永遠の循環
そんな久保田だったので、
「結局は、いつも同じパターンで別れてしまう」
ということを毎回繰り返すのだ。
しかも、付き合っている期間も短いので、
「おいおい、今度はまた別の女性かい?
と、まるでプレイボーイであるかのようなのだが、実際には、まったく違う付き合い方なのであった。
そんな久保田は、相変わらずのまま、
「迫水に奪われた女」
のことを、
「悪い女だ」
と思いながらも、
「寝取った男」
である、迫水にも、当然のごとく、恨みを感じていた。
寝取られたといっても、本来は、自分が悪いのである。
「女を寝取られる」
というのは、
「男側にも若干の責任はある」
ということは、久保田も分かっていた。
しかし、今まで別れた女性の中には、
「付き合っている時に、他の男を好きになった」
ということはないだろうと思っていた。
ただ、それは、自分が知らなかっただけで、今回のように、
「女の方が露骨に、迫水と付き合っている」
という様子を垣間見させたということはなかった。
だから、今回は、
「いつもと違う」
と思いながらも、その後ろに男がいるということを考えると、
「裏切者」
という感覚にもなった。
今までにも、あったことなのかも知れないが、他の女は素振りを見せなかった。だから、
「どうせなら、知らない方がよかったのではないか?」
とすら思えたのだ。
「知らぬが仏」
とはこのこと。
ということだった。
ただ、この女性、精神疾患があったことで、実は、相談をしていたのは、迫水だけではなかった。
他の男性に対しても、
「私、どうしていいのか分からないの」
といって、相談したのだったが、その男は、ひどい男で、女の乙女心を利用して、
「金をせしめよう」
と思っていたのだ。
いわゆる、
「チンピラ」
のような男で、実際にやっていることは、
「それ以下」
だったといってもいい。
ただ、表向きには女性に優しかった。
だから、女性にうまくいって近づき、安心させて、お金を貪る。
こんなひどい男だったので、まだ、迫水の方が、十分にマシだった。
しかも、この男、迫水がいるということは百も承知で、そのうえで近づいたのだ。
この男は、
「女に不自由をしていないので、女を騙くらかして、金をせしめるということだけが目的なので、嫉妬心などというものも、一切なく、それだけに、その男の存在を、迫水も、久保田も知る由もなかったのだ」
このチンピラは、女性に対して表面上のやさしさしかないので、嫉妬心がないことから、迫水や久保田に感づかれるということはないのだ。
だから、彼女本人が、この男に、見限られ、捨てられた時、すでに、お金も取られていたので、誰にも相談できずに、一人苦しむことになった。
チンピラは、そんなのはどうでもよく。
「騙される方が悪い」
とうそぶいているくらいだった。
だから、女は、本当に悩んでしまって、どうすることもできない。
何も言えないまま、そのうちに、金を使ってしまったこともバレるだろう。
そもそも、考えてみれば、相談にしても、自分の寂しさなど、結果として起こってしまったことからすれば、なんでもないことだった。
それを思えば、
「もう、あとには戻れない」
ということで、悩むだけ悩んで、結果、一人で結論を見つけてしまうのだった。
女は、そこで、
「死」
を選んだのだった。
その理由を、警察は調べて、ある程度は分かったのだが、それを、親族でもない、久保田に話すわけはない。
ましてや、人間関係を調査する中で、名前は出てはきたが、表には出てきていない迫水に話すわけもない。
だから、二人は、何も分からないままだったのだ。
久保田は、当然、迫水を恨むだろう、迫水も、
「原因は、久保田にある」
ということで、お互いに、恨みを持ったに違いない。
しかし、迫水の方は、そこまで彼女を好きだったわけでもないし、
「相談されたから付き合っただけだ」
と我に返ると、その憎しみは消えていた。
白状なようだが、
「これ以上かかわることは、自分のためにならない」
と思えたのだった。
迫水は、そう思い、自分が、
「まさか久保田に逆恨みされている」
とは思っていなかった。
「久保田の方も、そのうちに忘れるだろう」
というくらいにしか思っていなかったのだ。
しかし、久保田は、実際には、そこまで彼女のことを好きだったということで、迫水に対しての殺意のようなものがないとは言えなかった。
ただ、迫水を付け狙って、
「あの男を殺したい」
と思っているのが、男女二人いたのだが、
「二人とも、その動機は、決定的なものではない」
といってもいいであろう。
大団円
迫水が、命を狙われたといって、交番に駆け込んだのは、彼女が死んでから、二か月くらい経ってのことだった。
その頃は、その1か月前に、
「妊娠した」
といって相談に来た女性に対して、
「本当に俺の子か?」
といって、なじるようなことを言っておいて、結局、堕胎させることになった女が、堕胎手術をしてから、3か月が経っていたのだ。
迫水が、
「命を狙われる」
とすれば、一番考えられるのが、この二つだった、
この日、迫水に、何があったのかというと、
「横断歩道から突き落とされそうになった」
ということだったのだ。
人気のないところであったが、その時ちょうど後ろから別人が歩いてきたことで、
「危ない」
と声を掛けられたことで、一命をとりとめることになった迫水だったが、
「さすがに、恐ろしい」
と肝を冷やしたことと、
「声をかけてくれた人が、目撃者だ」
ということで、
「警察に届けないわけにはいかない」
という事情になったのだった。
男の人が、証人ということで、交番までついてきてくれて、証人は、普通に事情聴取をされただけだったが、実際に狙われた方はそうもいかない。別の日に。警察署への出頭が求められ、行かなければいけなくなったのだ。
その時、いろいろ聞かれたが、
「正直、命を狙われる理由が分かりません」
としか答えられなかった。
しかし、実際には、
「叩けば埃の出る身体」
といってもいいとは思っていたので、警察に聞かれるたびに、
「自分が被害者でありながら、なんで、こんなにびくつかなければいけないんだ?」
と思えてならなかった。
その日は、とりあえず、
「分かりません」
ということにしておいたが、
「どうせ警察のことだから、いろいろ調べるんだろうな」
ということで、
「堕胎した彼女がいる」
ということまでは分かっても、
「自殺をした女がいた」
ということまでは分からないだろうと、たかをくくっていたのだが、実際には、警察の捜査で、簡単に化けの皮がはがされるということくらいは、普通のことだったのだ。
さすがに、迫水も、まるで、
「まな板の鯉」
のような状態であった、
さすがに、それを自分の口からは言えなかった。
この二つのことは、警察に直接話せば、きっと、
「汚いものでも見るような目つきをされる」
ということは分かっていた。