輪廻する因果応報
すると、それまで、感じていた
「隣の部屋の声」
を感じなくなっていることに気がついた。
まるで、耳栓をしているかのように、
あるいは、
「耳に巻貝を押し当てたかのような」
そんな音を感じることになるのだった。
感じた音をいかに裁くかということを考えていると、
身体の奥が果てたことで、いわゆる、
「賢者モード」
というものになってきているということで、その瞬間、
「我に返った」
かのように感じさせられるのであった。
「そんな賢者モード」
というものを乗り越えた後で、身体がはじける感覚になることで、恥じらいを感じる彼女と向き合うことができるような気がするのだ。
私は、どうすればいいのか?」
ということであるが、相沢は、初めての感情をいかに表せばいいかということを考えて、彼女の顔にもう一度覆いかぶさって、自分が、
「賢者モードに入っている」
ということを分からないようにするのであった。
その感覚を、彼女はどう感じているのか、分からないという感覚で、結局、また、先ほどの隣の声が聞こえてきたのを感じ、
「ああ、まだ続いていたんだ」
と、漠然と感じさせられたのだった。
夜勤
仕事で夜勤をするようになったのはいつからだっただろうか? 40歳になって、ちょっとした頃に転職をしたのだが、その時だったような気がする、
前の仕事とは、少し違う仕事だったが、前の仕事は、プログラマからのSEという、
「システム開発の王道」
といってもよかった。
転職してからは、同じシステム関係であったが、業務関係を請け負う仕事で、月末締め処理などの業務を、会社が委託ということで、その会社の業務全般を賄うという仕事に就いたのだった。
仕事内容は、簡単なマニュアルを見ながら、引き継ぎで教えてもらうことで、理解することができた。ただ、その会社の締め処理というのは、結構たくさんあり、
「売掛処理など、10日事の締め」
があるということで、大変だった。
当時の売掛処理というと、銀行とのデータのやり取りなどがあり、
「数十種類の銀行との取引があることで、銀行データを、落とし込んで、さらに、当社フォーマットに加工する」
という作業が結構大変だった。
昔は、磁気テープや、フロッピーなどを使うという、
「当時としても、古めかしいデータのやり取り」
と言われるほどの手間がかかった。
送付されてきた銀行すべてからきているかの確認を行い、来ていなければ、さらに電話連絡からの、配送確認まで行わなければいけなかったから大変だった。
処理も、かなりの時間が掛かるので、夜中の作業となるのだった。
だから、締め処理の時などは、
「テープの付け替え」
だけでも結構大変で、それを考えると、
「仮眠する時間もないくらい」
だということである。
そのうちに、テープから、
「データ送信」
でのやり取りということになったので、テープの掛け替えがないだけ、かなり楽であった。
それでも、データが来ていない時の連絡は不可欠で、そのあたりは、アナログ対応だったのだ。
そんな中で、基幹業務とは別の、
「季節イベント」
といってもいい、年末の、
「ギフトシステム」
「クリスマスケーキシステム」
というものがあり、ギフトに関しては、お中元というものもあるので、夏の間にも、同じように、2か月間くらいの対応が必要だった。
これらのシステムは、
「期間中に受け付けたものを、業者に発注して、指定日に、お客さんのところに届ける」
というのが、主なシステムであり、当然それに伴って、
「マスタ整備」
などというのが、
「開始時の問題」
となるわけであり、その部分を、
「システム開発」
というものの、邪魔にならないところで、データベースソフトを使い、
「簡易で、マスタを作成する」
というソフトを作成し、自分で楽になるように、工夫はしていたりした。
しばらくやっていると、元々がプログラマ、SEというものからの出身なので、基幹業務から外れたところでデータを作り、
「商品マスタ」
「顧客マスタ」
などの加工はできるというものだった。
ただ、それ以外はというと、ほとんどが、
「処理を間違いなく流す」
というだけの、オペレーションだったのだ。
そのうちに、業務を行う自分と、あとのオペレーターは、外部の人間として、派遣社員を雇うことになった。
そのために、仕事が、
「入社してきた彼らのために、マニュアルを作成したり」
あるいは、
「彼らの教育」
「シフト表の作成」
などというものが、主だった。
あとは、時々、派遣者医者の営業との話で、
「業務内容の確認」
あるいは、
「派遣社員の業務態度」
などというものの、すり合わせ等が大きかったのだ。
派遣会社から派遣されてくる人は、男性ばかりではなかった。
女性も派遣されてくるというもので、営業の人が送ってきた履歴書を見て、正直びっくりしたのだが、その一人の女性が、大学時代の彼女だったのだ。
彼女とは、あの日、一夜を共にしてから、結局、また別れることになった。
彼女とすれば、
「あなたにお礼をしたいと思って、でも、どのようにお礼をしていいのか分からないので、こんな形になったの」
というのであった。
正直、びっくりさせられた。
「お礼って何なのだろうか?」
そもそも、
「俺が、彼女に対して、何も言ってあげられなかったことで、悪いことをしたということであれば、それは、俺の問題のはずなんだよな」
ということであった。
しかし、彼女は、
「自分が悪い」
と思っていたようだ。
ただ、彼女としては、
「あなたでは、私のようなややこしい女を賄えるわけはない」
という言い方をして、話を聞いていれば、
「私は、あなたとはお付き合いできません。でもその理由もハッキリと言えないので、そのお詫びに、あなたに抱かれます」
といっているようなものである。
普通に考えれば、
「俺に失礼じゃないか?」
と思うのだが、しかし、最初に、
「俺が悪い」
と思ったのは、間違いないことなので、
「こっちも、彼女の詫びを、そのまま受け入れてしまうと、まるで借りを作ってしまったようで、嫌なんだけどな」
と思うのだった。
しかし、そんな相手と付き合うというのも、嫌になっていて、
「それだったら、抱けただけでも、よしとするか?」
と思うようになったのも事実である。
「理由や、シチュエーションはどうであれ、彼女が俺の童貞喪失をしてくれたのは事実であり、そういう意味では、ありがたいと思おう」
と感じることで、彼女がいうように、
「お礼」
ということで、受け取ってあげるのが、彼女に対しての、
「気遣いなのだ」
と思うと、嫌というわけではなかったのだ。
そんな状態で、別れたのだから、ややこしいということでもなく、まるで、
「ろうそくの灯が消えるか」
のように、静かに、消えていったのであった。
そんな彼女との再会だったが、彼女は、最初、覚えていないかのように、まったく反応もなかった。