間違いだらけの犯罪
「何か霊的なものが自分に働いたのかも知れない」
と感じた。
普段であれば、そんなことはないのに、今回は特別なのかも知れない。
和尚がいうには、
「あの場所は、よく夜になると、誰かが荒らしているのか、朝になると、穴が掘られているのを時々見るんですよ」
というと、今度はニヤッと笑って、青山が聞いている。
「和尚さんは、モノを隠す時、一番安全な場所ってどこだかわかりますか?」
というので、
「いいや」
と和尚が答えると、
「それは、一度誰かが探したところなんですよ、まさか、その場所をもう一度探すということはしないでしょう?」
ということであった。
「なるほど」
「あの場所を和尚はいつも誰かが掘り返して、そのままにしているということを、まわりの皆に思わせて、それで警察にも、前の日に、そこにあった何かを誰かが掘り出したかのように見せて、その場をごまかしたわけです」
ということであった。
「じゃあ、わしがあそこに何かを隠したとでも?」
「ええ、あの場所に、被害者の身元が分からなくなるようにですよ」
「なぜ、そんな?」
「そこには、死体は発見されてもいいが、身元が分かるのは、なるべく遅い方がいいということを画策したかったからでしょうね」
と青山は言った。
「なぜ、そんな?」
「それは、きっと、借金取りとの関係、あるいは、保険会社との関係のようなものが細かくあったからじゃないでしょうか? それにあなたにそれを依頼に来たのは、被害者の家族、あるいは、借金取りだったのかも知れない。ひょっとすると、借金取りと、被害者の奥さんができていたなんてストーリーもあるかも知れないですね」
と、青山は言った。
「じゃあ、わしが、彼らに買収されたとでも?」
というと、
「私はそう思っています。大まかな犯罪計画は、借金取りと奥さんが計画したんでしょうけどね、なぜなら、この寺を犯罪に使いたかったからでしょう」
「なぜ、この寺を?」
「それは、和尚が一番よく分かっているんじゃないですか? この寺では、死体を見るだけではなく、触ることもできない。少しでも、死体にかかわれないということで、第一発見者の坊主さんは何も知らないから、被害者のことを見ようとも触ろうともしない。だから、身元が分からないだけか、死体をここに動かしたということが、警察に分かってしまう」
と青山がいうので、
「死体を動かしたということが分かってもいいんですか?」
と和尚がいうので、
「いいでしょう、そう思わせておけば、この寺には、ただ放置しただけということになり、しかも、私という目撃者をつけて、寺から誰かが何かを掘りだしたということにすれば、あくまでも、被害者が誰なのかということを少しでも後ろに伸ばすことができる」
という青山に、
「なぜ、そんな面倒なことを?」
と和尚が聞くと、
「たとえば、被害者が、何か大きな犯罪か何かをしていて、時効を迎えるかどうかの切れ目であるかも知れないからですね」
というと、
「しかし、殺人の時効は撤廃されたのでは?」
と和尚がいうので、
「それは、あくまでも、撤廃以降のお話でしょう?」
というので、
「ええ、だから、15年前というと、すでに撤廃されていたのでは?」
というが、
「ただね。外国にいる間は、その時効の経過が停止するということがあるんですよ。それを知られたくなかったということと、時効にしてしまうことで、保険金をうまく分捕れるということが目的ですね」
と青山がいうと、和尚は苦虫をかみつぶしたような表情になった。
それを見て青山は、
「和尚さん、自首なさった方がいいかも知れませんよ」
と青山は言った。
「それはどうして?」
と聞くと、
「だって、この犯行が成立してしまうと、あなたは、やつらにとって邪魔者でしかありませんからね」
と恐ろしいことを口にした。
それを聞いて和尚は初めて顔が真っ青になり、完全に身体か硬直してしまった。
「後は和尚に任せます」
といって青山は帰っていったが、事の次第は、青山の言う通りであった。
和尚は警察に自首して、事件の真相を語ったが、それによって、借金取りと、奥さんが逮捕された。もちろん、和尚も罪に問われることだろう。
「御仏に仕えておきながら、坊主さんを巻き込んだりするから、こんなことになるんだよな」
と青山は、
「そもそも、俺を証人となったことからして、最初から、事件は間違いだらけで始まったといってもいいだろうな」
と感じていた。
青山探偵が、警察からまたしても、感謝状をもらったのは、言うまでもないことであった。
( 完 )
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