異次元交換殺人
しかし、キャリアは、確か最初が、警部補からだったか、とにかく、現場であっても、上司の立場から、入った瞬間に、その立場となるのだ。
ということは逆にいえば、下積み時代がないわけなので、その時に手柄を挙げるべきものがないということになると、最初から、
「あったもの」
ということになるのではないだろうか。
そうなると、これは、
「ノンキャリア組が、加算法」
だということになれば、
「キャリア組は、減算方式」
ということになるだろう。
これは、
「番付表」
などがある相撲界にも言えることで、ただ、相撲界は、
「横綱以外であれば、負け越せば、番付が下がっていく」
というのは当たり前のことである。
大関の場合は、一度負け越せば、
「カド番」
と呼ばれ、次に負け越せば、
「大関陥落」
ということになる。
つまりは、2回続けて負け越せば、大関陥落ということになるのだ。
ただ、横綱の場合は、そうではない。
「横綱の場合は、陥落ということはありえない」
ということであり、横綱は、負け越したりすれば、その時点で、
「引退?」
と騒がれることになる。
だから、ちょっとでも体調が悪かったりすると、横綱は、
「すぐに休場」
ということになる。
もっとも、皆が皆、そのような姑息なことをするわけではないだろうが、横綱は、品格とともに、
「負けることを許されない」
これは、キャリア組として入ってきた人たちにも言えることだ。
つまり、
「キャリア組には、黒歴史は許されない」
ということである。
黒歴史は、そのまま、命取りになり、
「降格となるか?」
あるいは、
「自分から身を引くか?」
のどちらかしかないのだ。
そんな状態において、実際に平岩という被害者のことが、警察でも、今のところ、
「まったく情報がない」
ということであった。
そこで、あとは、捜査とすれば、
「死体が発見された場所」
つまりは、
「犯行現場」
とされる場所を中心に回るしかない。
ただ、警察、鑑識の情報とすれば、
「犯行現場は、ここではない」
ということが、かなり高い確率として考えられることから、
「本来の犯行現場の特定」
を急ぐ必要もあった。
そのために、この平岩という人物の、
「人となり」
が分かっていないとどうしようもないだろう。
犯行現場というのは、実際にはその特定は難しいということになるだろう。
「犯行現場を特定する」
ということが先か、それとも、
「平岩という男の正体を知る方が先か?」
ということで、それこそ、
「タマゴが先か、ニワトリが先か?」
という理論と似たところがあった。
あちらは、あくまでも、理論の問題であって、結論としては、結果同じということが分かっているが、リアルな事件としては、この順番には、大きな事件解決に対しての問題であるということになるだろう。
これは、警察の捜査方針の問題で、それを考えるのは、捜査本部長であり、捜査員は、「決まった捜査方針に逆らうことはできない」
ということになるのであった。
捜査本部では、鑑識の正式な敗亡結果が、届けられた。初見での鑑識の、見込みとさほど変わったところはなかった。
「死因は、背中からの刺殺であり、出血多量によるショック死、いきなり、背中から刺されたということであり、死亡推定時刻も、最初の見立て通り、昼下がりの時間くらいだったのではないか?」
ということであった。
特に特質すべきことはなく、捜査本部でも、そこにはぶれを感じていなかったので、驚きも何もなかった。
ただ、捜査本部としては、
「あまりにも、被害者の情報の少なさに、驚きが隠せない」
ということで、
「この被害者の平岩という男は、どこを拠点に生活をしていたんだろう?」
ということであった。
確かに、現住所も、病院に届けている住所も、変わりない。間違いなく、家宅捜索を行った部屋の住民ということに変わりはないのだが、あまりにも、
「生活臭」
というものが感じられないのであった。
それが、逆に容疑者であったりすれば、まだわかるのだが、被害者がそうだということであれば、捜査が進むはずがない。
捜査会議の中で誰か一人が、ボソッと言ったことに、
「これじゃあ、被害者が犯人になっていても、不思議はないんじゃないか?」
というのがあったが、その時は皆、
「聞いて聞かないふり」
をしていたが、あとになって、
「ひょっとすると、そうなのかも知れないな」
と思えるようになってきたのだった。
それを考えると、一つの仮説もできあがりそうだ。
一つ言えることとしては。
「被害者は、本当に殺されると思っていたのだろうか?」
ということである。
被害者は、後ろから刺されているのだ。犯人からすれば、
「これ幸い」
ということで、背中から刺したわけだが、被害者も、もし
「殺されるかも知れない」
と思っていたのだとすれば、
「相手に簡単に背中を向ける」
などということはないだろう。
ということは、
「顔見知りの犯行ではないか?」
といえるのではないだろうか?
だから、後ろから刺されても、抵抗することもなく、倒れたといってもいいだろう。
ただ、ここまで考えると、そこで、もう一つの仮説が出てきた。
というのは、
「その場にいたのは、果たして、被害者と、犯人だけだろうか?」
ということであった。
というのは、
「そこに、もう一人たのではないか?」
ということで、そのもう一人というのが、
「共犯者」
という可能性が高いのではないかということであった。
というのは、
「被害者は、誰かを相手に話をしていて、普通に話をしているのであれば、後ろは無防備だったということであろう。だから、容易に実行犯は相手の後ろから、刺殺することができたのではないか?」
ということになるのだ。
この場合、正面に立っていた人が主犯なのか、共犯なのか分からないが、少なくとも、
「共犯者がいた」
という説も考えられるということである。
もし、被害者が、
「他のどこかで殺されて、ここに運ばれてきた」
ということであれば、
「共犯説」
というものも、なまじ、突飛な発想ということでもないだろう。
捜査のやり方として、
「最初は考えられることをすべて出し切って。そこから、減算法で、絞っていくということも、一般的ではないだろうか?」
と思えた。
特にこの事件のように、
「あまりにも不確実な状況が強い」
ということであれば、その発想も普通にあるだろう。
そうなると、
「共犯説」
というのは、そんなに突飛なことでもないので、その発想から考えた時に、辻褄が合ってくるようであれば、それも有力な説として、ありえることなのではないだろうか?
それを考えると、
「今回の事件で、もし違ったとしても、共犯説は、かなり深くかかわってくることになるだろう」
と思えたのだった。
とにかく被害者は、今のところ、
「特定されてはいるが、その正体が分かっていないので、捜査上では、まだ特定されていないというのと同じではないか?」