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静岡のとみちゃん
静岡のとみちゃん
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悠々日和キャンピングカーの旅:⑫信州・富山の旅

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 何と言っても、上った坂から見下ろすこの都市の遠望が素晴らしく、今でも忘れられない。
 なので、勾配計を「ジル」に取り付けてみようかと考え始めている。

 落石注意の標識が立っていた。
 これを見る度に思い出すのは、アニメと実写の「ゆるキャン△」の主人公がつぶやいた「テントの屋根からじゃがいもが転がり落ちている」のフレーズで、言い得て妙な内容のデザインは、私のお気に入りの標識だ。

 坂道を上ってゆくと、今度は、右折すると立山駅への案内標識が立っていたが、帰路で立ち寄ることにした。このあたりから、上り道は常願寺川の支流の称名川の右岸に沿うように、V字谷の底を走る状況になった。

 さらに上って行くと、「ここから国立公園 立山」の案内表示板があり、その先にあったのは、この称名道路の通行規制に関する標識で、ここから先の9月の通行時間帯は7時~18時とのこと。
 その下には開閉できる門があり、夜間は閉じられて通行止めになるのだろう。その理由は分からないが、国立公園の自然を保護するためか。

 やがて右の車窓から、対岸の巨大な絶壁が見えてきた。
 それは日本の国内とは思えないほどの圧倒的な迫力のある景観で、あとで調べたところ、立山黒部アルペンルートの美女平から落ち込む絶壁で、長さ2km、高さ500mの一枚岩で、日本一の高さの「悪城(あくしろ)の壁」と、その奥は「惶性寺(こうしょうじ)の壁」、称名滝につながるプロローグが始まった気がした。

 巨大な絶壁に目を奪われながらも、V字谷の奥に、ちらりちらりと見える称名滝に気が付いた。
 上り勾配は14%になり、後続車もいなかったので、「ジル」の燃費のことを考えながら、アクセルはあまり深く踏まず、のんびりと標高を上げていった。
 道沿いには幾つもの駐車場があったが、運良く、滝に最も近い駐車場に「ジル」を停めることができた。それでも、滝までの所要時間は徒歩で30分。自然保護のためなのか、さあ歩こう!

 かなりの急坂を歩き進むと称名川に架かる橋に出た。その橋を渡るとき、滝壺からは150mほどの距離があるものの、滝の落水により起きた強い風に乗って、細かな飛沫が大量に飛んでいて、滝の姿が霧の向こうに見えるようだった。
 橋を渡り終えた先の「滝見台園地」の急階段を登り詰めた最も高い場所から見上げると、350mの日本一の落差を4段に折れながら流れる落ちる壮大な滝を正面から眺めることができた。
 それでも今は、季節的には水量は少ない時期のようで、雪解け時期の夥しい水量の想像は難しく、その時期のみに、称名滝の右側にハンノキ滝が現れ、それは「幻の滝」と言われているとのことだった。

 暫くの間、滝を眺めていたが、ふと思い出したように、滝の写真を撮った。
 年老いた女性が「シャッターを押しましょうか」と声を掛けてくれたが、三脚がありますと丁寧にお断りして、セルフタイマーで写真を撮った。多少の飛沫が気になったが、撮った写真には飛沫の影響はなかった。
 再び、滝を見上げていると、今度は、若い女性が二人やってきて、スマホで自撮りをしていた。ところが、滝をバックに彼女らの自撮り写真のアングルが上手くいかないようだったので声を掛け、スマホのシャッターを替わりに押した。
 ひとりは富山県内の宇奈月の人で、もうひとりは東京の銀座の美容院で働いているとのことだった。

 滝からの帰路の下り坂は楽で、滝を見るために時々振り向きながら、軽快に下っていった。
 その時、先ほどの彼女らが走って下りて来た。今日はぎっしりと予定が詰まっているとのことで、転ばないようにと思っているうちに、先へ先へと行ってしまった。ドラマやアニメでは、そう思った瞬間に、二人は転ぶものだが、そういうことはなく、颯爽と下っていった。若い!

 この称名滝は、平時でも毎秒0.5~2トンの水と砂礫が落下していて、滝面(滝の落ちる絶壁)は絶えず削られ、それは10年で1mほどの後退速度とのこと。想像すらしていなかったことで、非常に驚いた。
 ここに来るとき、驚きながら見上げた称名川の左岸の惶性寺の壁や悪城の壁は、称名滝が作ったとのことで、等高線の入ったマップを見ると、長大な時間を掛けて、滝が後退していった結果の地形だと想像に難くなかった。

 このV字谷には、かなり不安定な風が吹いているが、もし、ここをパラモーターで飛ぶならば、称名滝を生き物のように感じられることだろう・・・が、空中でコントロールを失って、墜落してしまうリスクがあるので、私は絶対にできない。それ以前に、フライトの許可が下りないだろう。そんなことを思いながら下っていると、「ジル」が見えてきた。

 ちなみに、称名川が立山駅近くで合流する常願寺川について、驚いたことがあった。
 それは、世界的に有数の勾配を誇る急流河川とのことで、富山湾の河口から源流までの距離はわずか56km、その間に約3,000mの標高差を流れ下るためだ。
 その下流域には広大な扇状地が形成され、富山平野の東部の大部分を占めていることから、称名滝が後退しながら、その扇状地を形作ったように思えた。きっとそうだ。

 「ジル」に戻ってから、少なからず興奮が続いていたのか、落ち着きを戻すため、湯を沸かしてインスタントコーヒーを作った。それを飲んでいると興奮が冷めてきて、空腹を感じた。
 その頃、駐車場はかなりのクルマで占められてきたので、ひとつ下の、まだ空いている駐車場に移動して、子持ちホタルイカの沖漬けと鮎の甘露煮をつまみながら、昼食のカップ麺(うどん)を食べた。

 称名道路から左折して向かったのは立山駅。その周辺には幾つもの駐車場があり、かなりの台数のクルマが停まっていて、駅前には、多くの観光客や登山客がいた。
 ここは、長野県の扇沢まで続く「立山黒部アルペンルート」の富山県側の出発点であり、登山基地だ。
 この駅舎はロッジ風の建物で、1階は富山地方鉄道の立山線の終着駅の立山駅、2階はケーブルカーの麓の駅になっていた。

 以前の「信州の旅」の紀行文にも書いたが、この「立山黒部アルペンルート」は、高校生の修学旅行で、扇沢から黒部ダムまで行ったが、そこから、この立山駅までは私にとっては未踏の地なので、いつかは訪れたいと思っている。その時は妻とのふたり旅だ。

 称名滝を訪れてから富山市街を抜けて、富山新港に向かう予定だったが、かつて取材をして記事を書いたことがある富山市内の光岡自動車の、当時は工場長だったが、あのオロチのデザイナーでもあったA氏に再会したくなり、ナビをセットして向かった。

 大きな文字でMITSUOKAと書かれたゲートを潜ると、訪問客が先ず入るような建物があり、そこは取材をさせてもらった場所だ。懐かしい。
 その前にはずらりとミツオカのクルマが並んでおり、その端に「ジル」を停めた。
 A氏は当時、ミツオカのヒミコに乗っていたが、今はどのクルマに乗っているのだろうか。

 面会を希望して待っていると、奥のドアから入ってきた男性は少しばかり齢を重ねてはいるがA氏で、今は開発課をマネジメントしているとのことだった。