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異次元交換殺人

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 検察というところは、警察の捜査によって得た情報を元に、起訴するかどうか決めるのだ。
 それを思うと、
「起訴した瞬間、警察の任務は終えるのだが、責任は、そこから生まれることになる」
 ということだ。
 それだけ、
「警察というものが、いかに厳しい判断が必要なのか?」
 ということであり、刑事事件の難しさというものが、浮き彫りにされるだろう。
 今回は、
「詐欺」
 というものがかかわっているだけに、微妙なところであろう。
 木下は、最初はかたくなだったが、こちらが少し強くいえば、重用容疑者の名前を簡単に白状した。
 その男の名前は、
「小山田」」
 という、
 桜井刑事が、木下のことを、次第に猜疑の目で見るようになったおかげで、小山田の名前が簡単に出てきた時、
「こいつは、犯人じゃないな」
 と感じた。
 しかし、その分、
「わざわざこの男の名前を出したということは、こいつは、この事件に、関係のない人物ではないか」
 ということで実際に調べてみると、
「確かに、詐欺で被害を食らっていて、この人は家族崩壊に追い込まれていますね。完全な被害者の一人というわけです」
 ということだった。
 そして、実際に、他の刑事が、この小山田という男に会ってきたが、
「小山田は、結構、落ち着いていた」
 ということであった。
 そして、
「やつが、アリバイを主張しているので。今調べさせています」
 とその刑事がいうので、
「そうですか。お任せします」
 と、桜井刑事は、いつになく冷静というか、無反応であった。
 こういう時の桜井刑事は、
「小山田のアリバイには、興味がなさそうだ」
 と思った。
 ということは、
「小山田には、完璧なアリバイがある」
 ということになるんじゃないかな?
 と考えられた。
 そして、実際に、帰ってきた刑事に聞くと、
「ええ、やつは、その日は、海外に行ってました。入出国も確認済みです」
 ということであったので、
「これ以上の完璧なアリバイはないだろう」
 そのことは、桜井刑事は、
「百も承知」
 という様子で、せっかく調べてきた刑事も、
「どこか、拍子抜け」
 という感じだった。
 まわりの刑事も。
「桜井刑事は何を考えているんだろう」
 と思ってはいたが、こんな桜井刑事は、今までにも何度も見てきた同僚や部下も、帰って、
「桜井刑事が、こんな感じの時って、結構早く事件が解決しているよな」
 と言い合っているくらい、桜井刑事のこの態度は、珍しいものではなかったのだ。
 そんな状態で、桜井刑事は、一つ気になっていたのが、
「木下の去就だった」
 なぜ、今頃現れたのか?
 ということであるが、もう一つ気になっていることがあった。
 それが、第一発見者の立川の様子だった。
 それで、桜井刑事は、独自に、立川のことを調べてみると、彼の妹が、ここ半年くらいの間に亡くなっているという。それはどうやら、
「自殺」
 ということで、しかも、彼女が妊娠していることが分かっていたというのだ。
 立川は、警察に捜査を依頼したが、なかなか警察は動いてくれないという。
 彼は独自で捜査してみると、どうやら、その日、近くで似たような暴行事件があり、その時は、未遂だったようで、犯人が逃げたのだという。その逃亡している犯人に、暴行された可能性が高いということで、警察に訴えたが、
「すでに自殺で処理済みだ」
 といって、何もしてくれなかったという、
 それから、立川は人が変わってしまったかのように、それまでは、結構明朗快活だった性格が、まったくまわりと話さなくなり、
「まわりを寄せ付けない」
 という雰囲気を作り出したという。
 誰も近づけない中であったが、今回のパンデミックの警備隊だけは、さすがに逆らうことができないということと、少しずつではあるが、明るさが戻ってきたということでの三かになったのだ。
 そんな中で、
「たまに思いつめたような顔になるのが、怖かった」
 と一緒の班になった人はそう言っていたが、
「完全に人が変わってしまっているんですよ」
 といって、少なくとも自分から近寄らないことにしているというのだ。
 その彼から、立川のことはおおむね聞けた。そして、彼がいうには、
「立川が殺したいと思っていた人ですが。最近殺されたようなんですよ。もちろん、立川も疑われたんですがね。でも、それは、アリバイが解決してくれたんですよ。彼には鉄壁のアリバイというのがあったようで、容疑者からすぐに消えたと聞いてます」
 ということであった。
 調べてみると、なるほど、彼の言う通り、殺人事件があって、立川が疑われていた。
 ただ、事件は別の管轄でのことだったので、情報が流れてこない。だから分かるわけもなかったのだが、それを聞いた時、桜井刑事の中で、事件の、
「最後の嵌らないピースが嵌った」
 という気がしたのだ。
 もっとも、これは、あまりにも、考えすぎといってもいいような、大それた考えなので、すぐには口にすることは憚られた。
 確かに、今までの事件の中でも、
「これほど、厄介な話もないだろう」
 ということであった。
 これが、うまくいけば、
「完全犯罪」
 なのだろうが、逆に、
「これほどリスキーなこともない」
 といってもいい。
 ただ、彼は、犯人に対する復讐だけでなく、妹の時に何もしてくれず、門前払いをした警察を一番憎んでいるのかも知れない。
「立川が、この事件で、どのような役回りを演じているか、そして、彼のまわりにいるであろう共犯者たちが、どのようなものか?」
 ということを考えると、
「本当の主犯は、やっぱり、立川なのではないか?」
 と考えられた。
 そこで桜井刑事は、この警察署以外でも、近郊の都市の警察署で、最近起こった殺人事件で、特に、
「アリバイが完璧で、お宮入りになりそうな事件」
 というもおを調べることにした。
 桜井刑事はこういう時のために、近郊の警察署に知り合いを作っていた。自分も彼らのために、今までいろいろ調べてきたので、
「お互い様である」
 と思った。
 そう、警察というところは、本当は、そういうところでなければいけないのだ。それが、どうしても、
「縄張り意識」
 というようなものがあるために、うまく機能しない警察と言われるのだ。
 そんな、
「悪しき伝統」
 など、ぶっ潰してしまいたいと思っているに違いない。
 そして、今回の事件で、もう一つ気になっているのが、
「木下と、立川と、小山田の関係」
 ということである。
 この三人が、
「それぞれに、殺したい相手がいるのではないか?」
 と感じるのだ。
 立川と、小山田は分かっている、
 となると、次は木下だった、
 彼は、今回の事件で、
「目撃者」
 というものを演じてきたが、果たして、事件全体では、どのようなポジションなのか?
 ということを桜井刑事は考えたが、もう一つ、
「この事件にポジションなどというのが存在しているのだろうか?」
 と考えると、どんどん巣増が膨らんでいき、
「このまま、無間地獄に突っ込むのではないだろうか?」
 と思えたのだ。
 というのは、この三人の力関係を考えてみた。
 というのは、
「三すくみ」
作品名:異次元交換殺人 作家名:森本晃次