輪廻する因果応報
ということを感じさせると、まだ、自分たちが付き合っているという感覚になるのだということを思い知らされるのであった。
そして、彼女が、
「帰りたくない」
といって、こちらの胸に顔をうずめてくるなど、それこそ、ドラマか夢の中での想像、いや、妄想なのかも知れないと感じるのであった。
ただ、彼女のその、
「思い切った行動」
は、相沢に勇気を与えた。
いや、勇気というよりも、感情を表に出さずとも、成り行きに任せることで、自分が、
「男としての面目を保てる」
という状況になれるであろうことを確信できたようで、
「今回だけでなく、今回以降の自分に自信が持てる」
と感じられるようになったことは、
「俺の自信過剰な部分を、刺激するものだ」
と感じたのだ。
そもそも、中学時代くらいまでの間に、何度か、
「自信過剰」
と言われるような状態になったことがあった。
あの頃は、精神が不安定だったこともあり、
「二つの別々の感情が、一定周期で、入れ替わっている」
ということを感じていた。
それが、
「二重人格だ」
ということになるとは思ってもいなかったが、それが、大学生の、ちょうどその頃によく思い出すようになり、約5年くらいという歳月をかけて、
「やっと感覚が感情に追いついた」
という感覚になるのであった。
それが、今だったということで、彼女の態度は、その感覚を証明しているかのようだった。
だから、
「自信過剰だった時期」
というものを思い出すようになったんだな。
そんなことを感じると、
「大学生のこの時期が、自分にとっての、ターニングポイントだったんだ」
と感じるのであった。
「家に帰らない」
というのがどういうことかということを、大学2年生で分からないわけはない。
ただ、相沢は、
「女性を知らない」
というわけだ、つまりは、
「童貞だ」
ということになるのだ。
だが、さすがに、今日のように、別れた女から、
「会いたい」
といってきたのだから、
「あわやくば」
と考えるのも、無理もないことであろう。
それを思うと、
「彼女の誘いがあれば、それに乗るのも悪くない」
と思った。
つまりは、
「自分が童貞だから、自分から誘うことはないだろう」
という考えだったのだ。
実際に、彼女はもじもじしていたので、
「こちらから誘わないといけないのか?」
と、そんなことを考えた時、すでに、
「童貞喪失」
というものが前提だった。
そのおかげなのか、彼女の方が、覚悟を決めたのか、
「一緒にどこかに泊まってくれますか?」
ということだった。
恐る恐る頷いたが、当時もちろん、車を持っているわけではなかったので、
「車で行けるラブホテル」
というものには行けなかった。
そこで、街を歩いていると、見つかったのが、
「古びた旅館」
だったのだ。
「ここにしましょう」
といって、彼女が、半ば強引に相沢を引っ張っていった。
引きずられるように中に入った相沢は、彼女が、一切こっちを振り向かないのが分かった。
「これが、彼女の覚悟なんだろうか?」
と感じた。
中に入ると、雰囲気は、旅館の女将という感じの人ができてきた、さすがに、声を聴いてみると完全に独特で、感じとしては、
「忍び宿の女将」
という言葉がぴったりであった。
それを思えば、彼女が、こちらを振り返らない理由も、ウスウスながら分かった気がした。
ただ、彼女が、処女ではないと思っても、このような、古びた旅館を知っているとは思えなかった。
ただ、雰囲気としては、
「似合わないわけではないな」
と感じられたのだ。
こんな宿において、入った時間というのも、夜の8時を過ぎていた。ビジネスホテルなどでは、まだまだの時間なのだろうが、このような旅館であれば、いい加減遅い時間ということなのかも知れない。
他に部屋が、4つくらいあるところで、すでに部屋の中に誰かがいるような雰囲気はあった。
というのも、テレビの音が聞こえていたからで、男女の話し声も聞こえてきて。その様子は、まるで、家でくつろいでいるかのような雰囲気だったが、中を想像することはなぜかできなかった。
それだけ、
「この宿が、妖艶に満ちている」
といってもいいからなのかも知れない。
食事は、表で済ませてきた。ちょうど、
「腹八分目」
というくらいに食べておいたのも、
「これからの時間を想像して」
ということであった。
彼女も、食事くらいから、雰囲気が少し暗くなっていた。それを、相沢は、
「覚悟を決めているからではないか?」
考えたのだが、
「まさにその通りなのかも知れない」
と感じたのだ。
そんな状態において、彼女は、次第に相沢の顔を見なくなった。
それだけ、覚悟がいるということであろうが、宿に入ると、彼女は少し饒舌だった。
今日の楽しかったことを話してくれた、相沢の方が、必要以上に声を挟むことはせず、ただ、頷いているだけだったが、ちょうど、10時くらいになってからだっただろうか、かかっていたテレビ番組も終わり、彼女が、テレビを消したのだった。
それまでに、お風呂は済ませておいたので、準備は万端だった。
お風呂は、完全に、家庭のお風呂という感じで一人ずつ入ったのだが、子供の頃の記憶がよみがえってきそうな、完全な木製の風呂だったのだ。
「ぬるぬる感が懐かしい」
と思うほどで、とにかく、その宿は、本当に子供の頃を思い出させるだけのものであったのだ。
ゆっくりと浸かると、部屋に戻ってきて。
「お先に」
というと、テレビを見ていた彼女が、
「じゃあ、私がいただきますね」
といって、部屋から出ていったのだが、そこからテレビはついているが、実に寂しいという思いが強かった。
一緒にいてくれるのが前提で、この宿に入ったのに、一人になってしまうとは思っていなかっただけに、テレビはついているが、まったく集中できない。
彼女は、女性としては、そんなに長風呂というわけではなかったが、彼女のいない時間というだけで、かなりの時間が経ったような気がしたのだ。
しかし、
「ただいま」
といって帰ってくると、それまで、1時間くらいいなかったような気がしたのが、あっという間だったと思うのだから、実に感覚というのはいい加減なものであった。
「おかえり」
と声をかけると、彼女は、タオルで首筋を拭いていたが、そこから垣間見える、
「うなじ」
というものが、実に色っぽく感じられた。
さらに、浴衣がはだけるようなそぶりをするのは、わざとなのか、彼女の行動の一つ一つに、ドキドキが隠せなかった。
彼女の肌が、薄くピンク色に感じられたかと思うと、彼女が、しなだれるように、こちらに身体を持たれかける素振りをするのだった。
それを見ると、
「美しさは、肌の色から感じられ、感情はしなだれかかった身体の重みと、さらに、ほてった身体に、脈打つ動悸とが、折り重なってくる」
といってもよかったのだ。
相沢が甘んじて、彼女の身体を受け止めると、すでに彼女の眼はトロンとしていて、真っ赤に染まったかのような唇が、こちらに向かって忍び寄ってくるのであった。