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三つの関係性

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 しかし、探偵としては、非常に悔しがっていた。
 というのは、
「私にだけ、この事件を未然に防ぐことができたかも知れない」
 といって、地団駄を踏んで悔しがったのだ。
 しかし、警部としても、
「いやいや、あなたのせいではありませんよ。今回の事件は、誰にも防ぐことはできない。何といっても、我々は犯人像どころか、動機の所在がまったく分かっていないんですからな。しかも、この事件というのが、本当にこの財閥における殺人事件を予見しているものかどうか分からなくなってきたからですね」
 と、警部が言った。
「ああ、あの殺人メモなるものの存在ですか?」
 ということであったが、探偵は、ある程度落ち着いていて、そのメモを失念まではしていないようだが、あまり興味を持っていないようだ。
 何といっても、あの不気味なメモは、実際に最初の殺害された人の名前を予見していて、しかも、そのメモが置かれていた時には、まだ、事件になっていなかったからである。
「誰が何の目的で、そんなメモを書いたのか?」
 あるいは、このメモに書かれているように、第一の殺人が的中してしまったということなので、
「これは、犯人が書いたものに違いない」
 ということであるが、
「それで、本当に間違いないのだろうか?」
 と考えられる。
 となると、
「このメモを書いたのは、犯人ということになるが、こんな大切なメモをなぜ、簡単になくしたりするのか?」
 ということであり、実際にこのメモは、分かりやすいところにあったという。よく見ると、この街の特徴といってもいい。対になる人がいるこの街の特徴を書いただけのものだともいえるが、問題は、
「第一の被害者が、線で最初から消されていた」
 ということだ。
 すると。もう一つ気になるところであるが、
「このメモを書いた人間と、墨で第一の被害者に線を入れた人間とが、果たして同一人物なのか?」
 という問題であった。
 実際には、被害者が誰なのか分かっていたのは、普通に考えると、
「犯人しかいない」
 ということになり、
「そのメモの存在が、いろいろと考えられるようになる」
 といえるだろう。
 最初に考えられて、一番可能性が高いと思われるおは、
「殺人計画メモ」
 ということである、
 このメモにおいて、唯一の動的な事実として、
「殺人事件が発生し、最初に殺害された人物の名前が、墨で縦棒を入れられていた」
 という事実であった。
 その事実だけを考えると、
「殺人計画メモ」
 と思わずにはいられない。
 しかも、時系列から考えても、
「犯人が、計画通りに第一の犯行をやってのけた」
 ということかであった。
 第一の犯行が、本当に、
「計画通り」
 ということだったのか、結果だけで判断すれば、
「犯人が、殺害計画に基づいて、事件が発生し、それを速やかに成功させ、警察や探偵の出鼻を見事に挫き、愚弄している」
 ということになるのだった、
 警察としても、探偵としても、
「予知できていなかった」
 ということであったが、実際には、
「殺害予告なるものが、事前にあって、それを警察も探偵も、防ぐことができなかった」
 ということを言われ、新聞にも、ハッキリとは書かないが、それらしきことを書いて、捜査当局をかく乱するには、十分だったといってもいいだろう。
 警察の、捜査本部の方でも、
「こんなに簡単に事件を起こされてしまっては、警察のメンツは丸つぶれだ。一刻も早く犯人を検挙しなければいけない」
 ということで、はっぱをかけてきたのだ。
 しかし、この事件は、捜査関係の人間のほとんどは、
「このままでは終わらない」
 と考えていた。
 考えてみれば、見つかったメモというのは、犯人にとっての、殺害計画メモということになる。
 それを警察は、防ぐことができなかったことで、県警本部としても、プライドがあるので、頭の中では、
「今起こった事件の解決に全力を注ぐ」
 ということで、本来であれば、
「次に誰が狙われるか?」
 ということで、狙われやすい人間、つまり、そのメモに書かれている、殺された人以外のすべてに、警備をつけておく必要がある。
 実際に、捜査本部では、それをしようと考えていたのだが、上からの至上命令で、そうもいかなくなった。
 探偵は口にこそ出さなかったが、
「ああ、これが、この事件の、計画だったのではないか?」
 ということである。
 わざわざ、殺人メモを残して、犯人が、それでも、第一の犯行を行ったのかということを考えると、
「誰が狙われるかということを示しておいて、それを警察が全員を守るということができないその隙をついて、どんどん、犯行を重ねていくとした場合、考えられることとして、犯人の本当の目的というものを、分からなくしようという意図が含まれている」
 と思うのだった。
 実際に、
「今度の犯行において、あまりにも、できすぎているところが多い」
 ということを、探偵は危惧しているのだった。
 要するに、
「最初から、犯人の計画通りに、自分たちが動いている」
 ということで、犯人にとって、探偵や警察は、自分の描いた殺人計画といえるであろう、シナリオの、
「重大な、名脇役」
 だといってもいいのではないか?
 ということであった。
 実際に、脇役として、この事件にかかわっていくと、探偵が行うべく、捜査方針として考えられるのは、
「内偵」
 ということであろうと、思うのだったが、
 この内偵というのは、犯人に知られていようといまいと、探偵によっては、どちらでもよかった。
 知られていないのであれば、それをいいことに、独自に事件を捜査すればいいことであり、
「逆に知られているということであっても、それが、自分にとって、相手よりも、先に進んでいるということを相手に示すことで、相手を焦らせて、ボケ痛を掘らせる」
 という計画も、探偵は考えていた。
 しかし、それにはいくつかの考え方というものがあるというもので、
「まずは、犯人の今度の殺人メモというものが、我々が考えるような、本当の殺人メモであり。ただ、その存在意義として、警察の捜査をかく乱させるというところにあるのか、それとも、他に何かがあるのか?」
 ということを明確にさせる必要がある。
 何といっても、今回の犯罪において、今のところ、唯一の手掛かりになるのは。このメモであった。
 ただ、このメモの存在というのは、かなり大きなものであり
「犯人の目的が何かということ以前に、犯人を特定するためには、まず、このメモの秘密を解き明かす必要がある」
 ということになるのではないだろうか?
 探偵は、警察よりも、いくつか先に進んでいた。
 それは、事件の依頼をしてきた依頼人がいるということで、
「探偵を雇ってまで、まだ事件が起こっていない状態で、何かを探ろうとした」
 ということだから、依頼人にとっては、どこまで予知できているのか分からないが、少なくとも、じっと何もしないでいることができなかったということであろう。
 何しろ、探偵料というのも、ただではない。
 特に私立探偵ともなれば、はした金で動くものではない。
作品名:三つの関係性 作家名:森本晃次