された父親」
 にも、大きな秘密があった。
 それは、会社の女性と不倫をしている。
 ということであった。
 給料がそれほどもらっているわけでもなく、家族に怪しまれているわけでもないと思っている父親は、不倫といっても、相手の女が、
「金目的ではない」
 ということで、ある意味、
「うまく引っかかった」
 といってもいい。
 しかし、
「それではその不倫相手に、どのようなメリットがあったのか?」
 ということになるが、それは、彼女も別に金目的ではなく、入ってきたのは、派遣社員としてであった。
 その頃から、
「派遣社員」
 という
「非正規雇用」
 というものが流行り出した。
 それにより、正社員のやっていた仕事の一部を派遣社員に引き継ぐことになり、父親の仕事を引き継いでくれるために、
「引継ぎをしている」
 という時に、
「間違い」
 が起こったということであろう。
 しかし、二人の間で、これを、
「間違いだ」
 とは思っていない。
 父親の方は、家に帰っても、それまでのような、
「父親の威厳」
 というものはなく、母親もパートで働き出したことから、家に帰っても、今度は肩身が狭くなり、さらに、そのうちに、
「家事を手伝わされたりするのではないか?」
 と思うと、
「家に帰るのが嫌だ」
 と思うようになった。
 バブル時代が、毎日のように、皆が寝てからの帰宅だったので、少々遅くても怪しまれることはない。
 それを思えば、
「不倫するくらい、毎日じゃなければいいだろう」
 と思っていたのだ。
 相手の派遣社員の女性も、旦那に黙っての不倫だった。相手は、
「旦那が嫌いになったわけではない」
 という。
 ただ、今までの、
「父親の威厳」
 だけしか知らなかったので、会社に入って、
「やっと自分の居場所を見つけられた気がする」
 といって、生き生きと仕事ができることが嬉しく、それを会社の人が当てにしてくれたり、ほめてくれたりすることが嬉しいということであった。
 それを考えると、
「これほど楽しいことはない」
 と、まるで、鳥かごから放たれた今までの専業主婦としては、生きがいを見つけたことで、それを与えてくれたと思っている、谷口に好意を持ったとしても、それは無理もないことだといえるだろう。
 そうなると、
「お互いの利害が一致した」
 ということで、しかも、お互いに伴侶がいるということで、
「それぞれ求めあうようになるまでに、そんなに時間が掛からなかった」
 といってもいいだろう。
 それを考えると、
「バブルが弾けたことで、それまでの家庭というものも、一緒に崩壊し、家庭皆の目が、一気に外に向いた」
 ということになったのだろう。
 だから、
「不倫」
 という言葉が多くいわれるようになった。
「浮気」
 という言葉のように、本気になっていない状態で、一種の、
「アバンチュール」
 のようなものではないとなると、問題は、深刻ではあるが、気持ちは分からなくもない。
「恋愛」
 というものと、
「貞操」
 というものが、dのような関係性にあるかと考えると、
「貞操観念は、バブルのように、崩壊してしまうと、あっという間の不倫に発展してしまう」
 ということで、それを、
「恋愛感情だ」
 として考えるようになるのかも知れない。

                 真犯人とは?

 父親がW不倫をしているということを知ってか知らずが、母親も不倫をしていた。
 こちらは、それこそ、まるで当時よくあった、午後1時くらいからの、
「昼メロ」
 と呼ばれるような話が中心だった。
 平成の途中くらいの、
「テレビ番組の編成が、大幅に変わった」
 といわれる時期に、変革された番組体制というのは、ゴールデンタイムに限らず、昼の番組も、大きかった。
 むしろ、昼の番組こそ、変革が大きかったのかも知れない。
 というのも、それまでの昼間は、
「専業主婦が見る番組」
 というのが多かった。
 正午くらいからは、会社でも昼休みということもあり、ワイドショー関係が多く、バラエティが中心だった。
 そして、昼休みが終わっての、最初のアフタヌーンとして、そこから1時間は、
「専業主婦の番組」
 ということで、
「昼メロ」
 というのが多かった。
 毎日、平日に放送するので、時間としては、当時のドラマといえば、
「1時間番組」
 というのが多い中で、
「30分」
作品名:時代背景の殺人事件 作家名:森本晃次