輪廻する因果応報
「かたくなに、面会を拒否した、ただの頑固おやじ」
と思わせてしまうことは、もし、息子が結婚することになって、義理の娘になるわけだから、誤解は解いておかなければいけないわけである。
結婚するということにまで、こぎつけたわけではないが、彼女にとっての誤解は、ある程度溶けた。
しかし、その分、相沢に対しての不信感は増していた。
それなのに、相沢は、
「俺に対しての不信感は、これで払しょくされただろう」
と思っていたのだ。
もしくは、
「父親に対しての不信感を払しょくできたのは、俺のおかげだ」
という、最悪の、
「恩着せがましい」
という感情に陥らせたとすれば、それは、完全な勘違いでしかなかったということであろう。
それを思うと、
「私は、これでいいのだろうか?」
と、彼女の気持ちは揺らぎ始めた。
相沢も、確かに、父親の言いたいことは分かっているようだが、その考え方に、反発しかなかった。
「なんだよ。それじゃあ、俺が結婚を考えちゃいけないってのか?」
という感情だった、
その思いをもってしまうと、父親に対してどう対応すればいいのか、分かるはずがないではないか。
だから、それから以降、父親に対して、不信感がない状態で、さらに、彼女は、相沢に不信感を持つ。
「これって三すくみの関係?」
と彼女は思った。
しかし、そうなると、彼女は、父親から不信感を持たれていると思えてきた。
この三すくみの関係というものを、彼女は、信憑性をもって感じていた。
それが、彼女の感情であり、
「三すくみ」
というものをいかに感じるかということが、相沢にとって、どうすればいいことなのかを暗示させるものだった。
この三すくみの関係は、基本的に、
「抑止力が働いている」
ということで、お互いに、身動きができない状態を表している。
つまりは、先に進むには、そこで立ち止まってはいけないということであった。
そうなれば、
「どこかのバランスを崩す必要がある」
ということになるのだろうが、この、
「三すくみ」
というものが、なるべくしてなったものであれば、
「本当に崩してもいいものだろうか?」
ということを感じさせる。
それを、彼女は感じていたが、あとの二人は分かっているんだろうか。
一見、彼女は、
「一人だけ蚊帳の外だ」
という風に見えているのだろうが、果たしてそうだろうか、
「見えているだけで、実際には、三すくみの状態だとすれば、完全に、その一角にいるということだ」
ということになる。
そこで彼女は、
「この場には三すくみだけではない、もう一つの抑止力がある」
と考えるようになった。
それは、
「親子の関係」
というものであり、彼女はその中に、
「自分が入れない」
ということを分かっているのであった。
というのも、
「親子関係というものが、どういうものなのか分からない」
と、母子家庭で育った彼女は、思っていた。
それは、偏見に近いものだと自分で思っていたが。実際にはどうだったのだろう。
母親の教育は結構厳しいもので、
「母子家庭でも、人から、後ろ指をさされるようなことがないように」
という思いの強さから、彼女には、さらなる力と、偏見を持つ目が、養われたのだった。
それは、
「長所と短所が紙一重」
と言われるように、
「もろ刃の剣」
といってもいいような関係になっているといってもいいだろう。
それを思うと、
「親子の関係」
というものの中に、
「父親という存在があるとないとでは、大きな違い」
と、いまさらながらに、彼女に感じさせた。
そんなことを彼女が感じているなど、想像もしていない相沢は、
「自分一人が浮いている」
と思っていたのかも知れない。
ということで、
「三すくみ」
というものの中で一番浮いているのは、その通りの、
「相沢だった」
といっても過言ではないだろう。
結婚
相沢と彼女は、そのあたりから、関係がぎくしゃくしてきたのだった。相沢とすれば。
「何とか父親を説得したのだから、これで自分の株が上がった」
と思っていた。
そもそも、父親が、
「会わない」
といっていたのは、息子の仕事のことを考えてのことだったので、それも仕方がないと彼女は思ったのだ。
それは、
「父親のいない彼女からすれば、父親がいるだけで羨ましい」
と思っているところ、
「親子で、ここまで温度差がある」
ということがどういうことなのかということを考えると、それは、当然、
「息子のわがままだ」
と思うことだろう。
だから、今回会ってくれたのは、相沢が説得したわけでもなんでおなく、父親の一存ということで、相沢の手柄でもなんでもない。
万が一、息子が説得したということであれば、それは、あくまでも息子の手柄ではないだろう。
「親子の間での意思の疎通ができただけだ」
ということで、本来ならあるはずのものだと思うだろう。
それを今まで築いてこなかった、親子間というものに問題があるのであって、彼女はそれくらいのことは分かっているので、別に相沢の手柄でも、なんでもないと思っている。
それなのに、相沢は、
「まるで、自分の手柄」
という態度に出てくるから、もう感情も、愛情も、冷めてしまったといってもいいだろう。
女というのは、
「何かを口にする時は、すでに覚悟が決まった時だ」
ということを言われることがある。
相沢は、そんな女ごころなど知る由もなかった。
「相手が何も言わないのは、何もないからだ」
としか思っていない。
それこそ、
「便りの無いのは良い便り」
と言われるのと同じであった。
それを考えると、
「この温度差は、埋まるどころか、どんどん広がっていくことしか考えられない」
というのも同じであった。
彼女は、そんなことを考えていると、相沢のことが、鬱陶しくなってきた。
そうなると、もう相沢がどうするか?
ということであるが、彼女から見ていて、相沢は、
「もう、どうしようもない」
ということになり、
「最後通牒を出すしかないだろう」
ということで、
「別れましょう」
と言い出した。
相沢という男は、大学時代にも、
「少しだけ付き合って、別れを迎えた」
という女性が結構いた。
それは、数人いたのだが、いつも相手から、
「別れましょう」
と言われて、
「どうして?」
といっても、その理由は話してくれないということが多かったのだ。
というのは、本当に毎回のパターンで、中には、何も言わずに、消えようとする女性もいたくらいで、今では、
「ストーカー行為」
ということで、警察案件になるようなことも、当時は、そんな法律もなく、
「相手の帰りを待ち伏せしたり」
などということを繰り返していた。
それを考えると、本当は、
「顔が真っ赤になるくらいに恥ずかしいことをしていた」
という意識は、もはやない。たった数年しか経っていないのに、忘れてしまっているのだ。
「都合の悪いことはすぐに忘れる」
という意味でも、相沢という男は最悪な男だったのだ。
そもそも、