間違いだらけの犯罪
「空振りに終わった」
といってもいい。
墓地で発見された被害者が、今回の失踪者とは、違うということは分かったのだ。
事件の流れや、組み合わせから考えると、
「十中八九、被害者が、失踪者と同じだ」
というストーリーを考えた読者には残念であるが、まだ、この事件には奥があるようだ。
ただ、実際には、
「墓地で発見された、今のところ身元不明の死体」
というのと、
「借金取りに追われるように、遺書を残して失踪し、自殺未遂を起こして、病院に担ぎ込まれたが、少しよくなりかかったところでの、またしてもの、謎の失踪」
という事件とが、どこかで、結びついているのかも知れない。
ただ、失踪事件に関しては、家族は、本人が自殺未遂を起こしたことからその先までのことを知らない。あくまでも、
「最初に、遺書を残して失踪した」
というところまで分かっているだけであった。
失笑事件もさることながら、問題の、
「墓地で殺された男」
の捜査も、難航していた。
桜井刑事と高田刑事が、お寺の和尚と坊主に事情聴取した中で、これと言って、
「問題になる」
というような話は聞かれなかった。
しかし、桜井刑事は、一つ気になることがあったのだ。
それは、
「彼らの宗派では、死体を直接見てはいけない」
ということになっているということであった。
それがどういうことなのかということは、正直分かるわけではないが、その話を考えてみると、
「もし、犯人が、この寺を死体を放置する場所として選んだことに、そのことが関係あるとすれば、犯人は、身元を示すものを皆取り除いていることと重ねて考えると。時間稼ぎという説が、有力になってきて。クローズアップされるのではないか?」
と考えたのだ。
しかし、だとすれば、なぜ、
「死体が発見されないように、山奥にでも捨ててしまわないのだろうか?」
ということになる。
死体が発見されなければ困る」
ということであれば、一番考えられることとすれば、
「遺産相続問題」
のようなものではないだろうか?
「被害者が、遺産をたくさん持っている」
という場合であるか、あるいは、
「保険金をたくさん誰かにかけていて、その保険金をもらう」
ということである可能性であった。
実は、この
「保険金」
という問題は、もう一つの事件としての、
「失踪者の自殺未遂事件」
ということにも関わってくる。
「自殺の場合では、保険金は下りないのでは?」
と思っている人も多いかも知れないが、そんなことはない。
保険会社によってそれは変わってくるが、
「免責期間」
というものがあるようだ。
「基本的には3年ということのようである」
ということだが、
要するに、
「免責期間をすぎて、つまり、保険契約から自殺までが免責期間を過ぎていれば、自殺でも出る」
ということであった。
実際に、失踪者の生命保険を調べると、すでに10年以上を費やしているので、すでに、免責期間はとっくに過ぎているので、
「支払対象になる」
ということであった。
実際に死亡保険の対象者は、奥さんになっていて、その額は、びっくりするほどの額でもなく、確かに、それだけあれば、借金を返すことはできるだろうが、どこまで自殺を思い込むかということで考えると、
「一度自殺に失敗したうえで、またしても、すぐに自殺に思いきれるほどの、度胸が持てるか?
ということは大きな問題であった。
確かに
「死ぬ結城など、2度も持てるわけはない」
という話も、まんざらでもないと思えるのだった。
だが、それでも、失踪してしまった。
病院側は、
「念のために、精神科にも診てもらう」
ということを考えていたのだが、その前に失踪されてしまったことで、少し途方に暮れていた。
この時点で、警察の方は、
「墓地での死体発見事件」
と、今回の
「2度の失踪と自殺未遂」
という件を、そう簡単に結びつけるということはできなかったが、だからといって、
「まったく関係ない事件」
とも見ていないようだった。
特に、前者の墓地での死体発見事件というものが、
「犯人の明かな意図が見え隠れしている」
というのがあったからだ。
それは、身元を分からないように、
「身元が分かるものをあらかじめ取っておいたり」
さらには、
「死体を見ることができないこの寺に運び込んで、顔を見てはいけない」
ということで、わざわざ、死体をうつむせにしておいたりしたことに、大きな作為が感じられないわけはなかった。
ただ、それが、
「ただの時間稼ぎなのかどうか」
というのは、難しい解釈ではないだろうか。
犯人は、時間稼ぎをすることで、
「何が、彼らの得になるというのか?」
時間稼ぎをしたとしても、実に、
「子供だまし」
といってもいいくらいの短いものであり、それがどれほどの時間になるかは、本当に、ごく短い間だとしか思えない。
ただ、これが、失踪者との事件と絡んでいるとすれば、
「何か、気持ち悪い、ゾクゾクとした感覚になってしまう」
と考えられるだろう。
確かに、子供だましといってもいいだろうが、
「まさか、これはあまりにも突飛な考えだ」
ということなのだが、
その考えというのは、
「墓地の事件の犯人が、失踪者ではないか?」
ということである。
今のところ、被害者が誰なのかということが分かっていないので、捜査の半分はできない。
普通であれば、被害者が特定されることで、被害者の身辺を調査し、
「誰かに恨まれていないか?」
という殺人の動機を、まず、怨恨に絞っての捜査もできるというわけだ。
何といっても、被害者は他で殺され、個々に運び込まれたということであれば、それは、犯人にとって、
「恨みによる犯行だ」
といっているようなものだ。
行きずりであれば、
「何も、被害者が誰なのか?」
ということを隠す必要はない。
身元が分かろうが分かるまいが、通り魔殺人であれば、被害者との関係があるなしということは関係ないからである。
「被害者の身元を隠したい」
というのは、
「動機というものが、被害者が特定されることで分かってきて、それによって、容疑者が確立してくることを恐れるからだ」
といえるだろう。
警察は、被害者に恨みを持っている人を絞って。
「まずは、被害者に恨みを持っている人のアリバイ調査を行うことだろう」
中には、直接その本人に、
「あなたは、この時間、どこにいましたか?」
といって聞く場合もある、
何といっても、それが一番手っ取り早く。逆に、
「そのアリバイを申し立てられない」
ということであったり、
「言っているアリバイが、証明できない:
などという場合は、その人が、
「重要参考人」
ということで、場合によっては、
「逮捕拘留」
ということにもなるだろう。
とにかく、本人に聞くのが一番早いわけだが、今回はそうはいかない。
何しろ。身元が分からないわけだからである。
だから、そこに、
「作為が考えられる」
と言えよう。
そういう意味では、失踪事件の方もそうだ。
確かに、
「借金取りから逃げている」