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間違いだらけの犯罪

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 ということで、自殺未遂まで行ったのだから、そこまでは、行動パターンは、よくわかるというものだが、自殺未遂で運び込まれた病院から、いきなり失踪するというのも、考えにくい行動であった。
 そこで、警察が考えたのが、
「本当に、本人の意志による、失踪なのか?」
 ということであった。
「誰かの指示」
 であったり、
「脅迫めいたものが存在している」
 ということで、失踪に他の人間の強い意志が働いているとすれば、そこは、
「それはそれで、大きな問題だ」
 ということになり、それが、
「まるでキツツキ戦術のように、追い出される形になった」
 ということなのか?
「何か誰かに吹き込まれ、病院にいられない」
 という状況になったのか難しいところであるが、警察が判断するに、
「本人の意志ではないような気がする」
 ということであった。
 ただ、それを口にすると、秘密が秘密ではなくなる可能性があるので、ひそかに捜査は、行われた。
「厳かに」
 といってもいいくらいに、静寂の中で行われた。
 正直、
「時間だけが経過している」
 といってもいいくらいで、それが、何を意味するのか?
 ということを、誰も分かってはいないが、温度差はあるかも知れないが、大なり小なり、今度の事件は、
「奥で何かが暗躍している」
 と思えて仕方がなかった。
 もっとも、そうでも思わないと、警察の失態ということになり、それは許されることではなかったであろう。

                 大団円

 第一発見者である青山が、朕然和尚を訪ねたのは、事件が発生してから、一週間後だった。
 それまで青山は、警察からの呼び出しもなく、この事件では、
「まったくの蚊帳の外」
 であった。
 だが、そんなただの第一発見者である青山が、本当であれば、放っておけばいいのに、なぜ、寺を訪れることになったのか、興味深いところであった。
 しかも、期間が一週間あいている。
「体調が悪かった」
 というのもあるが、熱も翌日には下がり、3日目からは、十分に活動ができるようになっていた。
 ということは、最初から、この事件のことは、
「別にどうでもいい」
 と思っていたのか、それとも、
「気にはなるが、自分から動くのは、ちょっと」
 と思っていたのか、そのどちらかであることは間違いない。
 寺は、いつも朝晩しか見ていないので、昼間にくると、なぜか眩しく見えるから不思議だった。寺の門を入れば、
「あれ? こんなに狭かったんだ」
 と感じさせられた。
 やはり、朝晩の微妙な明るさや、真っ暗な雰囲気は、建物を大きく見せるのだろう。ただこれは当たり前のことで、暗い時などは、影との見分けがつかないことから、影までが実態に見えて、大きく感じるのだろう。
 青山は、境内に招かれると、庭が一望できる廊下を通って、客間のようなところに通された。
 ここは、数日前に、桜井刑事と高田刑事が入った場所であり、あの時と違うのは、坊主は同席していないということであった。
 青山は、自分が先日目撃したことを和尚に話したが、和尚はそれをじっと聞いていた。
 そして、和尚が、いうには、
「あなたは、この境内で死体が発見されたのをご存じかな?」
 と尋ねた。
 もちろん、こうやってわざわざ訪ねてくるくらいなので、その事件と自分の目撃証言に関連したことで、ここにやってきたということくらいは、想像がつくに違いない。
「ええ、知っています。ただ、その場面を見たわけでも、どういう状況かということは分かりません。どうやって殺されたのか? そして、殺されたのが、誰なのか?」
 ということもですね。
 という言葉を聞いて和尚は、
「この男、どうやら、被害者が誰なのか分からないということを知っていて、わざと、話しているな」
 と感じた。
 もっとも、
「身元不明の死体」
 ということは、新聞にも出ていただろうから、分かっていることだろう、ただ、彼の証言は、和尚にも興味深いことであった。
「ところで和尚さん」
 と、青山が一瞬の沈黙を破って、声をかけた。
「ところで」
 という表現をされると、それまであまり時間が掛かっていなかったことでも、かなりの時間が経ったかのように思える。
「そのような効果を青山が狙ったのか?」
 と和尚は思ったのだ。
 和尚には、この事件の骨格が少しわかった気がした。ひょっとすれば、青山にも別の意味で分かっていることがあるのかも知れない。そして、
「キーワードといえるようなものを、青山は知っているのかも知れない」
 と感じたのだ。
「青山探偵は、この事件をどう考えておられるのかな?」
 と、和尚はニコニコしながら言った。
「私は、どう考えているも何も、あまりにも情報が少なすぎますからね。だから、私は情報を提供して、和尚さんと一緒に、この事件を考えてみたいと思ってですね」
 と青山は言った。
「ほう、私のような人間でいいのかな?」
 と和尚は、含みを持った笑顔で答えたが、それは、和尚が、
「私には何でもお見通しよ」
 とでも言っているかのように見えたのだった。
「和尚さんは、私の証言を信じてくださいますか?」
 とまず、自分の提供ネタの信憑性について聞いてみた。
「ええ、十分に感じました。むしろ、そこで何かが分かった気がします」
 という和尚が、まんざらでもないという表情でいうと、
「というと?」
 と、あまりにも早い反応なので、今度は青山の方がびっくりした。
 青山は、本当は、少しの事情は知っていた。
 というのも、彼には警察の知り合いがいて、その人から、
「話せる程度で」
 ということでの情報提供はあった。
「事件の守秘義務があるのに」
 というはずなのだが、青山に対しては、
「どこまで話してもいいのか?」
 ということは、ある程度の決まりごとがあるようだったのだ。
 ただ、青山は、
「単独行動が目立つ」
 ということで、なかなか警察も、どこまで話していいのか戸惑っているようだが、それでも、少々の情報は入ってくる、それを考えると、青山にとって、
「これからのことは、あくまでも、想像でしかないですが」
 という前置きの下、ちょっとした行動で、
「捜査の邪魔にならなければ」
 ということで、許されていた。
 いわゆる、彼は、
「安楽椅子探偵」
 と呼ばれるもので、
「普段は、別の仕事をしているが、頭脳明晰だったりして、警察の捜査を助ける形で存在するのが、安楽椅子探偵と呼ばれるもの」
 だということだ。
 テレビドラマの、
「2時間サスペンス」
 と呼ばれるものなどでは、
「ルポライター」
 であったり、、変わり種では、
「葬儀屋」
 なんていうものもある。
 下手をすれば、
「ネコ」
 が名探偵というものもあり、小説界では、
「なんでもあり」
 ということではないだろうか?
 青山は、普段はしがないサラリーマンで、上司からにらまれるタイプで、今回は、
「嫌いな上司がいなくなったことで、頭がさえてきた」
 ということであった、
 ただ、それは、
「のびのびできる」
 ということからではなく、その上司が、
「この事件に関係している」
 ということから、
作品名:間違いだらけの犯罪 作家名:森本晃次