二重人格国家
恐る恐る見てみると、
「うっ、何か臭う」
と感じた。
その臭いは、子供の頃の記憶ばあるが、だからと言って、その臭いを、
「まるで動物のようだ」
といきなり感じたわけではないと思えたのだ。
動物だという意識はあったが、そう思えば思うほど、
「人間の悪臭ではないか?」
と感じた。
すると、すぐに感じたのは、
「血の臭い」
ということであった。
確かに、動物の血の臭いはきついものだ。実際に屠殺場のある工場に工場見学に行ったことがあったが、その時の臭いを思い出した。
しかし、あの時よりも、もっと臭いがきつかった。
というのは、もっと昔の記憶で、
「そう、まだ小学生の低学年くらいだっただろうか?」
友達の家に行って、友達の家は旧家と呼ばれるようなところで、その場所に納屋があり、その納屋の階段が急だったこともあり、今まで昇ったこともない、
「急で、小さな階段」
というものを、低い状態の手すりを持って、怖がりながら昇ったのだが、さすがに、うまく上がれるはずもなく、半分くらいなでいったところで、階段から足を踏み外したということであった。
実際に、後ろに向かって落ちたのだが、下は、コンクリートになっていて、肘を思い切り打ってしまい、そこで、肘を擦りむいた。
その痛みから、感覚はマヒして、家の人が急いで飛んできて、応急手当をしてはくれたが、その慌て方が尋常ではなかったので、
「これは、相当ひどいんだ」
ということを、子供心にも感じたことで、痛みがさらに倍増しているのであった。
それを思うと、救急車が来るまで、思ったよりも時間が掛かったような気がして、やはり、その時の臭いが、まわりに充満しているようで、痛みもさらにひどくなってしまった。
その時の血の臭いは、あとで社会見学でいった。
「屠殺場」
などと比べ物にならないほどだったので、まだ何とか耐えられた。
そんなことを感じているうちに、用具の用意をしている2人も、何かの違和感にやっと感じたのか、
「これは、なんだ? 何か、ひどい臭いがするんだけど」
と一人が言い出すと、もう一人は、
「お前もそう思っていたのか? 二人とも何も言わないから、俺の勘違いだと思ってしまったんだ」
というではないか。
「それはこっちのセリフだよ」
というのだが、二人に対して。
「やっと気づいたのか」
といいたかったが、
「それだけはいってはいけない」
と感じたのだ。
その時の地の臭いが、
「人間の地の臭いだ」
という認識で、他の動物の地の臭いよりも、最初に人間のものを感じたということで、それだけ、
「血の臭い」
というものに対して、相当気持ち悪いものだという感覚になったに違いない。
だから、敏感にもなった。
ただ、今までに、そんなに人間の地の臭いを嗅ぐということは、今までにはなかった。
最初が印象的だったわりには、それ以降では一度もなかったので、それこそ、
「まるで昨日のことのように思い出せる」
ということであり、
「ああ、時系列で感じることができない時というのは、こういう意識を感じた時なのではないだろうか?」
と感じたのだ。
確かに、大学に入った時の感覚で、
「高校時代は、ずっと昔のように感じるのに、小学生の頃のことが、まるで昨日のことのように思い出せる」
というような感覚になることがあるのだ。
それがなぜなのかよくわからなかったが、それこそ、
「それ以上のことを考えようとしないから、それ以上の意識を持っていないからだ」
ということになるのではないだろうか?
そして、もう一つとして、
「小学生の頃に感じたインパクトの強い感情を、大学時代の今になって思い出すという、今の地の臭いという感覚に似ているからだ」
ということになるのであろう。
高校時代というのは、近すぎて、感覚もそんなに変わっていないだろうから、同じ感覚をそれこそ、まるで毎日のように感じてしまう。それが、余計に、自分の中の感覚を作ってしまうということになるのではないかと感じるのだった。
血の臭いを感じながら、まわりを見ていると、薄暗い中で、その中に、どす黒さが感じられる一帯を発見した。
「うわっ」
と思わず声を立ててしまったのだが、それを聞いた二人は、びっくりしてこちらを振り向いた。
その瞬間、二人は凍り付いたかのようになったが、その時間が、想像以上に長かったようだ。
「助けてくれ」
といいたいくらいだったが、それを言ってしまうと、事実なのかどうなのかが、確定してしまうということが気持ち悪いという感覚になるのだった。
気持ち悪さというものが、自分とまわりは、ほとんど共通の認識のように思っていたが、人それぞれ性格も、感受性も違うのだから、
「共通という言葉が正しいのかどうか、考えさせられる」
と思っていた。
体育館の床というと、滑り止めのようなものを縫っていて、てかっているといってもいいだろう。薄暗い中で、そのテカリが、微妙な光を表しているのだが、その時、その光は、さらにまわりを薄暗く感じさせるのだった。
普段であれば、
「少しでも、明るく見せるような演出」
という感覚になるのだろうが、よく見ると、そのテカリは、明らかに、
「光を吸収しているかのようだ」
と思えたのだ。
なぜなら、そこで光っている色が、真っ赤だったからだ。
しかも、そのテカリは、
「液体として流れてくるもの」
ということで、しかも、その色と臭いから、それが、何であるかということを知るまでに、時間もかからなかった。
だから、
「うわっ」
と叫んでしまったのだし、あとの二人も、何かを言う前に驚愕の表情になったのだろう。
それだけ二人もその臭いの正体を知っていたということになるのであろう。
「血だ」
と最初に叫んだのは誰だろう。
そして、もう一人が果敢にも、血の流れうもとにやってくると、他の二人が、創造した表情と寸分狂わないような顔に見えたので、
「やっぱり」
と感じたのだ。
「警察」
と誰かが叫んだかと思うと、もう一人はすでに、ポケットからスマホを出していた。
「見事な連係プレイだ」
と感じたのは、それだけ、
「他人事のように感じたい」
と思ったからではないだろうか。
最初に発見した、
「いや、そこに死体があるということを感じた」
という自分が、他人事になるというのは、それだけ、現実を直視したくないという感覚があったからではないだろうか?
110番というものを初めてしたといっていたが、聞いていて、
「かなり落ち着いているじゃないか」
と思えた。
もちろん、相手が落ち着いて対応してくれたからなのだろうが、さすがに、毎日110番のコールセンターで受付をしていると、分かるというものである。
要するに、テレビドラマでいうところの、
「警視庁より入電中」
という放送が、所轄の刑事課に流れるということであろう。
もっとも、ここは、東京都ではないので、警視庁ではなく、K県警ということになるのであろう。
そもそも、警視庁というのは、
「警察の中央機関」
ということではない。
各都道府県には、
「○○県警」
「○○府警」