輪廻する因果応報
というのが、一番の問題であり、父親への不信感が一番募っているのは、自分だと思っていた。
しかし、それは、
「自分の問題」
であり、父親を説得できるかどうかは、彼女には関係ない。
しかし、彼女は、当事者の一人なのだから、
「関係ない」
というわけにはいかない。
つまりは、関係ないというわけにはいかないところが辛いところで、
「自分から、押しかけるわけにはいかない」
というところが、一番の問題だったのだ。
それを分かっているつもりでいた。
というのは、
「俺が、何とかしないと、彼女の俺への不信感が募ってくる」
というものだった。
それは彼女の心情を思い図るというよりも、彼女の心情が、自分にプレッシャーをかけるという状況が分かっているということだった。
だから、その思いが余計に父親に対しての怒りとなる。
父親の気持ちが分からないからだ。
「会えば、きっと、彼女の良さが分かってくれる」
ということしか頭になかった。
それでも、何度か説得しているうちに、父親の牙城を崩すことができたのか、しばらくすると、何とメカの説得で、やっと、
「連れてこい」
というところまで行きついた。
安堵の下に彼女を父親に合わせることに成功したが、その間に、
「いわれのないプレッシャーを感じさせられた」
と思っている、彼女もつらかっただろう。
相沢は、安堵の様子だったが、彼女としてみれば、そう簡単に安心できるわけはない。
何しろ、
「安心しろ」
と言われていたのと、まったく話が違ったわけなので、もう、相沢に対しての安心感など持てるはずがなかったであろう。
そう思うと、彼女の相沢へのマイナスは、この辺りから始まっていたのかも知れない。
しかし、相沢とすれば、
「ここからだ」
と、プラスの階段を徐々にだがm昇っていたのであろう。
二人は、相沢の父親に会うことに成功したが、それがどういうことなのかというと、
「相沢にとっては、これからの礎というものだ」
と感じていたが、
「彼女としては、ピークを越えた」
というくらいに思っているのかも知れない。
相沢は、しっかりとした自覚を持っていたが、彼女としては曖昧な気持ちだったに違いない。
しかし、実際には彼女の感情の方が正しかった。
つまりは、もう、これ以上、二人の間で昇り切ることなどできるはずがない。
ということになるのであった。
彼女を父親のところに連れて行ったことで、やっと、父親が何を考えていたのか分かったが、それが、さらに、彼女の相沢への不信感につながったのを、相沢には分かるはずのなかったのであった。
父親を初対面をした彼女は、緊張の上に、必死に笑顔を作っていた。
相沢とすれば、
「俺が、守ってやる」
とばかりに、一人、息まいていたのだった。
この場で一人虚勢を張っていたといってもいい、
彼女にとっては、不安しかなく、それこそ、
「頼りになるかどうか分からないが、相沢にすがって、彼の後ろに控えているしかない」
という状況を、いかに感じるかということが、彼女にとっての、感情だったのだろう。
相沢とすれば、
「俺を頼りにしてくれているのだ」
という感情の下、
「俺を愛してくれているんだ」
という思いが、その時の相沢を支えていたことだろう。
父親との対面は、そこまで厳しいものではなかった。
相沢は、完全に、
「戦闘態勢」
であったが、彼女の方は、逆に、安堵していた、
「父親が、思ったよりも冷静だ」
と感じたからであった。
「これだけ冷静に考えられるような表情の人が、どうして、会うだけのことをここまで固執したんだろう?」
と思うと、本当は不安でしかなかった。
しかし、逆にいえば、
「私に会おうとしないということは、私自身の問題ではないのだ」
ということを彼女に分からせるのに、本当は無理もないことだったのだろうが、その途中に入った、相沢が、頼りないということで、余計な心痛と、不信感を抱かせる結果になってしまったのだ、
それを思うと、彼女はやっぱり、
「相沢さんに対して、不信感しかないわ」
ということであった。
そして、彼女は、これから、
「この父親が、何をいうか?」
ということが、分かったような気がした。
実際に、父親が口にした言葉を聞いても、別にショックでもなかった。
むしろ、息子である相沢が、
「どうして気づかないんだろう?」
と感じるほどだった。
ひいき目に見れば、
「親子だからこそ、分からない部分もある」
といってもいいだろう。
というのは、彼女には、父親がいなかったからだ。
父親をまだ小さい頃に亡くしたということを聞いていたので、母子家庭で育ったということも分かっている。
「それは大変だったわ」
と彼女は、自分の運命を思い出しながら、話していたが、それを聞いた相沢はどう感じただおるか?
完全にとまではいかないが、
「愛情よりも、同情の方が強かった」
のかも知れない。
それとも、自分が愛することで、
「彼女に対しての優越感に浸れる」
とでも感じたのだとすれば、それは、あまりにお大きな思い違いであった。
それは、
「大きい」
というよりも、
「罪深い」
と言った方がいいくらいで、相手の気持ちを踏みにじり、裏切っているといってもいいだろう。
自分にとって、
「いかに都合のいいことばかりを考えているのか?」
ということに繋がるからであった。
それを思うと、
「相沢さんは、自分のことしか考えていない」
としか思えなかった。
「父親がこれから何をいうかなど、ずっとこの父親と一緒にいたんだから、分かりそうなものなのに」
と、父親がずっといなかった彼女に分かるくらいのことを、なぜ分からないのか?
ひいき目に見ると、
「灯台下暗し」
ということで、分かっていそうなことだけど、近すぎて分からないということなのだろうかと感じたのだろう。
しかし、それは、裏を返せば、
「甘えているから分かっていないんだ」
ということになるだろう。
特に、相沢とすれば、
「自分は、父親の気持ちがよくわかる」
というような口ぶりだっただけに、それが、音を立てて崩れていくのだ。
それに、その言葉は、ある意味、
「マウント」
というものであり、母子家庭で育った彼女に対しての、侮辱ということになるのを分かっていないのだろう。
マウントというものを、勝手に作り上げることで、相沢は、その頃から、
「迷走していた」
といってもいいだろう。
そんな相沢だから、この期に及んで父親の気持ちが分からないということなのだ。
父親が、相沢に言いたかったことは、
「お前は、まだ社会人一年生じゃないか、そんな状態で、何を舞い上がっているんだ」
ということが言いたかったようだ。
つまりは、
「これから、どんどん会社で覚えなければ多い今の時期に、結婚や、恋愛なんてものに、うつつを抜かしているなどありえない」
ということが言いたかったのだろう。
実際には、そうではないのかも知れないが、父親としては、それだけはいっておきたかったのだろう。
逆にそれを彼女の前で言わないと、