輪廻する因果応報
「はぁはぁ」
という吐息が聞こえた。
その声は、我慢しようとして、できなかった声が漏れて聞こえるものだったのだ。
さらに、彼女の身体が重たくなり、
「完全にゆだねてくれているんだ」
と感じられたのであった。
ゆだねられた身体がさらに重たくなると、支えきることができなくなってしまい、その身体が次第に自分も倒れ掛かるようになると、
「いつの間にか敷かれていた布団」
の上に、なだれ込むように倒れこんでいくのであった。
相沢の目の前に、彼女の顔があり、さっきまで、あれだけ顔を見ないようにしていた人間とはまるで別人のように、顔を正面から見上げるのだった。
相沢は、今度はそれを見て、
「覆いかぶせる」
ように彼女の顔を見ると、
思わず、その唇を奪ったのだ。
唇に熱と、脈の鼓動が感じられると、両腕で、彼女の身体を抱きしめた。
相沢にとって、初めての感覚のはずだったのに、
「本当に初めてだったのだろうか?」
と感じられた。
初めてだったと思ったのは、まるで、
「デジャブ現象を演出するための、何かの作戦だったのではないか?」
と感じられるようなものだった。
デジャブ現象というものを、
「何かの、辻褄合わせではないか?」
と感じていることで、自分を納得させようとする相沢だったが、
「まだ科学では解明されていないと言われるデジャブ現象というのは、まさにこのようなことなのではないだろうか?」
ということであった。
「彼女は、どう思っているのだろう?」
と考えるのだが、
「きっと、同じことを考えているに違いない」
と思ったのは、やはり。唇を重ねた、あの瞬間だったのだろう。
身体が重なったくらいの衝撃を感じた相沢は、まるで、自分が、彼女の中に乗りうっつったのではないかと思った。
それはまるで、
「タイムリープ」
と呼ばれるものではないかと感じたのだが、
「タイムリープ」
というのは、
「タイムスリッ」
というものとは、まったく違った考え方で、
「時空を超える」
ということに変わりはないのだが、それぞれでの発想が違っている。
「タイムスリップ」
というのは、
「タイムトラベル」
というものの中では、一番一般的なものであって、
「タイムマシン」
であったり、
「ワームホール」
のようなものを使って、
「自分自身が、その世界に、行く」
ということであった。
「タイムリープ」
というのは、そういうことではなく。
「もし、過去に行けるとすれば、どの時代に行って、やり直したいか?」
ということであり、
「過去に行く」
ということであっても、
「今の意識を持ったまま」
さらに、
「過去の自分と入れ替わる」
というわけではなく、
「過去の自分に乗り移る」
という感覚だといってもいいだろう。
つまりは、
「自分が存在できるところにしか現れることができない」
ということであり、分からないこととして、
「未来へのタイムリープというものは存在するのか?」
ということであった。
つまりは、
「未来に行くには、タイムスリップするしかない」
ということになるんだろう。
しかも、
「タイムリープ」
というのは、自分に乗り移るわけだから、
「前に入っていた自分はどうなってしまうのか?」
という疑問は残る。
そうなると、もう一つ考えられることとしては、
「タイムリープ」
というものは、
「もう一人の自分が、同じ時代に存在している」
とも考えられるということではないか。
つまり、
「ドッペルゲンガーの発想」
である。
「ドッペルゲンガーを見ると、近い将来に死んでしまう」
と言われるが、
そもそもが、この、
「タイムリープ」
自体が、
「あってはならないことだ」
ということで、
「タイムリープをしたその人は、タイムパラドックスによって、死ぬことになってしまう」
といえるのではないだろうか?
「ドッペルゲンガー」
も、
「タイムリープ」
というのも分からないのだから、結局は、
「そのどちらかが原因で死んでしまう」
といっても、その理由はハッキリとしないということになるのだろう。
そんなことを考えていると、彼女の覚悟が伝わってくるようで、お互いに、吐息を吐きながら、強く抱きしめあっていた。
静寂が、部屋を包んでいたが、その時、どこからか、なまめかしい声が聞こえてきた。
そのうち、それは、女性の甘い声であるということに気づくと?
「あぁ」
という吐息に、男の、
「おうっ」
という低い声が、さらに、汚らしく感じられた。
ただ、それが何の声なのかは、すぐに分かった。
「童貞」
だとは言っても、
「テレビドラマ」
であったり
「映画」
などで、濡れ場は見たことがあった、
正直、何度か、
「ピンク映画」
というのも、見に行くことも何度かあり、知っているつもりだった。
あの時代には、まだまだビデオが家庭に普及され切ったわけではなかったので、ビデオをを見るということはなかった。
そのおかげというか、
「映画館のような大型スクリーンで見られた」
というのは、
「昭和という時代の、新鮮さ」
ということではないだろうか?
だから、その時壁越しというのか、廊下とふすま越しに聞こえてきた艶めかしさは、
「ひょっとすると、さっき感じた男女のものなのかも知れない」
と感じたのであった。
そう思ったのは、相沢だけではなかったのかも知れない。
それまで、恥じらいを浮かべていた彼女だったが、急に大胆になったというのか、実に積極的になっていた。
誘われるように、唇に再度吸い付くと、さっき以上の吐息を漏らすのだ。
さらに、
「こんなに積極的ではなかったのでは?」
と思わせるほどに、抱き着きが激しい。
すると、相沢は、その状態を待っていたかのように、
「いいのかい?」
と聞いた。
立場的には、あきらかに逆である」
ということが分かっているにも関わらず、相沢は聞いたのだ。
それを分かっているはずの彼女も、相沢の顔を正面に見ながら、まるで、自分が処女であるかのように、
「ええ」
と真面目に答えたのだった。
その時、隣から漏れてきた声が、さらに激しくなった。
「あぁ」
と甲高い声が響いたかと思うと、男の方も、さらに、リズムをつけての吐息が聞こえてきた。
女性は、もう声を抑えることができなくなってしまい、その激しい息遣いが、何を意味しているのかが分かったのだった。
それを聞いて、相沢は完全に興奮していた。彼女はというと、
「吐息の激しさ」
と、
「身体のほてり」
から、その様子を垣間見ることができるのであった。
それを感じると、もう、相沢も我慢ができなくなっていた。
「どっちが主導権を握ろうが、そんなことは関係ない」
といってもいいだろう。
相沢は、彼女を思い切り貫いた。
「あぁ」
という声に、さらに興奮度を高めた相沢は、自分が我慢できなくなっているということに気づかされた。
そのこともあって、身体が次第に、熱くなってくることを感じると、
「肌のぬくもりから、次第に果てるものが近づいてきたことを感じた」