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召された記憶

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「これは、恋愛関係のもつれから起こった、自殺未遂」
 ということで、辻褄が合ったことで、それ以上の調査がされることもなかった。
 警察とすれば、
「理由が分かればそれでいい」
 ということだったのだ。
 つまりは、この時の捜査は、
「向坂の存在が、事件の真相を埋めてくれた」
 ということであった。
 しかし、まさか、その時の彼氏というのが、この向坂だったのだということを、警察も誰にも分かるわけはなかった。
 分かるとすれば、彼女の自殺未遂があった時、関係者としていた人だけだろう。
 あの時の関係者で、今回の事件に直接かかわっているといえば、
「犯人である、彼女の兄」
 と、自殺未遂をした彼女の友達だった被害者の、
「松本むつみ(警察は分かっていないが)」
 くらいであろう。
 もちろん、分かっていないのだから、警察をミスリードすることくらいは簡単なことである。
 ただ、ミスリードはできるだろうか、これでは、犯行計画としては、あまりにもずぼらで、
「完全犯罪には程遠い」
 といってもいい。
 この犯罪が、完全犯罪ではないということは、最初から分かっているように思えるが、
「実際に、完全犯罪などではなく。事件を曖昧にして、完全犯罪とはまったく逆の意味で、計画されている」
 ということになるのではないか。
 だから、
「完全犯罪ではないが、犯人が何かを計画しているとすれば、それは、時間稼ぎというものではないだろうか?」
 という風に考えたのは、犯人だったのだろうか?
 犯人も、目撃者も、どこか曖昧で、警察にもその実態が分からない。
「分かってしまえば、その内容は、すぐに芋ずる式に分かってくるのだろうが、内容が分かったとしても、犯人の趣旨であったり、目的というものは、ハッキリと分かるものではないだろう」
 といえるのではないだろうか。
 この事件において、犯人の目的、犯行の理由、そして、犯行を行うに至った、その原因というのは、一つが分かれば、すぐに分かるのだろうが、警察や、目撃者である向坂にも、結局は。
「原因は分かっても、その目的は分からない」
 あるいは、
「目的は分かっても、その原因は分からない」
 ということになるだろう。
 警察としては、たぶん、前者であり、後者は誰に対してなのかというと、
「向坂に対してではないか?」
 といえるのではないだろうか?
 そんなことを考えていると、
「この事件が、完全犯罪ではない理由」
 あるいは、
「完全犯罪を計画する必要など最初からない」
 といえるだろう。
 犯人としては、
「いまさら、警察に捕まらないようにしたい」
 と考えたからではなかった。
 犯人の目的は、
「なるべく、犯行が分かるのが、あとの方がいい」
 という、一種の、
「時間稼ぎ」
 に他ならなかったということであろう。

                 大団円

 警察が、事件の真相にたどり着いたのは、事件が発生してから、3か月目のことであった。
 殺人未遂事件として、あまりにも事件の真相が分かるまでに時間が掛かったということであったが、
「この事件の真相は、犯人にとって、ちょうどいいくらいの時期」
 の解明となった。
 といっても、犯人は、警察に対して、
「事件の解決をなるべく遅らせる」
 ということが目的だったわけではなかった。
 警察に真相が分かるのは、それでよかったのだが、逆に、目撃者として選んだ相手である向坂に、
「事件の真相を知られたくない」
 ということであったのだ。
 向坂は、妹が本当に苦しい時、妹から離れようとした。
 それが、犯人にとって一番の悔しいことであった。
 そこで、暴行事件の時に、一緒に行った女を襲い、
「彼女に復讐を与えた」
 と同時に、
「向坂に、罪の意識を植え付ける」
 ということで、復讐を、それぞれに遂げるということが目的だったのだ。
 被害者の女というのは、
「暴行事件」
 があった時、自分が助かりたい一心で、犯人に、妹を襲わせるという卑怯なやり方をしていた。
 実は、犯人と被害者であるむつみとは、元恋人という間柄で、
「男が、チンピラ風情であり、しかも、女にはだらしないという、さらに、性欲の塊のような最低男だった」
 ということで、その男から逃れるために、妹を、彼女にとっての、
「人身御供」
 に選んだのだった。
 だから、兄としては、この女が一番許せないというのは当たり前で、本当は、この時の犯人を、
「むつみを襲う犯人に仕立て上げる」
 というつもりでいたのだが、犯行計画を練っている最中に、そのチンピラは、喧嘩したことで、死んでしまっていたのだった。
 本来なら、
「ざまあみろ」
 ということになるのだろうが、
「まさか死んでしまうなんて」
 という、犯人にとっては、
「実にタイミングが悪い」
 というのか、それよりも、
「都合が悪いタイミング」
 ということで、
「計画をどうする0か?」
 ということを、考え直さなければならなくなったのだった。
 そこで、犯人が考えたことは、
「自分の自殺」
 ということだった、
 自殺をしても、今回の事件を向坂に思い知らせることで、向坂の良心に訴えて。
「あの男なら、妹を診てくれる」
 ということを感じたのだった。
 向坂は、
「根性なしなところがある」
 と妹は言っていたが、でも、
「彼は、一度覚悟を決めれば、どこまでも、寄り添ってくれる」
 ということで、妹が、向坂を慕っていたのは事実だった。
 そういう意味で、
「妊娠してしまったことでの、どうすればいいのか?」
 という思いと、
「向坂さんに、捨てられる」
 という思いとが、錯綜し、彼女も心を病んでしまい、さらには、歩けないという後遺症を背負ったことが、犯人の、復讐としての目的だったのだ。
 だが、
「向坂という男は、やはり大丈夫だ」
 と、あの犯行の時、目撃者に仕立てた、向坂を見て感じたのだろう。
 だから、犯人は向坂に対して、
「不敵な笑み」
 を浮かべたのだ。
 その、
「不敵な笑み」
 というのは、他ならない、かけがえのないと思っていた妹の面倒を見てくれる男であると感じたから、無意識に出たのだろう。
 そして、犯人にとって、
「この世に、未練がない」
 という気持ちもあったのかも知れない。
 犯人が、
「時間稼ぎ」
 というのを考えたのは、
「自分が死ぬまでの時間を稼ぎたい」
 と考えたからであろう。
 死ぬということは、自分でも覚悟していたし、それに対して、後ろ向きになることはなかった。
 だが、なるべく時間が空いてくれた方がよかった。
 それは、
「犯人が、なるべく遅く分かった方が、残された妹に対しての警察の追求が遅くなるからだっただろう」
 しかし、結果としては、
「被害者が生き残り、犯人は死んでしまうというのでは、犯人の計画としては、結末が違っているのではないか?」
 と思われたが、実際にそうだったのだろうか?
 犯人が自殺をしたのは、妹が自殺をしようとした場所の近くであった。
「お前は死ぬところまではいかなかったが、俺がお前の魂をもって、あの世に行ってやる」
 と思ったのだ。
作品名:召された記憶 作家名:森本晃次