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召された記憶

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「ええ、そうですね。いつもは、残業というのが日常茶飯事だったので、今日よりも、一時間近く遅い時間というのが、普通かも知れませんね」
 ということであった。
 だから、この時期であれば、どっちにしても、日が暮れている時間であることに間違いはないので、
「暗さに目が慣れている」
 ということなのだろうと、刑事は察したのではないだろうか?
 そして、刑事もその気持ちは分かるのか、
「休日と平日とでは、同じ暗さであっても、感じる感覚がまったく違うでしょうからね。特に今日のようなアクシデントに見舞われればですね」
 と刑事は言った。
 刑事としては、この事件を、
「アクシデントだ」
 と考えているのだろうか、幸か不幸か、
「被害者は死んでいないのだ」
 それを考えれば、
「被害者の意識が戻れば、ある程度のことは分かるかも知れない」
 と感じたのだった。
 となると、
「この事情聴取は、それこそ、ちょっとした予備知識に過ぎない」
 と思うと、急に気が楽になり、身構えていた気分が少し落ち着いてきた。
 すると、それまでの疑問を、刑事にぶつけてみようとも感じたのだ。
 その疑問というのは、いうまでもない。
「犯人が、慌てることなく、その場から、悠然と立ち去った」
 ということであった。
 それを目の前の刑事にぶつけてみることにしたのだ。
 刑事も、向坂が、
「何かを言おうとしているが、ハッキリと言い切れない気持ちにある」
 ということを察していた。
 それが、どういうことなのか分かっていない以上、必要以上に相手に尋問してしまうと、せっかく言おうとしている気持ちを踏みにじる感じになってしまい、
「下手なことはいえない」
 と感じたのだが、それを刑事としても、
「この人が分かってくれていれば」
 という他力本願的な発想だったのではないだろうか?
 それを思えば、
「昔、テレビドラマで見た刑事の事情聴取を思い出してみたが、実際に刑事から事情聴取をされてみると、まったく違っている」
 という感覚になってくるのが分かったのだ。
 実際に、経験してみることと、昔に見た刑事ドラマとでは、明らかに、
「視点が、自分目線なのか、他人の目線なのかということだけで、正反対の発想になるのかと思いきや、同じであって、同じでないような不可思議な感覚になりつつある」
 ということを感じるようになってきたのだった。
 しかし、向坂が、
「犯人の様子が、スローモーションのようにゆっくり見えた」
 といった時、刑事は、何かを感じたような気がしたのだが、それは、刑事にも、犯人のわざとらしさというものが分かったのではないだろうか?
 もちろん、その意図まで分かるわけではあるまいが、今までに刑事生活をしてきた中で感じていた。
「刑事の勘」
 というものだったのではないだろうか?
 犯人に何かの意図があったとすれば、それは、
「犯人にしか分からないことなのかも知れないし。たくさんの経験をした刑事だから分かる」
 ということなのかも知れない。
 と感じているのであった。
 そこに、何かの意図があるとすれば、そのことを分かっているのは、
「被害者でしかない」
 ということで、そういう意味でも、被害者に息があったというのは、幸いだっただろう。
 ということは、
「犯人は、計画を失敗した」
 ということになり、その分、
「俺ににやけた態度をとったというのは、被害者は死んだと思っているであろう犯人にとって本当に失敗だった」
 ということになるのだろうか?
 それを考えると、
「男も意図は一体どこにあるのか?」
 あるいは、
「男の目的は何なのか?」
 ということがこれから、徐々に捜査で分かっていくことになるということを、この刑事は分かっているということなのか。
 それを思うと、向坂としては、
「この事件は、普通に当たり前の事件だ
 という解釈でいいのだろうか?
 そんなことを考えていると、
「犯人は、人殺しをしておいて、目撃者ににやけた顔を見せる」
 これだけを聞けば、猟奇犯罪の要素が満載で、
「変質者か?」
 あるいは。
「病気による、精神疾患を持った人物の犯行なのか?」
 ということになり、
「無差別殺人」
 であったり、
「猟奇犯罪」
 という側面を持った犯行も考えられると、
「被害者とすれば、何も分からない」
 ということではないだろうか。
 となると、被害者が、分からないという犯行であれば、そういった、
「無差別殺人の様相を呈してくる」
 というもので、被害者から、犯人を割り出すというのは、難しいことになってしまうのではないだろうか?
 となると、今度は、
「この付近で、似たような犯罪がないか?」
 ということになってくる。
 もしあったら、
「連続無差別殺人」
 という問題となってくる。
 今回のように、未遂で終わった事件も含めると、かなりの無差別犯罪というものが、全国的には毎日のように、起こっているのではないだろうか?
 社会問題になり、下手に不安をあおるのも、まずいということで、報道規制を掛けている場合もある、そうなると、警察内部でも、機密になっている可能性だってあるだろう。
 それを考えると。
「犯人には、何等かの動機や、意図というものがあってしかるべき」
 ということで、
「却ってないようであれば、そっちの方が恐ろしい」
 といっても過言ではないだろう。
 それを考えると、この犯罪が、
「意図的なものなのか、あるいは、猟奇的なものなのか」
 ということと、
「動機がハッキリとしていて、犯行計画に基づいて行われた整然とした犯罪である」
 ということのどちらなのかを考えると、
「後者の方が、圧倒的に捜査がしやすい」
 ということになるであろう。

                 記憶喪失

 刑事が聞いてきたことは、本当に形式的なことでしかなかったが、それ以外としては、
「犯人に、何かの意図が感じられないか?」
 ということを、もう少し知りたかったようで、
「犯人の動きがゆっくりであり、にやけているように見えた」
 というだけでも、刑事には興味をそそられたようだった。
 ということは、
「この刑事は、猟奇殺人と思わせて、何かの含みのある犯罪なのではないか?」
 と考えがあったのだろう。
 特に、この事件で、
「被害者が殺されなかった」
 ということに、向坂もそうであるが、刑事も興味を持ったようで、
「ここまでして、とどめを刺していないというのは、何とも、本末転倒なことではないだろうか?」
 ということであった。
 確かに、とどめを刺さなかったというのは、他にもあることであるが、問題は、向坂に対して、余裕があるような態度を取っておきながら、それだけの余裕があるのであれば、被害者の息の根を止めるくらいのことは、最低の仕事ではないか。
 それができないということは、
「これほど、呆れた犯罪もないだろう」
 と思うのだ。
 だからこそ、
「呆れた」
 とう発想よりも、
「何かの意図が隠されている」
 と考える方が、
「よほど間違いはない、自然な発想となるだろう」
 としか思えないのだった。
 ただ、この、
「とどめを刺さなかった」
作品名:召された記憶 作家名:森本晃次