「悪魔の紋章」という都市伝説
「ご祝儀」
というものをくれたりするのだ。
だから、引っ越しのアルバイトは、結構割に合うもので、金銭が最優先の時には、まず、引っ越しのバイトがあるかないかを探すのだった。
春と秋には、結構引っ越しが多い。それは、転勤の時期ということでそれは当たり前だが、引っ越しセンターによっては、一日に二軒の引っ越しに駆り出されたりすることもある。
ただ普段は、
「一軒終われば、そこでお開き」
ということで、一日中ということでの契約であっても、終わってしまったのだから、日東として、満額もらえるというのは、引っ越しのアルバイトのメリットでもあったのだ。
今回のアルバイトは、そんなにお金が必要ではなかったので、気軽に行けるところを選んだのだった。
ちなみに、先ほどの、
「学生相談所」
でアルバイトを決める順番の続きであるが、自分の行きたいところのケースに、決められた時間までに札を入れることで、時間がくると、今度は、相談所の係員の人が出てきて、決定するまでの対応を行うのだ。
まず、求人番号順に裁くことになるのだが、それが、定員に対して、求人が同じか少なければ、その人たちはすべて、
「合格」
ということで、そのまま、紹介状をもらうことで、手続きに入るのだ。
しかし、求人に対して応募が多ければ、そうはいかない。どうするかというと、基本的には、
「抽選」
を行うのだ。
抽選を行って、合格者は、前述と同じように、紹介状をもらうのだが、もし、不合格になったとしても、そこで終わりではなかった。
今の手順が粛々と、最後の求人番号まで行われると、そこからは、
「2回戦」
ということになる。
もう一度、いけなかった人が、応募できるという、
「敗者復活戦」
ということになるのだ。
つまりは、決定した中でも、
「求人の数に比べて、応募数が少なかったところは、まだまだ空きがあるということになる」
ということは、
「再度、敗者復活戦ということになる」
ということだ。
求人番号で、もうすでに決まったところは、ケースを元に戻さず、ケースがあるところだけは、応募ができるという形になったのだ。
だから、応募の箱に向かって、学生が、再度決められた時間までに、自分のカードをケースに入れていく。
今度は、決まった人はほとんど帰ってしまったので、残った人は数少ないだろう。
そうなると、ケースの数も少ないし、あとは早いというものだ。
中には、その、
「敗者復活戦にも敗れた人もいるだろうが、時間的にはそこでタイムアップとなることが多い」
という。
「たまには、3回戦目も」
ということがあるらしいが、あくまでも、基本は2回戦まで、そうなると、
「人気があるところは結構競争率は激しいが、人気のないところは、とことん人気がない」
ということになるだろう。
学生たちは学生たちで、情報共有をしていて、
「あそこだけは、やめておけ」
などという学生の間での暗黙の情報共有があり、結局、誰も、行かないというところが結構あったりする。
そういうところは、金銭的な面でもそうなのだろうが、相手の会社に、
「気に食わない人がいる」
ということが多かったりする。
「職人気質」
と呼ばれる人であれば、どうしても、
「気が荒かったり、自分が一番正しいと思うのか、考え方を押し付けるという人は、今も昔も、一定数はいる」
ということであろう。
だから、
「実際に求人があっても、応募がない」
というところは毎回同じで、そういう会社は、
「なぜなんだろう?」
とその理由をまったく分かっていないところが多いということになるだろう。
そんな中で、比較的求人も多いが、応募者も多いのが、
「引っ越し」
というものと、
「会場設営」
というアルバイトである、
会場設営というところは、
「博物館や美術館」、
さらには、
「コンサート会場」
における設営を、監督のような人の指示に従って、行っていくだけである。だから、自分の場所というものもあるわけではないので、ある意味、
「何人かいなくなっていても、別に分からない」
ということでもあった。
同じ会社に何度も言っていると、そのパターンが分かってくるというもので、大体は、
「最初に点呼を取ると、あとは、昼休みと、昼からの始業を告げるのであるが、その時はいちいち点呼は取らない」
ということだ。
だから、最後に点呼を取るのは、給料をもらう時で、
「その時になればいればいいだけだ」
ということで、ほとんどの時間、どこかに抜け出して、遊んでいる輩も数人くらいはいただろう。
会場の人も、アルバイトが抜け出しているなどということが分かるわけもない。さらに、分かっているとしても、自分の仕事に集中しているので、そんな余計なことを問題にして、自分たちが叱られるというようなリスクは負いたくないだろう。
だから、抜け出している人がいたとしても、いちいち目くじらを立てるようなことはしない。
「まあ、しょうがかいか」
ということで見守るしかないのであった。
それが、一般的な、
「会場設営のバイト」
ということであり、瀬戸口青年は、結構このアルバイトには来ていたが、今のところ、抜け出そうとは思ったことがなかった
というのは、
「もし、早く終わって、給料を渡す時間が早まったちして、結局給料がもらえな変えれば。何しに来たか分からない」
ということであるが、それだけの問題ではない。
なぜなら、
「お金を渡すときに、その本人がいなかった」
というわけである。
要するに、
「その人は、会場から抜け出していた」
ということが露骨に分かるわけである。
うまくやって、見つからなかったのであれば、それで問題ないのだろうが、ここまでハッキリと分かってしまうと、彼らも、
「会社に報告しない」
というわけにはいかない。
ということは、
「次からは、その会社の会場設営のアルバイトにはいけない」
ということになり、下手をすると、
「学生相談所にもチクられてしまい、次からブラックリストに載るか」
あるいは、
「しばらく、応募ができない」
という制裁を受けるかも知れないということであった。
それを考えると、
「目先の楽さに目がくらんで、下手なことはしない方がいい」
と考えるのであった。
実際に、過去にそんな人がいたのか分からないが、スマホはおろか、ケイタイもない時代である、誰かが、
「もうすぐ終わるから帰ってこい」
というような情報を流すことも不可能だ。
もっといえば、こんなことが続くと、ひそかに戻ろうとした時、入口で見張り番をしている人がいるかも知れない。それが怖いのだった。
だから、怪しい態度をとるわけにはいかない。
しかも、もし自分が、そういうことになってしまうと、監視も厳しくなり、募集も減るかも知れない。
これは他の人にも迷惑をかけるということで、あまりいいことではないだろう。
それを考えると、
「やつらが、やっていることは、本当に考えなしなんだな」
と思うのだった。
作品名:「悪魔の紋章」という都市伝説 作家名:森本晃次