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輪廻する因果応報

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 20年前であっても、声の低さはあったと記憶しているが、さらに年月を重ねると、声が低くなっているのであった。
 そして、担当の人が、
「こちらが、ここの担当をされている相沢さんです。藤本さんは、相沢さんの指示で働いてもらうことになります」
 と、担当はいうのだった。
 相沢は、
「相沢と申します。これから私の方で、まずは、お教えしていきますので、よろしくお願いいたします」
 と挨拶をした。
 相沢の会社は、基本的に、
「教育は、社員が行う」
 ということになっている、
 なぜなら、
「派遣社員が、もし、間違って覚えていた場合がまずいからだ」
 ということである。
 もう一人の派遣社員が、分かっていないということであれば、それは結局、もう一人に対しての教え方が間違っていたということであるので、それはそれで問題なのだが、
「被害は一人で済む」
 ということで、言い方は悪いが、
「腐ったミカンの原理」
 といってもいいだろう、
「伝染病であれば、水際対策で、一人だけを隔離してしまえば、とりあえず、それ以上増えることはない」
 ということに似ているということであろう。
 そういうことがあるからか、
「新人教育は、社員で行うということが当たり前」
 ということであり、それが世間一般であるということも分かっていた。
 ただ、仕事が若干きつくなるということもあるが、その一定期間だけのことなので、却って、新人が戦力になってくれると、
「こちらも楽になる」
 ということであった。
 そんな彼女が、相沢に気が付いたのは、研修期間10回のうちの、4回目くらいからだっただろうか。
 というのは、彼女が、相沢の、
「癖のようなものに気づいた」
 からであった。
「ひょっとして、相沢さんって、K大学に通っておられた?」
 と聞いてきたので、
「ええ、そうですよ」
 といって、
「やっと気づいたか?」
 という感覚で、理沙を見た時で、理沙の方も、そのことに気づいたことで、余計に、お互いのことが気になったのであった。
 理沙は、完全に
「懐かしい」
 ということを強調していたが、相沢の方とすれば、もう少し複雑な気分であった。
 それは、結局最後に会った、あの
「童貞喪失の日」
 というものが頭の中にあったからであろう。
「童貞喪失」
 というものが、どういうものだったのかということを、相沢は、正直意識していない。
 というのも、
「相沢には、それから、4年後くらいに、どうしても結婚したいと思った女性が現れ、しかも、その時の混乱が、まわりに波及をおよぼし、結果、会社を首寸前にまで行ったことが頭に鮮明に残っていたからだ」
 ということである。
 しかし、少し不思議に思うのは、それくらいの時期の感覚が、
「時系列としては、曖昧で、どっちが、過去のことだったのかということが分からなくなるくらいになっていた」
 ということだったのだ。
 特に、大学時代に、卒業の問題を抱えていた時のことの方が、それ以降に起こったことを、
「凌駕している」
 とばかりに感じているくらいだったからだ。
 特に、
「大学卒業から、社会人になる」
 という期間は、
「まるで、幼虫から、さなぎを経て、成虫になる」
 というような、段階を追う中で、
「さなぎから、成虫に変わる時」
 という感覚が強く、そんな時の卒業と就職で、かなり苦労したということで、余計にこの狭間というのは、自分にとって、意識が強いのも当たり前だというものだ。
 社会人になってから、ちょうど1年目だったが、就職した会社では、
「半年の研修期間が過ぎて、正式採用ということになると、勤務地がさらに変わる可能性がある」
 ということである。
 それは、もちろん、会社の事情ということで、特に、
「支店の需要」
 ということになるだろう。
「若手の新人営業がほしい」
 というところもあるだろうから、それによって勤務地が変わるのだ。
 その頃は、
「自分が、人の顔を覚えるのが苦手だ」
 と考えていたことに気づいてはいたが、あまり深く考えていなかったこともあって、
「俺は営業をするんだ」
 ということで、普通に、営業職を考えていた。
 だから、研修が終えて、他の支店へ転勤になった時も、
「引っ越しは億劫だ」
 とは思っていても、
「まあ、転勤は構わないか」
 ということは普通に考えていたのだった。
 実際にその支店に赴いてみると、そこに一人、気になる女の子がいた。
 その子は、今でも、
「自分が今までに好きになった女の子で一番の女性だ」
 と思うような子であった。
 周りから見ると、
「相沢君は、彼女のことが好きみたいよ」
 ということで、皆から、すぐにばれていたのだった。
 特に、倉庫でのパートさんなどは、敏感なようだった。
 特に、その支店が、結構な田舎の県の都心部というところだっただけに、
「一応、都会の様相を呈してはいるが、田舎の感覚は根深く残っているようで、よそ者を受け付けないという気持ちが深まっている」
 ということであった。
 だから、少しでも、都会の地方であったり、大都会と呼ばれるようなところから来た人であれば、皆、その目線は、
「上目遣い」
 ではありながら、
「負けたくない」
 という意識からなのだろうか、
「上から目線」
 だったりするのであった。
 そんなパートさんが、
「話題を欲しがっている」
 というそんなところに飛び込んできたのが、
「相沢」
 だったのだ。
 その支店は、今までに結構曰くがあるようで、自分が配属になる数年前には、同じように都会から来た新入社員が、
「海に落ちた」
 という事件があったという。
 どういうことだったのかということまでは、ハッキリとは分からなかったのだが、とにかく、
「自殺ではない」
 ということだけは確かだったという、
 もっとも、
「自殺をしようとした」
 ということであれば、もっと大きな騒ぎになっていたであろうし、そんなウワサは、もっと前に聞いていたであろうからである。
 それを思うと、
「この支店は、曰くのある人が多い」
 ということだった。
 ただ、その先輩社員は、さすがにそれ以上いることができなかったということで、
「自主退社」
 ということになったのだろうが、実際に、会社を辞めた理由は、
「他にもあったのではないか?」
 という話もあったが、どこまでが本当なのか、信憑性がない。
 その時、女子社員とウワサがあったということでもあったようだが、
「それなら、俺をたきつけるようなことはしないだろうにな」
 と思ったが、ひょっとすると、
「この自殺未遂事件と、女子社員とは、まったく関係がないのかも知れない」
 ということだが、ハッキリとした理由が分かったわけではなかった。
 実際に、自殺をしようとしたのかどうかも曖昧で
「自殺だった」
 とされたのは、
「遺書が残っていたから」
 ということだが、そもそも、自殺をしようとしてできなかったことで、残ってしまった遺書であるわけで、本当に自殺をするつもりだったとすれば、
「あの文面は、中途半端だ」
 という人のいたようだ。
「そんな変なやつが、この支店には、昔いてね」
 と言われた。
作品名:輪廻する因果応報 作家名:森本晃次