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間違いだらけの犯罪

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 のようなものがあり、何度か、警察に捕まっていた。
 本人は、意識がないのだが、数回も、そういうことがあると、親も真剣にいろいろ考えると、
「ちょうど、親戚に、寺の住職がいる」
 ということで、その寺に相談すると、住職が、
「分かりました。私が引き受けましょう」
 といって、彼は、坊主として預けられることになった。
 坊主になってからは、
「彼は優等生だ」
 と言われるほど誠実で、しばらくすると、真面目な性格が徐々に表に出るようになって、本当であれば、
「もう家に帰っていいぞ」
 と、住職は言ったのだが、坊主本人が、
「このまま、ここにいてはいけませんか?」
 というではないか。
 住職は少しびっくりしたが、断る理由もない、
 親に相談すれば、今度は、
「息子をよろしくお願いします」
 ということで、もう、反対する理由も何もなかった。
 むしろ、住職の方も、
「いてくれるのなら、それに越したことはない」
 ということで、継続して預かることになったのだ。
 この寺には、あと2人ほどの、坊主がいる。
 一人は、同じように、
「預かっている」
 という坊主であったが、もう一人は、この家の長男で、つまりは、
「住職の息子」
 ということで、
「次の住職」
 としての、修行の場である。
 ということであった。
 まだまだ、若いということもあって、あとの2人は中学生くらいであった。
 そういう意味でも、
「坊主の中心」
 ということで君臨していた彼の存在は、住職にはありがたかった。
 しかし、だからといって、彼もまだ高校生である。
 完璧なわけもなく、
「ボーっとしているというのも、仕方がないことだ」
 と住職は感じていた。
 だから、彼が、うまくいっていたのも、
「これくらいの欠点があっても、それは人間らしいという意味でも、無理もないことではないか」
 といえるのだろう。
 ただ、住職も最近は、
「彼が絶えず何かを考えているということであり、決して悪いことではない」
 ということであった。
 それよりも、余計に、
「彼がしっかりしている」
 ということではないだろうか。
 それを考えると住職も、
「これ以上は、あまり何もいえない」
 と思うのだった。
 ただ、今回は、
「さすがに死体を発見した第一発見者だ」
 ということに変わりはないので、
「叱咤」
 というには、そこまで厳しいわけではないが、
「激励」
 というのは、この場では、
「あまりにもおかしなことだ」
 ということになるので、住職としても、
「何もできない」
 ということになった。
 そもそも、住職も、この状況に、少し慌てていた。
「まさか、寺で死体が見つかるなんて」
 と考えたが、住職ともなれば、若い連中と違って、冷静に考えられることであろう。
 しかも、普通の大人ではない、
「お寺の住職」
 というだけで、世間からは、一目置かれる存在だということで、余計なことを言えないに違いなかったのだ。
 ちなみに、今回の、
「余計なこととは、何になるのか?」
 要するに、
「目で見たこと以外は、勝手な憶測に違いない」
 という、
「当たり前のこと」
 であり、それ以外を、住職として、
「口にすることはご法度だ」
 ということであろう。
 とりあえず、坊主が、
「いかに警察と応対できるか?」
 ということであるが、もちろん、警察というのは、
「犯罪捜査のプロ」
 である。
「この坊主が、第一発見者である」
 ということは分かっていて、しかも、まだ年端のいかない高校生ということも考慮してくれるだろうから、少なくとも、
「恫喝したような態度」
 というものを取るということはありえない。
 それを住職は分かっているので、
「安心して、事情聴取に応じなさい」
 としか言えないが、結局、
「それ以上でもそれ以下でもない」
 ということになることは、二人ともに分かっていることであっただろう。
 警察に通報したのは、もちろん、住職だった。
 しばらくして、警察が、朝の喧騒とした雰囲気の中、やってきたのだが、すでに警察の方では、表情を見る限り、緊張がみなぎっていた。
 何しろ、
「死体を発見した」
 という情報なので、110番から、所轄に、
「県警本部より入電」
 ということで、連絡が入った時は、刑事課では、緊張が走ったことであろう。
 ただ、それが、
「死体発見」
 ということで、
「殺人事件」
 と言い切れない状態だったことで、
「とにかく、出動して、現場を見ないことには始まらない」
 ということであった。
 警察は、その状況を把握したうえで、出動した。
 やってきたのは、2人の刑事と、鑑識が数名。まずは、初動捜査だということになるのであろう。
 捜査は厳かに、そして、規則正しく刻んでいる時間をそのままに、行われた。
 それは、まるで、形式的に見えるのだが、形式的だというだけではなく、その状況は、いかにも、
「執行されている」
 という、何かの罰を感じさせるほどであった。
 それは、刑事の捜査を見ていて、第一発見者の坊主が感じたことであり、住職の方は、
「さすがに警察、手際がいいわい」
 というくらいに感じていたことだろう。
 住職は、日ごろから、自分の仕事であったり、坊主たちを相手にしている時間というものを、
「行動とともに、刻んでいる時間の正確さを感じている」
 と思っていた。
 それは、住職が、
「大人として」
 という思いと、
「住職として、御仏に仕える」
 という意味との2つを考えると、
「わしの役割というのは、大きなものだ」
 として、
「普段から、自分のことを、戒めたり、厳格に見えるかのようにふるまっていなければならない」
 と感じるようになったのだった。
 この寺は、元々、戦国時代からある寺で、
「禅宗の流れを汲み寺」
 ということであった。
「厳しい修行」
 というのが、禅宗というとどうしても付きまとってくるが、こお寺はそこまで厳しいものではないという、
 だから、ある意味、最近の、
「コンプライアンス問題」
 というものに、敏感に反応しているといってもいいだろう。
 ただ、この寺のウワサハ、さほど出回っていないということで、ここが、
「禅宗としては、寛容だ」
 ということを知っている人は少ないだろう。
 ただ、それも、
「宗教団体として、他の宗教団体から、いかに言われる?」
 ということになれば、話は変わってくる。
 ただ、この寺が寛容になったのは、
「先々代の住職くらいだった」
 という話である。
 かの戦争が終わり、国民が、激貧で、さらに、物資の不足が致命的だった時期を考えれば、今の人間には、その状態が想像もつかないことだろう。
 そんな時代に、いくら修行とはいえ、全国民が苦しんでいる時に、手を差し伸べないというのは、
「宗教団体としては、恥ずべきこと」
 ということで、
「自分たちよりも、苦しんでいる人がいれば、少しでも手を差し伸べる」
 というのをモットーとしたものだ、
 中には、
「お寺だったら、何とか食えるかも?」
 という思いで、
「こちらの世話になります」
 といって、いくら時代が時代だといっても、
「邪な気持ち」
作品名:間違いだらけの犯罪 作家名:森本晃次