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三角形の関係

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 そんな街を、令和の時代に歩いていると、そんな政治家がいたなどということを覚えている人は、そんなにいないだろう。
 しかも、その時に参謀がいたなどということを知っている人も、まずいないということから、この街が、
「住宅街」
 として生まれ変わったのを、誰もが不思議に思わない様子だった。
 しかし、考えてみれば、いくら田舎とはいえ、住宅街建設ラッシュはほとんど終わっていると思われ、いまさら、21世紀に突入してまで、住宅地としての開発が進んでいるのか分からなかった。
 といっても、実際にこの土地は、例の政治家が、
「ここを住宅地にする」
 ということを、大きなテーマにしているということは、周知のことであった。
 それを知っている人は、自治体でも、当時活躍していた人は皆知っているだろうし、有権者も分かっていたはずだ。
 何しろ、
「選挙公約」
 というものが、
「街を住宅地にする」
 ということがそのテーマだったのだ。
 そんなテーマを公然としていて、
「よく、選挙に通ったものだ」
 というのが、不思議であったが、その理由には二つあり、一つは。
「他の連中では、あてにならない」
 ということであった。
「自分たちのことだけしか考えない、そんな政治家ばかりだ」
 というのが、その一つであり、もう一つとしては、
「彼は、その公約を必ず守ってきた」
 ということであった。
 いくつかある公約のすべてを守れるわけではないが、その中の自分の中で、
「目玉だ」
「肝入りだ」
 と言われる政策にかんしては、ほとんど守られていたことから、
「一番信頼できる」
 と言われていたのだ。
 そして、彼に、
「参謀がいて、その参謀が実に優秀だ」
 ということも、公然として語られることだったことから、実に有名なこととして、誰からも、一目置かれていたといってもいいだろう。
 実際に、街の権力者からも、信任が厚く、彼らの組織票も十分にあった。
 だから、
「彼は立候補さえすれば、あとは、もう、当選したも同然である」
 と言われていたのだ。
 それを考えると、
「俺たちの政策は、この土地を豊かにするに違いない」
 ということで、信仰していたといってもいいだろう。
 そんな政治家であったが、年齢には勝てなかった。平成の終わりには、すでに80歳近くになっていて、
「次回の選挙を最後にしよう」
 と言われていた。
 参謀とは、積年の付き合いだったことで、
「後は、お前に任せたい」
 ということで、話をもらったが、参謀とすれば、自分の立場はわきまえているということもあって、
「いえ、私は辞退したく存じます」
 といって、丁重にお断りしていたのだ。
 もちろん、政治家も、
「分かっていてのお願いだった」
 といってもいいだろう。
 何といっても、
「私たちは、今の政治をどうにかしたいとは思わない」
 と、参謀はいっていた。
「私はあくまでも、先生の政治のお手伝いさえできればそれでいいんです。私にはそれだけしかできませんし、それができるだけで本望なんです」
 といっていた。
 半分は本音だっただろう。
 しかし、残りの半分が何であったのかということは、本人にも、よく分かっていないといってもいいだろう。
 そんな彼らが引退してから、そろそろ7年が経とうとしていた。
「そんな政治家がいたっけ?」
 というほどの時間が経っているのは、分かっていることだった。
 特に、途中で、平成から令和に変わった。
「ただ、年号が変わっただけだ」
 ということに違いはないのだが、この街では、
「ただ、それだけではなかった」
 といってもいいだろう。
 特にこの街は、年号を会社名であったり、建物に就けていることが多かった。
 だから、今でも、
「平成〇〇」
 というところが多く残っている。
 中には、
「昭和○○」
 というのも少しはあるのだった。
「年号が変われば、社名も変えなければいけない」
 などという条例があるわけではなかった。
 しかし、今まで年号が変わるごとに、
「それが儀式だ」
 と言わんばかりに、社名を変えるところが多かった。
 中には、
「そんなことはしなくない」
 といってかたくなに、
「昭和」
 を貫いているところもある。
 というのは、戦略的なもので、
「昭和からうちの会社や店は続いている老舗だ」
 と言いたいのだろう。
 焦って、年号が変わったからといって名前を変えるのは、
「愚の骨頂だ」
 と思っているのだった。
 実際に、急いで変えたとしても、それで売り上げが増えるわけでもない。
 ただ、
「会社名がいち早く令和になれば、二番煎じだ」
 と言われることはない。
 ということになる。
 特にこの街では、
「よそよりもなるべく早く」
 ということが重要だと思っている人が多いので、事を急ごうとするのだが、逆に、
「どこかに先にされてしまうと、もう完全に萎えてしまうのだ」
 ということだ。
「2番になるくらいなら、最後になったとしても同じことだ」
 というもので、
「だったら、変える必要なんかない」
 と思う人が多いのか、明治から大正に変わった時など、皆足並みを揃える形で、名前を大正にしていたが、今の時代は、前の時代のものが平然と残っているというほどに、名前を変えないところが増えているのだ。
「どうせ、すぐ変えることになるさ」
 ということと、
「次の改元の前に、会社が存続しているかどうか」
 と思う人も若干いるようだった。
 そんな時代において、駅前から自分が降りるバス停までやってきて、普段と同じく、その日もコンビニに立ち寄った時、ある気が柄、その雰囲気は普段と違っているのを感じたのだ。
 その理由は、
「いつもよりも暑さがあり、それが湿気を感じさせるからではないか」
 ということが分かっているのだが、普段に比べて、歩いていながgら、吐き気を催してきたからだった。
 明らかに気持ち悪い匂いがするのだが、それは、コンビニの少し手前にある小さな病院に差し掛かった時くらいであった。
 子供の頃から、その病院には世話になっているが、特に病院の前を通った時、アルコールの匂いが感じさせられるようになると、一緒に襲ってくる頭痛を無視することはできないのであった。
 特に、
「熱があるんじゃないか?」
 と思った時は、普段から汗をあまり掻かないからなのか、
「これ以上、気持ち悪いことはない」
 と感じさせられるのだった。
 匂いが、普段と違って、酸味を帯びている。しかも、アルコールの匂いがさらにひどさをまして、本当に吐き気を催してきて、
「普段とは、違う感覚の頭痛を感じさせられる」
 ということであった。
 駅前を通った時も、たまに似た感覚があった・
 というのは、駅前のバス停まで歩くその途中にあるビルの地下から、時々、アルコールの嫌な匂いがしてくるのは、
「歯医者が、このビルの地下にあるからだ」
 ということが分かっていたのだ。
 歯医者というのは、その独特の匂いから、吐き気は尋常ではなく、しかし、
「都会の駅前には、必ずといっていいほど、歯医者さんは、存在する」
 というもので、しかも、
作品名:三角形の関係 作家名:森本晃次