輪廻する因果応報
夜間の仕事なので、研修期間も二人きりということで、相沢が先生として教えるのは、だいたい10回くらいということになる。
夜勤で人に教える、先生役というのは、これで4回目くらいであったが、大体のパターンも分かってきた。
中には、なかなか覚えられずに、いきなり怒り出すという、
「訳の分からない」
というやつもいたりする。
その時の人は男だったのだが、最初から、
「こいつは、おかしい」
と思うようなやつだった。
最初におかしいと思ったのは、会話がいきなり、
「ため口だった」
ということである。
本来であれば、もし、偶然知り合いが来たのだとしても、そこは仕事なのだから、相手のことを、
「敬う」
という気持ちにならなければいけない。
お互いに、
「知り合いであっても、死後との付き合いだ」
という態度を示すのが当たり前というものだろう、
しかし、その時の男は、
「相沢さんは、結婚されているんですか?」
などと、初日は、一応敬語であったが、内容は、
「初日から話す話題ではない」
ということで、実際に、
「舐めている」
と思われても仕方のないことであろう。
しかし、相沢としても、その時の面接は、
「急に人が辞めたので、自分たちのスケジュール調整が厳しくなることで、それを、他の派遣社員に言えないことで、結局、自分が苦しむことになる」
ということになるのだ。
とはいえ、少しは、派遣社員にも、かぶってもらうことになるのだろうが、それでも、正社員としての、そして責任者である自分が背負うことになる。
つまりは、
「一人辞めた分のスケジュールのかなりの部分を、正社員である自分が、背負わなければいけない」
ということになるということであった。
それを考えると、
「少々のことは我慢するしかない」
と思うのだった。
しかも、
「まだ慣れていないので、不安もあって、このような態度をとっているとすれば、慣れてくれば大丈夫だろう」
と考えるようになるのだが、それが、時間が経つにつれて、
「そろそろ覚えてくるころのはずなんだが」
という時点になって、
「まだまだ覚えられない」
あるいは、
「態度が旺盛だ:
ということになると、もうどうしようもない。
その覚えるきっかけになるタイミングが、5,6回目だ」
と思っている。
「7回目で、その傾向がみられないと、まず無理だろう」
という判断を下すことになるのだ。
それでも、真面目であれば、考えてみるのだが、さすがに、5回目くらいの時に、
「あんたの教え方が悪い」
といって、キレられた時には、完全に、
「堪忍袋の緒が切れた」
ということであった。
「声を荒げると、派遣会社とのトラブルになる」
ということで、相沢は、何とか堪えた。
さすがに、静かな建物に反響する罵声は、精神に来てしまうレベルであった。
「ここまでくれば、もうダメだ」
ということで、部長に話をして、
「彼は、ちょっと無理です」
という話をすると、部長も、
「そうか、そういうことでは仕方があない」
ということで、派遣会社の方に連絡を取ってもらい、再度別の人を手配してもらうようにしたのだ。
すると、派遣会社の営業担当が、その日のうちに現れた。
その担当は、少しびっくりしているようだった・
「彼は、私が知っている中でも、忠実に業務をこなすということで安心していたんですが」
というので、さすがに、罵声を浴びせられたということまでは言えないので、やんわりと、
「それは、若干違いますね」
ということで、話をすると、営業担当の人も、
「そうですか、それは残念です」
といって、
「じゃあ、さっそく、他の人を手配するようにしましょう」
というので、こちらも、シフトを無理している手前、
「すみません、なるべく早めにお願いします」
ということをいうしかなかったのだ。
それを聞いて、
「はい、わかりました。今回は、ご迷惑をおかけして。申し訳でありませんでした」
という話だった。
結局、それから、半月ほどで、新しい人が入ってきたのだが、どうしても、前の人のイメージが頭の中にあるので、新しい人を、変な目で見てしまっている自分が嫌だった。
しかし、新しい人は前の人と違って、かなりしっかりしていた。
というよりも、
「気の遣い方が、うまいというか、
「最近まで、サラリーマンをしていたのではないか?」
と思えるくらいの人で、正規で入ってきて、その時聞いたのだが、
「ええ、ここで登録する前は、営業をしていました。精神的に病んでしまって、しばらく入院していたんですが、それで、会社を辞めて、こちらに登録させていただいたんですよ」
という。
「ということは、派遣としては、ここが初めてということですks?」
と聞くと、
「ええ、そうです」
というではないか。
前に来たとんでもないやつを考えると、あいつは、この派遣が長いというような話だったので、
「派遣を長く続けると、性格が曲がってしまうのではないか?」
と、勝手な思い込みをしてしまったが、
「そんなことを考えてしまうと、他のまともな派遣社員さん皆に失礼なことになってしまう」
と感じたのだ。
だから、
「あいつが特別におかしかったんだ」
と思ったが、さすがに数日で溜飲は下がったが、下がってくると、
「あんなやつがいるということを早めに分かってよかったかも知れないな」
と感じた。
何といっても、人間関係の問題である。
「いろいろな人がいる」
というものである。
これが、派遣社員と、派遣先の担当との関係であっても、
「最低限のモラル」
というものが存在する。
ということになるであろう。
「今回の男性は、うまく続けていってくれそうな気がするな」
と安堵で胸をなでおろしたが、それもつかの間、今度は、もう一人の女の子が、
「辞めたいんですが」
ということを言い出したのだ。
せっかく安堵したのもつかの間だったので、またしても、派遣会社の方でも、人材を募集することになった、
今度は、女性だった、これも安堵のイメージがあったのだが、それが、その時の彼女だったというのは、少しびっくりだった、
彼女は、名前を、
「藤本理沙」
と言った。
童貞喪失当時の彼女は、あどけなさが残る、いや、
「あどけなさの塊」
といってもいいくらいの雰囲気に、一緒にいるだけで、癒しを感じたのだった。
ただ、童貞喪失の時だけ、自分でもびっくりするくらい、理沙という女は、大人っぽさをイメージさせたのだった。
あれから、すでに、20年は経っているだろう、その間に、相沢もいろいろあったし、理沙もいろいろあったことだろう。
相沢は自分の人生を思い出していた。
そう、まず、大学を卒業するときに、大きな波があったのだった。
大学卒業の時、相沢は、結構、習得単位を残してしまった。
自分の中では、単位がちゃんと取れなかったのが、
「信じられない」
と思っていた。
ただ、これは、自分の甘さの露呈が招いた結果であり、
「まわりと同じようにしていれば、単位の取得くらいは何でもない」
と思い込んでいたのだ、