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異次元交換殺人

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 桜井刑事の姿を見ると、警官は、
「おやっ?」
 と思った。
 それまでは、表情が、暗く、考え込んでいた様子だったのに、桜井刑事の顔を見た時、その顔に、安心感のような笑顔が生まれた。
「地獄に仏」
 とは、まさにこのことのようだった。
 桜井刑事が、交番にやってきて、態度が急変したことに、警官はさすがにびっくりした。
「俺はからかわれていたのか?」
 とも思ったが、考えてみれば、こういう態度は別におかしくはない。
 人によっては、
「自分よりも上の人には、へいこらするのに、下の人に対しては、容赦のない」
 というやつは、結構いたりする。
 そんなやつは、ほとんどが、
「小心者」
 であったり、
「臆病者」
 といってもいいだろう、
 こういうやつほど、
「勧善懲悪」
 のまったく逆であり、
「長いものに巻かれる」
 という最底辺といってもいい人間だ。
 と思っているのだ。
 ただ、桜井刑事はさすがに、
「百戦錬磨」
 といってもいいだろう。
 決して、自分の考えを相手に悟らせないようにするために、特に、初対面の人には、ポーカーフェイスの時が多かったりする。
 もちろん、わざとであっても、態度を変えなければいけない時というのはあるもので、実際に、相手から、
「普段はポーカーフェイスなのに。人によって態度が変わるのか?」
 と思われることもあるだろう。
 しかし、それは、刑事という職業的なものからくるものであり、却って、その方が自然なのだ。
 だから、今回の、
「目撃者」
 ということで現れた木下に対しては、ポーカーフェイスであった。
 だが、ひとたび、声をかけると、にこやかになる。
「社交辞令はこうだが、ウソや辻褄の合わないことに関しては、逃さないぞ」
 という意気込みのようなものがある。
 ということであった。
 桜井刑事は、警官が、木下に話をしているのを聞いて、黙っている。
 最初は、へいこらしていて、あくまでも、
「媚を打っていた桜井刑事」
 に対して、次第に、いらだちを隠せなくなってきた。
 それは、桜井刑事からすれば、狙い目であり、要するに、桜井刑事の考えとしては、
「自分から、聞くというよりも。しびれを切らせた相手から喋らせるということになった方がやりやすい」
 ということである。
 桜井刑事を意識しているうちに、顔は、真正面を向きながら、目線は、警官の後ろに立っている桜井刑事の方ばかりを注視しているのであった。
 この場において、一番やりづらいのは、実は。警官であった。
 前からは、目撃者と面と向かっているのに、視線はこっちを向いていない。さらに、自分の後ろには、
「逃さないぞ」
 とでも言いたげな桜井刑事の目が光っているのだから、それこそ、
「ヘビに睨まれたカエル」
 も同然だったのである。
 それこそ、前述の、
「三すくみ」
 である。
「ヘビとカエル」
 の関係を思わせ、ちょうどここにいる三人も、ひょっとすると、
「三すくみの関係」
 なのではないだろうか?
 警官が聞いたこととして、
「あなたは何を見たんですか?」
 というので、
「平岩さんが殺されるところを見たんです」
 というので、
「それを説明してもらいましょう」
 と警官が聞くと、平岩は、やはり、桜井刑事を意識しながらm
「はい、あれは、まだまだ日の高い時間でしたけど、影が伸びていたので、まさかそんなところに人がいるとは思わなかったので、近づいてみたんです。すると、ぐわっという鈍い声が一瞬したと思うと、そこから悲鳴が聞こえたんです。それで、影を見る限りでは、後ろからナイフで刺している様子じゃないですか? 怖くなってそこから離れようとした時、近くで、撮影隊のようなものが見えたので、てっきり映画かドラマの撮影か何かかな? と思ったんです」
 という。
「じゃあ、その時は、あれは、演出だと思ったわけですね?」
 と警官がメモを取りながら聞くと、
「ええ、そうなんですよ」
 という男に対して。再度、
「どうして、今になって、名乗り出ようと思ったんですか?」
 というので、木下は、
「理由は二つあるんですけど」
 と言い始め、警官は、
「一つは何となくわかるが、二つある?」
 と思ったが、聞いていると、
「なるほど」
 と分かることであった。
「まず、その一つというのがですね。そもそも、今のこの時期に、撮影というのが、大っぴらに行えるのか? ということですね」
 と言った。
 警官にも、桜井刑事にも、話を聞いているうちに、理屈は分かった。分かったうえで、さらに聞いてみると、
「だって、そりゃ、今の時期ですよ。世界的なパンデミックで、緊急事態宣言が出ている時に、飲食店なんか休業させられているというのに、ドラマの撮影なんか、普通はありえないでしょう」
 ということであった。
 そうだ。確かに今は緊急事態宣言中で、撮影などないだろう。
 ということは、あれは、何か、目撃者を仕立てるということで、木下に狙いを定めたのか。
 もしそうだとすれば、
「かなり計画的だ」
 といってもいいだろう。
 本当に、ちょっと考えれば分かることであった。
 そして、もう一つであるが、これには、二人ともピンと来るところがあった。
 まずいえるのが、
「影があったというのは、どういうことなんだ?」
 ということであった。
「何といっても、被害者が発見された場所というのは、影どころか、薄暗くて、窓らしい窓もない。雑居ギルの通路ではないか」
 ということである。
 そもそも、
「どこか別の場所で殺されたのではないか?」
 ということが、主流となっていた状況において、この目撃者の登場というのは、タイミング的におかしくないということで、そのことに、二人はまだ気づいていなかった。
 ただ、そうなると大きな問題として、
「平岩という男はどこで殺されたのか?」
 ということであるが、それ以上に、
「カメラ撮影が行われていた」
 という証言であるが、もし、これがウソだったとしても、
「どうして、こんなにすぐにバレるようなウソをつくんだ?」
 という風にも思えてくる。
 最初から、桜井刑事は、この、
「目撃者たる」
 木下という男を信じていないようだった。
 警官は、桜井刑事のことを前から知っていたので、普段は、
「ポーカーフェイスであるが、誰かを疑ったりした時の表情というのは、結構分かりやすかったりするな」
 と感じることが多かった。
 実際に、桜刑事は、今までの中で、
「怪しい」
 と感じたであろう人物が、
「本当の犯人だった」
 ということが結構前からあったようだ。
 桜井刑事は、
「鼻が利く」
 というわけではなく、桜井刑事の中で、何か信憑性のようなものがあり、それが、ヤマ勘というものとマッチするかのように、的中しているのだ。
「ヤマ勘」
 というのは、ほとんどが、
「あてずっぽう」
 のように言われるが、実際に当たったのだとすれば、
「これ以上、確かなことなない」
 ということで、大げさにいえば、
「高度な、科学捜査よりもしっかりしている」
 といってもいいかも知れない。
 ただ、桜井刑事の場合は、学生の頃から、
作品名:異次元交換殺人 作家名:森本晃次