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召された記憶

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「あの時がターニングポイントだ」
 と分かったとして、
「じゃあ、どこから間違ってしまったのか?」
 ということが分からなければ、さらに、
「どうすればよかったのか?」
 ということも分かっていないといけない。
 過去に戻ったとしても、結局頭の中は時系列を追いかけるしかない。確かに、過去にさかのぼることができるだろうが、結果が分かっていても、原因が分からなければ。何度前に戻ったとしても、そこに答えがない以上。同じことを繰り返すだけではないだろうか?
 そんなことを考えていると、
「過去にもどって、どこからかやり直せる」
 としても、
「どこからやり直せばいいのか?」
 という答えは、未来にもないのだ。
 あくまでも、
「どこかで間違えていた」
 と感じるのは、結果が分かっているからで、
「じゃあ、その原因がどこにあるのか?」
 なんて誰が分かることだろう。それは、
「自分の寿命が分からない」
 というのと同じであり、
「いつ死ぬかが分かっていれば、人生計画が立てられる」
 ということで、だからといって、
「自分がいつ死ぬのか?」
 というのを、
「本気で知りたいのか?」
 ということである。
「タイムリープ」
 というものを考えていると、
「過去に戻りたい」
 という気持ちの表れとして、
「過去に戻れば、原因が分かっているから、そのきっかけとなったところで、食い止めれば何とかなる」
 という思いを抱いているのではないかと思う。
 しかし、向坂は、もう一歩先を考えるのだが、それが何かというと、
「原因と、きっかけだけではダメだ」
 と思うのだった。
 それは、前述のように、
「どの時点で、おかしくなった」
 という結果から、記憶をさかのぼって、果たして、
「どこからやり直せばいいのか?」
 というのが分かるのだろうか?
 というのは、
「人間の頭というのは、未来から過去にさかのぼるという思考回路をしているのかどうか?」
 ということである。
 どういうことかといえば、
「結果から、原因を突き止めることは確かにできるかも知れない。例えばフラれたとして、何か、相手の気に入らないことをしたということを、自分の中で感じたとしよう。
 しかし、それが、分かったというのは、
「理由が分かって、その時が間違いの元だったということが分かったのか」
 それとも、
「原因は分からないが。相手の態度が何となく変わったのが、その時だった」
 というのが分かったからということのどちらかによって、たぶん、戻る場所が違うであろう。
 というのは、
「ちゃんとした理由が分かっているというのであれば、その少し前から始めればいいだろう」
 しかし、逆に。その理由が分かっていない場合には、戻るとすれば、
「付き合う前に戻る必要がある」
 ということになる。
 付き合っているうちに、相手のことを最初から、
「こうなったから別れた」
 ということを踏まえたうえで、性格を読み取るようにしないと、その理由は分かることはないだろう。
 そうなると、
「別れることが前提」
 という付き合いを、また最初から考えるというのは、今度は、
「最初から、リスクを負っているようで、完全に、ゼロからの出発ではなく、マイナスからの出発」
 ということになる。
 そんな状態でも、
「やり直したい」
 と考えるかということである。
 ひょっとすると、
「この人とは別れる可能性がある」
 と分かっていて、やり直そうと思う場合、前の人生の時は、付き合い始めた時、有頂天だったかも知れないが、そんな気持ちはかけらもないだろう。
「下手をすれば、付き合うなんてありえない」
 と思ってしまうかも知れないからだ。
 それだけ、
「人生をどこかからやり直すというのは、よほど、間違いなくやり直せる」
 という確証がなければ、土台無理なことであるに違いない。
 夜の静寂というだけ、静寂が襲ってくるように見えるのだが、その前に襲ってきたのは、何かのうめき声であった。
「ううぅ」
 といううめき声のような声が聞こえてきたかと思うと、今度は、何か、
「メリメリ」
 という何か、乾いたような音が聞こえてきた。
 その音が、あまりにも乾いていたから、最初のうめき声のようなものが、湿気を帯びているかのように感じたのか、それとも、逆に、最初のうめき声が、湿気を帯びて感じたから、その後から聞こえてきた、メリメリという音が、乾燥して聞こえてきたのか、微妙な感じだった。
 しかし、最初に聞こえてきた、うめき声おがやんでから、あとの音が聞こえてきたわけではない。うめき声は、今も聞こえるのだった。
 その音と声らしきものは、同じ方向から聞こえる。どちらかを追っていけば、その二つの正体が分かるというものだが、向坂は、その声の正体をしることが怖かった。
 向坂は、うめき声を、
「苦しんでいる小枝」
 と認識した。
 そうなると、その後の。
「メリメリ」
 という音が何なのか?」
 と考えると、なんとなく分かってきた気がした。
 その正体が何であるかが何となくであるが分かってくると、今度は、足がすくんできた気がした。
「俺はここで、自分の存在を殺すかのような態度を取らないといけないのではないか?」
 ととっさに感じた。
 しかし、だからと言って、その場から逃げ出すわけにはいかないとも感じた。
 それは、正義感でも、勧善懲悪でもなく、ここで何も確かめずに逃げ出すということは、逆に
「永遠に不安を増幅することになる」
 と思ったからであった。
 ただ、少しずつ歩みがゆっくりになっていき、いつの間にか止まってしまうことがあれば、その時、初めてその正体に築くことになると感じたのは、気のせいであっただろうか?
 そう思いながら進んでいると、目の前の暗さに、何か、重圧感のようなものが感じられたのだった。
 その重圧感が足元から伸びる影の最長に伸びた部分が、何かに当たったかのように感じた。
 その当たった部分が、ちょうど自分の頭に当たるところなので、頭がこつんと当たった気がしたことで、思わず、
「あっ」
 という声が漏れたような気がして、自分でも、たじろいでしまった。
 しかし、その声に誰も気づかなかったのか、それとも、声が漏れたと感じたのは勘違いで、
「声にならない声」
 というものを発しただけだと感じたのかも知れない。
 というのも、その声を発したと思ったのは、勘違いだったと思うほどの静寂に、さっきまで、
「この暗さにもだいぶ慣れてきた」
 と感じたのが、気のせいだったような気がしたからだった。
 その暗さというのが、今度は、湿気を運んできたと思ったのは、それは、自然であったと後から思ったのだが、そう思うと、
「メリメリ」
 という音が余計だったのだ。
 その音がなければ、恐怖を感じることがないと思ったのは、なぜか、そのうめき声には聞き覚えがあったからなのかも知れない。
 そんなことを考えていて、目の前に飛び込んできた光景を見た瞬間。
「ああ、俺は目撃者になってしまったんだ」
 と感じたのだ。
作品名:召された記憶 作家名:森本晃次