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召された記憶

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「その男のたたずまいから感じさせる雰囲気からの臭い」
 ではないだろうか?
 服装も見えず、顔もはっきりとは分からない。目つきも、そんなに睨みつけるような感じではなく、どこも、特徴的なところは分からなかった。
 ただ、
「そこにいるだけで、怪しい」
 というだけで、男の様子の不気味さに、
「どう表現すればいいのだろうか?」
 ということであった。
 服装だけではなく、顔の雰囲気は分からなかったが、目つきの悪さは感じなかった。
 むしろ、その落ち着きが気持ち悪いくらいで、こちらを見て、マスクで隠されたその奥の口元は、口角が上がって、完全に、ニヤッとした表情になっているように思えてならなかったのだ。
 警察か、救急車のどっちが先にくるか分からない中で、自分と、隣で苦しんでいる人だけの二人というのは、実にやりきれない気分であった。
 最初に来るのがどちらであっても、
「こんな経験は初めてだ」
 と感じる向坂としては、
「早く来てくれるに越したことはない」
 と思うのに、こんな時に限って、なかなか時間が過ぎてくれないということを、いまさらのように感じたのだった。
 どれくらいの時間が経ったのだろう?
 救急車か警察が来る前に、向坂はその場の雰囲気に慣れてしまった。救急車がやってくるシーンは、以前に、
「自分とは関係のないところで見た」
 ということがあったので、それは、自分が、
「野次馬だった」
 ということで、要するに、
「事故現場に居合わせた」
 という野次馬の中の一人だったということで、完全に、立場としては、
「蚊帳の外だった」
 と言っていいだろう。
 やはり最初に来たのは救急車で、3人の救護班が被害者のバイタルなどを確認しながら、本部と連絡を取っているようだ。
 そのうちに警察もやってきて、その様子を見ながら、救急車で被害者が運ばれていくところを見送りながら、一人の刑事が、救急車の中に乗り込んで、病院に付き添うようだった。
 それを見た向坂は、少し安心した気分になり、自分の中で、少し一段落した気分になると、これから待ち受けている警察の事情聴取も、そんなに気にすることもないような気がしてきた。
 何といっても、自分は目撃者であって、容疑者でもなんでもないんだ。ただ通りかかって巻き込まれただけの人間だということも警察だって分かっているだろう。
「俺が通報者なんだからな」
 という気持ちである。
 警察は、鑑識数名と、刑事が二人やってきていた。
 最初は、こちらを一瞥するかのように、一瞬見るには見たが、かまうことなく、自分たちのことをしていた。
 一人の刑事が、鑑識や部下にテキパキとした指示を与えている、
 それは、普段からの、事件に対しての行動マニュアルのようなものからだったのだろう。それだけに、実に手際が良く見えたものだった。
 真っ暗な中で、照明が照らされ、そこから伸びる影が、いつもの
「暗い中でのさらに暗い影」
 という雰囲気ではなく、普段の昼間と錯覚するくらいの明かりではあったが、しょせん、太陽の光ではない、人工的な光だということで、錯覚を覚えそうであったが、それ以上に、平面である影が、次第に立体化していくように見えるのが、不思議だったのだ。
 静寂な中で、形式的に行われる捜査は、厳かに見えるが、不規則な音と、騒然とした雰囲気を醸しだすことで、普段の喧騒とした雰囲気とは、一味違う状況に、普段とは違う気持ちが、どこかからか、みなぎっていた。
 そんな中で、一段落がついたのか、それが、ライトの明るさで、昼間の明るさになって、どれくらいの時間が経ったのか、自分でもよく分からない。
 目は確かに慣れてはきていたが、普段見たことのない光景に、戸惑いは隠せない状況だったのだ。
「15分くらいじゃないかな?」
 と思ったが、実際にどれくらいなのか、正直分からない。
 一人の刑事が、こちらにやってきた。この刑事は、最初に、テキパキと指示を与えていた人ではなく、逆に、
「指示を受けていた方の人」
 だったのだ。
「あなたが、通報していただいた方ですね?」
 と言われたので、
「ええ、そうです」
 と答えると、その返事に刑事は別にリアクションは何もなく、手帳を取り出して、そこに聞いたことを書こうと、準備をしているようだ。
「お名前と職業を、よろしければ、教えてください」
 ということで、警察の事情聴取なのだから、隠す必要もないので、説明をした。
 その内容を、スラスラと書いているのは、
「慣れた手つき」
 といってもいいだろう。
「あなたが、この場所に通りかかったのは、帰宅途中ということでいいんでしょうか?」
 と刑事が聞くので、
「ええ、そうです。今日は有人と映画を見る予定があって。街まで出ていたので、その帰りだったんですよ」
 というと、
「ほう、映画ですね?」
 と一瞬、刑事が顔を挙げた時、その表情が明るくなったように感じたのは、この刑事が、映画に興味がある人ではないかと感じたからだった。
 しかし、すぐに我に返ったのは、
「これが、事情聴取だ」
 ということを思い出したからに違いない。
 向坂は、学生時代からの親友と映画を見たということを話して。そこからの帰り、バスから降りて、このような光景にぶつかったのだということを説明すると、刑事は、いちいち頷くようにして、手を動かしてメモを取りながら、自分でも、
「うんうん」
 と頷いていた。
 向坂が、一応の説明をすると、今度は刑事が、いろいろと聞いてくるのだ。
 やはり、実際に目の前で見たことを説明するとなると、聞いている方は、自分の思い込みで判断することになるので、質問もたくさんあってしかるべきだろう。
 それを、もししないとすれば、話を聞いても、興味がない人か、そのことに直接関係のない人のことであろうことは、ハッキリとしているのであった。
「ところで、向坂さんは、こちらの道は毎日通勤に使っておられる道ですか?」
 と言われたので。
「ええ、そうですね」
 というと、
「じゃあ、通りなれた道ということで理解してよろしいのかな?」
 とさらに、刑事は追い打ちでも掛けるかのように聞いてくるのだった。
 そこにどのような意味が隠されているのか分からないが。話を聞いていると、
「刑事の知りたいことが何なのか?」
 ということが分からなくなってきて、却って、その話に興味が湧いてくる気がしてきたのだ。
「ええ、通りなれた道ではありますが、この時間は珍しいかも知れないです。今日は休みだったので、普段なら出かけないので、あまりバスに乗ることもないのですが、乗ったとしても、いつもは日が明るいうちに帰ってくることが多いので、休日のこの時間というと、自分では、大げさにいえば、深夜くらいんお感覚ですね」
 というと、刑事は、一瞬、その大げさな口調に失笑したかのように笑うと、
「そうですか、じゃあ、普段のお仕事の時は、却って、まだ遅い時間の方が多いということでしょうか?」
 と、向坂は、そのようなことは一言も言っていないのに、刑事が勝手に気をまわして、そういったのだろう。
 それを考えると、
作品名:召された記憶 作家名:森本晃次