異次元交換殺人
「犯人は本当に、被害者の身元発見を遅らせたいという意図があるように見えて、身元が分かるものを持ち去ることはしなかったということに、何かの犯人の狙いのようなものがある」
ということなのだろうか?
被害者の、
「平岩」
という男であるが、この男の身元は、別の班が探していたが、それがいまいちよく分かっていなかった。
「これは、全体像が分かるまでには、少し時間が掛かるかも知れませんね」
ということであった。
免許証と、病院の診察券があったので、まずは、病院に行ってみた。そもそも、現住所に行ってみても、近所の人に聞くと、
「ああ、あの人、いついるのか、まったく分からないんですよ」
というではないか、実際に、部屋の中に入ってみると、
「これで生活しているといえるのか?」
というほど、何もなかった。
食器類の類は、炊事場のところにワンセット、しかも、必要最小限程度に置かれている程度で、部屋の中には、布団が一組あるくらいで、こたつ台のようなものが、申し訳程度に置かれている程度で、着替えも、数着、本当に必要最小限にあるだけだった。
部屋には、本棚も、筆記用具もなかったが、なぜか、オートパソコンだけが置かれていた。
警察が押収し、中を今調べているところだが、それにも時間が掛かるということのようだった。
どうやら、ガチガチにパスワードを絡めていて、まるで、
「調べられることを分かっていて、金庫だけを置いていて、どうせ、中身を見ることなんかお前たちにはできないだろう」
とばかりに警察を愚弄しているのと同じに見えたのだ。
しかも、冷蔵庫もなければ、食べ物も何もない。
さらに不思議なことは、
「まったくごみらしいものがない」
ということであった。
部屋は、確かに、
「生活集がない」
というわけなので、埃は立っているが、汚れているわけではない。
「清潔というわけではないが、不潔というわけでもない」
というようなわけである。
とりあえず、この部屋で分かったことで、しかも、今できることというと、
「ノートパソコンの内容を知る」
ということであった。
今の技術であれば、パスワードが掛かっていても、少し時間があれば、それを解読することができるのだという。
もちろん、それが世間に知れ渡ると、これは警察としても厄介で、そうなると、開発者は、もっと厳しいロックを掛けるようにするだろう、
それこそ、まるで、
「コンピュータウイルス」
というものの、
「駆除と、開発者による、いたちごっこ」
だといえるだろう、
新しいウイルスができると、駆除の方が、駆除ソフトを開発する。そうなると、今度はウイルス開発者はさらに、強力なものを作ろうとする。
それこそ、
「核の抑止力」
というものと同じで、
「いつまで経っても、交わることのない平行線」
というものを描いていることになるのだった。
ノートパソコンの解読に、科捜研が躍起になっている頃、
「何とか、警察は、昔のやり方」
つまり、
「アナログ解読」
をしようというのだ。
それは、昭和のような、
「足で稼ぐ捜査」
ということだったりするのだ。
警察というところは、
「自分たちの仕事に誇りというのは、持っているのかも知れない」
しかし、心の底では、
「俺たちのすることにも限界がある」
という、自分にとっての、
「結界」
というのがあるのではないだろうか?
いくら捜査をしても、どうしても超えられないものがあったりする。
例えば、警察組織の壁であったりなどが言えるのではないだろうか?
昔の、刑事ドラマ、いわゆる、
「トレンディドラマ」
というのが流行っている時期のことで、覚えているセリフとして、一人のキャリアの青年管理官が、
「自分のやりたいことがなかなかできない」
と言った時、上司が言った言葉として、
「自分のやりたいようにやるには、えらくなれ」
と言われたという言葉が印象的だった。
しかし、本当にそうであろうか?
特に警察というところは、
「いや、警察に限らずであるが」
「えらくなればなるほど、上にいけばいくほど、そのしがらみが大きくなる」
といってもいいだろう。
確かに、警察組織であれば、警部補以上になれば、現場で指揮を執ることはできたりするが、それでも、警部や軽視から見れば下であり、捜査本部では、完全に下っ端である、
「だったら、出世して」
ということで、警部、軽視などになり、管理官になったとすると、今度はもっと上から、管理されることになり、もっと上はというと、実際の現場を知らない人たちであり、彼らも、最初は、それなりの、やりがいや、やりたいことを胸に秘めて、警察に入ってきたことだろう。
しかし、実際に出世してみると、
「上の顔色を窺ってばかり」
であり、要するに、
「上にいけばいくほど、キリがなく」
下手をすると、
「上に行けば行くほど、先が伸びるという、伸縮自在という意味での、孫悟空が持っている、如意棒のようなものではないか?」
と考えられるのだ。
つまり、
「下を見てもキリがない。上を見てもキリがない」
ということで、
「自分が今どこにいるのか分からない」
ということになるであろう。
つまりは、ことわざとして聞いたことがあるかも知れないが、これも、
「西遊記繋がり」
という意味で、
「百里の道は九十九里を半ばとす」
という言葉がある。
「ほとんど来たと思っていても、その先に何があるか分からない」
という意味で、
「まだ半分しか来ていないんだ」
ということを考えれば、それくらいに考えていた方が、自分の戒めにもなるし、何かあった時に、ショックが少ないともいえるだろう。
だから、
「出世というのは、すればするほど、うれしいかも知れないが、その分、不安も募ってくる」
といってもいいだろう。
警察組織だけでなく、もし、警察のトップに行っても、その上に、公安であったり、警察官僚や、省庁関係の政治からの圧力などがあり、
「結局、何かをしようとすると、最後には、国家権力の餌食になる」
ということである。
もっとも、自分を滅ぼすのが、
「国家権力」
であるなら、ある意味本望だといってもいいかも知れない。
警察だけではなく、官僚と呼ばれるところは、皆同じ形である、
だから、
「自分のしたいことができるようになるには、えらくなれ」
というのは、実はおかしいのだ。
えらくなればなるほど、軋轢が強くなる。そんなことが、その上司に分からないわけもないではないか。
と考えると、うがった見方ではあるが、その上司の下心というか、
「姑息な考え」
というものが、見え隠れしそうではないか。
なぜかというと、
「自分の部下が出世をしたり、えらくなれば、自分の株が上がり、自分も出世に近くなる」
ということではないだろうか。
いや、上司ともなれば、もっといえば、
「失敗が許されない」
といってもいい。
最初から、ノンキャリアに比べて、下積みなしで、ノンキャリアであれば、
「交番勤務から」
というのが、普通である。