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召された記憶

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 バスを降りる時、同じバス停で降りる人はもう一人いたが、その人は反対方向に帰るひとだった。
 たまに一緒になるので、知ってはいたが、挨拶をするようなこともなく、相手がこちらの存在に気づいているかどうかも分かったものではない。
 だが、いつものように、計ったようにバスを降りるその人の姿を見ていると、
「俺も、あの人と同じように、無意識に、同じパターンを繰り返しているということだろうか?」
 と感じるのだった。
 バス停から降りて、その人を先に見送るようにしてバスから降りると、その人は、走ったわけでもないだろうに、すでに、小さくしか見えていなかった。
「ということは、俺が、もたもたしていたということか?」
 と考えたが、実際には、そんな感じでもなさそうだったのだ。
 ただ、その日、
「普段と若干違った」
 と感じたのは、それまでは、まだまだ暑かったはずの夜なのに、その時は、風が冷たいくらいだった。
「セーターを羽織ってもいいくらいだよな?」
 と感じたが、そもそも、その日の昼間はというと、確かまだまだ暑かったようで、
「気温、33度くらいだったのではないか?」
 と感じたのだった。
 33度というと、この時期にしては、なかなかない気温で、
「これこそ、地球沸騰化と言われるだけのことはある」
 と感じさせられたものだった。
 ただ、もうこの時間になると、すっかり、夜の静寂が下りてから、だいぶ時間が経っているので意識はなかったのかもしれないが、気が付けば、日が暮れるのも早くなり。
「この間までは、7時前まで明るかったはずなのに、今では6時過ぎくらいには、暗くなっている」
 と感じたのだ。
 一番、季節の変わり目を顕著に感じるのは、
「虫の声」
 であろう。
 最近では、お盆を超えると、セミの声が減ってきて、それでも暑さは残っているのだが、日暮れ近くで、セミの声が聞こえなくなると、
「ああ、もう季節は確実に秋に向かっているんだな」
 と感じさせられ、けだるさというのも、夏の間と少し違っているのだった。
 夏の間は、
「一気に汗が噴き出す」
 という感じであったが、秋になると、暑さは収まってくるのが分かるのだが、暑さが身体にこもってくる感じで、汗が出てくる感覚がないのだった。
 それだけに、身体のだるさは残っていて。ただ、それは、
「暑さのために、汗を掻く」
 という感覚とは若干違ってくる。
 身体に吹いてくる風の、本当であれば、
「心地よさ」
 なのだろうが、実際に感じると、少し違ってくる。
 敏感肌になっているのか、風が身体に痛みをおよぼしているようで、
「風邪でも引いたのかな?」
 と感じてしまうほどだったのだ。
 しかし、風邪を引いたわけでもなく、さらには、汗を掻いたわけでもないのに、
「汗が乾く時の感覚がある」
 ということで、それが、気持ち悪さに繋がっていて。
「熱があるのに、身体にその熱がこもってしまって、熱が上がりまくっている時と同じではないか」
 という感覚になるのだった。
 風邪を引いた時、熱が上がっている時に、
「熱があるから」
 といって、
「身体を冷やすということをしてはいけない」
 とお医者さんは、いう。
 というのは、
「発熱という作用は、身体に入り込んだ菌やウイルスと戦っているわけで、その作用として、熱が出るので、本来であれば、熱が上がり切るまで、逆に身体を温めなければいけない」
 というのだ。
 そして、さらに、
「じゃあ、熱が上がり切ったという判断は、いつするんですか?」
 と尋ねりと、
「それはね、身体から、汗が出てきた時なんだよ。それまでどんなに熱が上がっていても、汗を掻かないでしょう? その分身体に熱がこもるから、それが、身体が戦っているということになるんだよ」
 というではないか。
「そうなんですね。確かにそうだ」
 と感じた。
 確かに、汗を掻いていない時、身体がどんどん熱くなっていって、頭が痛かったり、吐き気がしたりしたのは、汗を掻いていない時だった。
 ということを思い出していた。
「だから、熱が上がり切った時に、身体が、ウイルスや菌を追い出したり、やっつけたりするわけで、今度は、その悪い毒素を身体の外に出そうとして、汗を掻くんだよね。だから、汗を掻き始めると、今度は身体を拭いて、そして、冷やすようにする。そうすると、どんどん熱が下がってきて、微熱くらいでも、すっきりするようになってくるんだよ。汗を掻いた時は、一気に身体を拭いて、汗を掻いたら下着を着替えて、発汗による分、水分が失われるから、ミネラルウォーターであったり、塩分を含んだ水を飲んで、水分と塩分の補給をすることになる。ここは熱中症などになった時と同じ感覚ですね」
 ということであった。
 だから、汗を掻いていない時に、身体を通る風に、ゾクゾクとした感覚になると、
「風邪でもひいたんじゃないか?」
 と心配になるのだ。
 肌に痛いような感覚が襲ってくれば、ゾクゾクしてくるはずなので、
「何かの予感を感じさせる」
 ということになるのであった。
 その日は、最初から涼しさが感じられたので、ぞくっとした気分にはなったが、だからといって、そこから見える景色が、どういうものなのかというと、
「今日はいつもよりも、さらに暗い気がした」
 と思いながらバスを降りて、いつものように、家路を急いでいた。
 ただ、これだけ暗ければ、普通であれば、影を認識できないくらいのはずなのに、なぜかその時は自分の足から伸びる影が長くなっているのを感じたのだ。
 しかし、長さはいつもよりも長いのが分かった。
 しかも街灯に照らされているわけなので、足元を中心に、円を描いているようで、それが、ちょうど隣の街灯を感じていると、その光の栄養が強く、そこを通り越してしまうと、今度は前から迫ってくる街灯の影響を強く受けるようになる。
 普段であれば、ちょうど、前から後ろにに影響がきれいに移っているので、その影は、違和感を感じることもないのだが、その日は、いつまでも前の影の影響が、後ろの影が張り出してきた時まで残っているのだった。
 だから、影が重なるところがあり、そこだけが、黒く浮き上がっているようで、何か、
「見たこともない生物」
 のようなものが、蠢いているという感覚になるのだった。
 そんな黒いところの影を、無意識に踏もうとしているようで、前を意識することはなくなり、足元だけを見ながら歩いていると。
「あれ?」
 と感じるところに来た。
「ここどこだ?」
 と感じたのだが、今まで見たこともないような場所だったのだ。
 その場所というと、目の前から、どんどん先に行くほど。真っ暗になっていくようなところであり。実際の視界というのが、
「十メートル先が分からない」
 というくらいに、真っ暗だったのだ。
 普段もそうなのだが、この日は、周りが分からないだけに、余計にそう感じた。
「本当にここは、どこなんだ?」
 と感じたのだ。
 それでも、次第に視界がしっかりはしてくるもので、ある一点を見続けていると、
「ここはどこなのか?」
 ということが分かってきた。
作品名:召された記憶 作家名:森本晃次