小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

召された記憶

INDEX|18ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

 でもない限り、怨恨による犯行であれば、犯人が死んでいないということを分かっていれば、少なくとも何かのアクションがあっても、しかるべきであろう。
「犯人は、本懐を達することができた」
 と思って、安心しているのだろうか?
 いや、安心というのとは違うだろう。
 人を殺そうとして、その現場を誰かに見られたのだ、どんなに、
「不敵な笑み」
 というのを浮かべたとしても、犯人は、安心などできるはずがないのだ。
 犯人としては、人に分からないように被害者を狙って、攻撃してきた。被害者の行動パターンが、それだけ、行動計画を立てられるほど、ルーティン化できているということであろうか。
 そうやって、考えると、
「やはり、同棲しているカップルが、不仲になった」
 といってもいいのではないだろうか?
 ここで、中川刑事が、
「唯一の手掛かり」
 ということで、
「変装をしてはいるが、それでも、犯人の顔を見ている」
 という、目撃者である、向坂を頼るしかないと考えたのだ。
 ただ、向坂とすれば、
「犯人の顔は見ていない」
 というだけであろう。
 もし見たとしても、目の部分だけなので、そこから、相手を特定するのは難しいだろう。
 だが、これは、向坂が思っていることであるが、
「相手は、目撃者を作るのであれば、自分ではないといけない」
 と考えたのかも知れないと思っていた。
 それが、
「相手が自分を見て不敵に笑ったということの答えではないか?」
 と感じたのだ。
 そして、この事件は、
「目撃者を必要とする」
 ということで、そこに何の意志があったのか?
 というのも、問題であった。
 ただ、向坂は、犯人について心当たりがあった。もしそうだとすれば、被害者の顔を見て、ピンと来なければならないはずで、すぐに誰だか、顔を見て、分かっていなければならないと思った人ではないか?
 と感じたのだ。
 だが、そういう意味では、
「被害者が誰なのか分からない」
 ということを考えると、
「犯人も、被害者も、この人たちしかいない」
 と思える人がいたのだ。
 しかし、これは、警察にいうわけにはいかない。
「いってしまうと、自分まで危険に晒されてしまうのではないか?」
 と考えられるからであった。
 それは、向坂が、
「犯人や被害者が誰なのか?」
 ということを知ってしまったということの方が、犯人の目的や、事件の裏にあるものに対して、恐怖が浮かぶという意味で、
「警察には言えない」
 ということだったのだ。
 警察というものは、
「実に厄介なところ」
 といえるだろう。
 捜査方針が決まれば、間違っていると、部下が思っても、部下は、捜査方針に沿って行動するしかない。
 つまりは、警察というところは、テレビドラマや映画になるくらい、
「融通が利かない」
 といってもいい機関なのである。
 捜査本部で、捜査本心が決まってしまうと、いくら、捜査の陣頭指揮を執っていると言われる。
「管理官」
 と呼ばれる人であっても、途中で意見が変わったといって、捜査方針に逆らった捜査をしようものなら、
「捜査から外される」
 というほどに、厳しいものだ。
 もちろん、それくらいの、
「ブレない」
 ということでなければ、警察はやっていけないだろう。
 だが、その捜査方針に逆らうようなことであれば、大きな問題であり、それが警察の、「ドラマとして扱われそうな話になる」
 といってもいいだろう。
 これだけ融通が利かない警察であれば、
「捜査のかく乱というものができれば、捜査本部の捜査方針を椅子リードできることができる」
 ということでもある。
 だから、犯人とすれば、少しでも、捜査のかく乱を狙ったものであろう。
 ただ、だからといって、それだけでは、
「警察の追求」
 というものから逃れられるわけではない。
「日本の警察は、世界一優秀だ」
 と言われていた時代があったが、それも、この、
「ブレない」
 というところが、捜査には重要だということであっただろう。
 しかし、この計画は、
「もし、被害者が絶命していなければ、記憶喪失状態に陥る」
 ということでなければ、成立しないことであろう、
 被害者の身元が分かってしまうと、事件の真相が分かるからだ、
 犯人は、目撃者である
「向坂」
 という男に、自分の顔を見せたことで、
「犯人が誰であるか?」
 ということが分かったのだろう。
 そして、向坂なら、警察に自分たちのことは言わない。いや、言えないということも分かっていたはずである。
 それが、犯人にとって、
「目撃者を必要とし、その目撃者は、向坂である理由があった」
 ということであった。
 それは、向坂が、犯人が誰なのかということが分かると、その男が襲う相手も一人しかいない。
 その女の顔を向坂は知らなかったのだが、実は、向坂は、加害者の妹とは、知り合いだったのだ。
 知り合いというか、恋人だったといってもいい。その彼女が、自殺未遂をした。それを、向坂は、
「俺のせいかも知れない」
 と思うところがあったのだ。
 ちょうど、就職活動が迫っていたその時、2歳年下の彼女が、
「友達とキャンプに行く」
 といって出かけたのだ。
 しかし、そのキャンプから帰ってきてからの、彼女は情緒不安定で、目の焦点が合っていないくらいに、精神を病んでいた。
 それは分かっていたのだが、自分も就職でそれどころではなかったので、放っておいたが、その彼女が自殺未遂をしたというのだ、
 向坂は、
「俺が見捨てる形になってしまった」
 と感じた。
 だが、実際には、前述のような裏として、
「暴行事件からの自殺未遂だった」
 ということである。
 向坂はそれを知らなかった。
 てっきり、自分が冷たくしたことで、自殺未遂をしたのかと思い、その後悔の念に苛まれていた。
 だが、実際の動機と、向坂の考えが錯綜していて、向坂は、次第に彼女の性格や、感情が分からなくなり、正直一緒にいるのが怖くなったのだ。
 そんな彼女に後遺症が残ったということを聞いた時、
「俺は逃げるしかないんだ」
 と思い。
「それぞれの混乱の中にある間隙を縫う」
 という形を考えたことで、
「うまく、別れることができた」
 と思った。
 そして、向坂は、
「彼女とのことは、自分にとっての黒歴史であり、
「俺にとって、何かができるわけではないんだ」
 と考えてしまうといってもいいだろう。
 彼女の、自殺未遂の、
「本当の理由」
 というものを分かっている人は、ごくわずかな人であっただろう。
 警察も、おそらくは、その理由を知ることはなかっただろう。
 もちろん、一人の女性が自殺未遂をしたのだから、一応の捜査もするだろう。
 五体満足ではいられないくらいの後遺症なので、警察も捜査をした。
 しかし、彼女が、妊娠していたこと、それを考えると、暴行事件というよりも、
「付き合っていた彼との間に子供ができたが、それが分かった時には別れていた」
 ということなのだろうと思うと、そこで浮かんできたのが、向坂だった。
 警察は、そこまで分かると、さすがに、向坂を、逮捕などすることができるわけもない。
作品名:召された記憶 作家名:森本晃次