三つの関係性
さらに、研究所にいた、しかも、幹部と目されている人たちは、その後、できた製薬会社であったり、血液銀行などの、会長に収まっていたり、取締役になっていたりしていたのだ。
これらのことと、その後の世界情勢を考えると、
「取引が行われた」
ということもあったのかも知れない。
その後の世界情勢というと、
「アメリカを中心とした、資本主義による西側陣営」
そして、
「ソ連を中心とする。社会主義による東側陣営」
というものが、睨みあうという、
「東西冷戦」
という構図ができたのだった。
世界大戦中から、アメリカも、ソ連もお互いに睨みを利かせていて、ソ連がベルリンを陥落させた時、いち早くナチスの科学者をソ連に連行し、そこで、アメリカに対抗する兵器開発をやらせていたのだった。
アメリカも、それくらいのことは分かっていた。
「ソ連が、ベルリン侵攻した時点で、ドイツが終わりだとなると、ソ連はいち早く。東西冷戦をにらむことになっただろう」
といえる。
そして、ソ連はアメリカが、
「核開発に成功した」
ということは分かっていたはずだ。
だからこそ、ソ連は焦っていたことだろう。
それは、結局、
「核開発競争」
を引き起こし、
「核による抑止力」
という神話めいたものが語られるようになり、
「それが、迷信だった」
ということに気づくまでに、かなりの時間が掛かることになるに違いない。
「もちろん、アメリカも、ソ連が簡単に原爆を作り上げるまではできないだろう」
と思っていたに違いない。
しかし、アメリカも。
「核の優位」
がなくなったということで、さらに、強力な核兵器の開発と、それだけではない、他の兵器の開発も考えていたことだろう。
それが生物兵器であったり、化学兵器であった。
それが、いわゆる、
「伝染病などの金をばらまく」
ということであったり、
「毒ガスなどによって、相手を殲滅する」
という恐ろしい兵器である。
「貧者の核兵器」
と、いずれは呼ばれるようになった、特に、
「ゲリラ戦などで用いられる兵器開発に使われる」
のであった。
そんな時代において、当時日本が研究していたとされるものは、実に有効だった。
特に相手は、
「ナチスの科学者」
を連れていっているわけで、彼らは、
「ホロコースト」
のために、毒ガスや化学兵器の開発を行っていたので、彼らに対抗するためにも、それらの兵器に対しての情報を持っている、
「日本の科学者」
というのは、重宝されたのだろう。
日本という国は、何といっても、
「資源に乏しい国」
ということである。
当然、資源に乏しいわけなので、
「貧者の核兵器」
と言われる、生物兵器、化学兵器の開発は、必要不可欠だったのだ。
日本は、ゲリラ戦にもたけていたので、日本兵の中には、
「利用価値のある」
という人はいっぱいいたのかも知れない。
しかも、彼らには、軍人としての、愛国心であったり、忠誠心というものも当然あったであろうが、それよりも、科学者としての誇りや、考えがあったに違いない。
それを思うと、
「日本は負けたんだ」
ということになると、さっさと気持ちを切り替えて、
「相手が、俺たちに研究を続けさせてくれるというのであれば」
ということで、それまで、敵だった国に協力するということもありえなくもない。
実際に、本土では、軍隊は解体させられ、自分たちは、帰るところを失ったのだから、
「それなら、敵だったとはいえ、研究をやらせてくれる」
という自分たちの生きる道を与えてくれたということで、協力する気になったとしても、それは無理もないことであろう。
だから、彼らは戦勝国に協力することになるのだろう。
そういう意味で、国内の財閥が軒並み解体されて、弱小化していくようになっていくにも、かかわらず、この財閥は、すたれることはなかった。
むしろ、
「唯一残った財閥系の会社」
と言わんばかりで、発展をつづけた。
他の財閥も、朝鮮戦勝特需などで、完全解体を免れて、財閥としての権威はなくなったが、何とか、国のトップクラスの企業を保っていたのだ。
なぜ、この財閥だけが、発展をつづけたのかというと、
「まず一番は、この財閥が、製薬会社から立ち上がったものだ」
ということだ。
他の財閥は、他の産業から成金のようになり、そのまま財閥化したところが多かった。貿易であったり、重工業であったり、軍需というのもあったが、連合国が本当に欲しいのは、
「化学兵器や生物兵器」
という戦争に使う、
「裏の兵器」
というものだったのだ。
だから、戦勝国との関係も良好で、欧米にもたくさんの支店を出したりすることで、外国からも、融資を受けて、製薬会社の力がどんどん。大きくなっていった。しかし、そのうちに、この財閥の力が強くなりすぎた。
彼らが、政府に口を出したり、戦勝国に対して、いろいろな条件を出したりするうちに、会社の方とすれば、
「いずれは、日本政府だけではなく、欧米を牛耳ってやろう」
などということを考えるようになった。
そもそも戦争に負けた国であり、そんな大それたことを考えられるはずのない立場なのに、それでも、
「国会だけではなく、内閣も、手中に収めよう」
というくらいに財閥は考えるようになった。
元々の先代は、
「そんな背伸びは絶対にダメだ」
といっていたのだが、その会長が、老衰でなくなると、今度はそこから、
「血みどろの遺産相続」
というものが起こったのだ。
しかし、実際には、その裏に、国家が絡んでいて。ただの遺産相続のための、犯行ではないというような、話になってきたことから、
「社会派探偵小説」
ともよばれたが、実際には、
「トリックや謎解きを重視した」
と言われる、
「本格派探偵小説」
と呼ばれるものが、本当のジャンルだったのだ。
そんな探偵小説の中で、一つ気になったのが、事件をミスリードする形の内容のもので、一つの殺人計画メモというものが存在していた。
その街には、不思議と昔から対となるものが存在していて、その内容というのが、
「それぞれの職業であったり、立場であったり、宗派であったりなどの代表者がそこに書かれていて、実際に最初に殺された人間の名前のところが、墨で縦棒を敷かれていたのだ。
そもそも、この殺人は、
「財閥における、血みどろの遺産相続のはずだったのに」
ということで、この殺人メモが大きくクローズアップされて、警察は、
「遺産相続からも、この殺人メモに書かれている内容からも両方、捜査をする必要に駆られた」
ということであった、
実際に、当時この事件の捜査を内偵していた、一人の探偵がいたのだが、そのことは、探偵と仲がいい警部だけが知っていたのだ。
しかも、探偵は、
「警部、申し訳ないが、守秘義務なので」
ということで、今の時点では、何も言えないが、依頼人の求めに応じて、最初から、この事件にかかわっていたのだった。
さすがに、第一の殺人を防ぐことはできなかった。
第一の殺人は、探偵が内偵どころか、着手すら、準備段階だったことで、本当に虚を突かれたものだった。