輪廻する因果応報
しかも、その時も、
「自分が、マウントを取る」
ということではなく、きちんと、会話のキャッチボールができることが大切であった。
そもそも、あおんな時代に、
「マウント」
などということはなかったので、あくまでも、今の時代でも思い出すと、その時のことを考えているということになるのであろう。
そういうことを勉強してきたつもりで、それの実戦が、まさかそのもとになった女性であるとは思ってもみなかったが、
「リベンジ」
という意味も込めて、自分なりに、うまく振舞ったつもりであった。
そのために、話題性をつけるという意味で、いろいろ本を読んだりもした。
好きな本は、
「歴史もの」
その頃の女性は、
「歴史なんて難しくて」
という人が多かった。
「歴女」
などと言われて、歴史好きの女性が増えてきてから、まだ、10年も経っていない頃だったに違いない。
それを考えると、まだ昭和の時代に、歴史の話題というのは、ハードルが高いかも知れないが、逆に。
「他の人の誰もしない話題をするということは、かしこいということを感じてもらって、一目置かれるかも知れない」
ともいえるのだった、
実際に昭和の時代というと、結婚相手に、求めるのは、
「高学歴、高収入、高身長」
というものであった。
だから、
「インテリ」
と言われても、
「知識をひけらかす」
というところなではなければ、高学歴という意味で、好印象ではないだろうか?
それを考えると、相沢は、敢えて、
「歴史の本」
を読んでいた。
実際に読んでいると、結構楽しいもので、その勉強をすることが、どれほど楽しいかということに気づいたのだ。
そもそも、
「話が止まってしまうのが困る」
ということだったので、
「教科書には載っていないような、歴史の裏話」
というのは、歴女でなくとも、結構興味を持つものだろう。
だから、平成の時代になって、
「歴女」
などと呼ばれる人が増えてきたということになるのではないだろうか?
それが役に立ったといえばいいのか、ちょうど、彼女の行きたいといったのは、
「古都で有名な場所:
であった。
そこは、
「南都」
といってもいい場所で、結構、
「玄人好み」
のする土地であった。
そんなにたくさんの遺跡や寺院があるわけではなく、都市としても大都会というわけでもないので、ゆっくりと観光ができる。デートしては、最高の場所ではないだろうか?
ただ、一度別れているだけに、
「デートというのは、適切な言葉なのであろうか?」
そんなことを考えながら、
「観光案内」
をしていると、昔の彼女を思い出してくるのだった。
「俺は彼女のどこが好きだったんだろうか?」
そんなことを思い出そうとしている自分がいることを、無意識に感じていた。今から思えば、
「そこまで真剣に好きだった」
という感覚があったようには思えなかった。
どちらかというと、
「相手の方が、俺のことを好きだったのではないか?」
と相沢は感じた。
「思い上がりもたいがいにせい」
と自分で自分に言い聞かせたが、実は、本当に、最初に好きになったのは、彼女の方だったのだ。
相沢は、大学2年生の頃というと、
「彼女が欲しい」
という感情は、かなり強かった。
一人でいることが、あまりいい感情だという感覚はなかったのは事実で、その感情が、
「寂しい」
というものだと分かったのは、まわりに、
「自分が嫉妬している」
と感じたからだ。
「同級生の男が、女を連れて歩いていて、その表情が誇らしげに見える」
それが、うらやましいという感覚と、
「なんで俺には、あの感情が生まれてこないんだ」
という意識であった。
最初、女性と付き合う前は、その感情だけに支配され、
「一度は味わってみたい」
という思いから、
「女性に慕われるまなざしを浴びせられたい」
という気持ちが強くなってきたのだ。
だから、自分の中にある感情は、あくまでも、自分が、男に感じた嫉妬であり、そして女性に対しては、
「自分が好きになる」
という感情よりも、
「相手から慕われたい」
という感情の方が強いのだった。
だから、
「自分の中に、男に対しての嫉妬しか湧いてこないから、女性の慕う目を意識してしまうから」
ということなのか、それとも、
「相手から慕われたいから、男に対して嫉妬するのか?」
と一種の、
「ニワトリが先か、タマゴが先か」
ということのような感情であると考えるのであった。
だから、今日はそのことを確かめたいという思いが強く。
「あわやくば復縁したい」
とは思っていたが、本当の目的はそこではなかった。
もし、復縁ということになるのであれば、それは、彼女の気持ち次第だという、他力本願でしかなかったといってもいいだろう。
観光も終わり、彼女はどうするというのか?
というのは、相沢は、彼女の予定を必要以上に聞いていなかった。
「彼女のことだから、予定は立てていないのではないか?」
と思っていたからだ。
「その時の成り行きに任せる」
というところがある彼女だったのだ。
その時も、
「きっと、予定を立てていないんだろうな」
と思った。
だから、敢えて聞かなかったが、観光が終わったこのタイミングでは、今度は、聞かなければいけないタイミングになってきた。
これは当たり前のことといってもいいくらで、それをやっと最近理解できるようになったのは、
「遅すぎる」
ということであろうか。
それでも、
「気づけるようになった」
というのは、悪いことではない。それを気づくことができず、ややこしい大人になっていく男性がどれだけ多いということか、
当時はそんな言葉はなかったが、いわゆる、
「ストーカー」
というものも、普通にあったかも知れない。
しかし、ストーカーというものが、クローズアップされ、さらに、
「個人情報保護」
ということからも、今では、
「立派な犯罪だ」
と言われることでも、昔は、犯罪行為とまではいかなかったので、男の中には、気になる女性がいたとすれば、
「どこに住んでいるか?」
ということを知りたいと思い、電車で彼女を尾行したりするという人は結構いたことだろう。
もっとも、その思いが、過剰になりすぎて、次第に行動がエスカレートしてくるのだろう。
昔であれば、
「相手の家を突き止める」
ということはしても、
「異常な行動」
まではすることはなかったはずだ。
なぜなら。そんな行動をすると、
「必ず、彼女に嫌われる」
ということが分かっていたので、それ以上のことをしなかったはずである。
それなのに、
「ストーカー」
として世間を騒がせるようなやつが出てくると、その行動は、
「精神異常者でなければ、ありえない」
という様子が、社会問題化したことが、
「ストーカー問題」
というものを引き起こす形になったのであろう。
昭和の頃であれば、
「相手に知られることなく、相手の家を確かめられればそれでよし」
と思っていたであろうが、平成になって、
「ストーカー」