三つの関係性
「いちかも、自分も、どこか、まわりに対しての自衛の気持ちが強く、それが、いちかにとって保護色を示しているように感じると、それが自分にもあると思うと、少し複雑な気がした」
というのは、保護色というのであれば、まだいいのだが、これが保護色ではなく、まわりに対しての存在価値を消すといことになれば、危険に見舞われた時、
「まわりは気づいてくれない」
ということになり、それこそ、
「石ころのような効果」
になってしまうということになるのだ。
いちかもつかさも、自分がどこまで、世の中を知っているか?
ということに対して、不安を感じているようだ。
その感覚が、どうも同じように見えるようでそのことをまわりが分かっているということで、
「あの二人はまるで、双子のようだ」
とまわりに感じさせるのかも知れない。
つかさは、
「双子だ」
と言われても、あまり気にしていなかったが、どうも、いちかの方は気にしているように思えた。
しかも、あまり嬉しいという気分ではなく、
「迷惑だ」
と思っているように感じられて仕方がなかった。
それだけ、相手のことが分かっているということになるので、つかさが、
「いちかのことを分かっている」
というように、いちかも、
「つかさのことが分かっている」
ということになるのだろう。
つかさの方は、いちかに自分の性格を見抜かれていたとしても、気にはならないが、いちかという女性は、自分のことを見抜いている人がいるということを、あまり気分よくは感じていないということに違いないと感じているように思えたのだ。
確かに、つかさも、
「自分のことを分かっている」
という人がいると思うとあまり気持ちのいいことではないが、それも、全員ということではない。いちかに対しては、別に気にするレベルではないと思っていた。
逆にそれは、
「いちかのことは、どうでもいいんだ」
という感覚になっていると考えると、いちかが思っていることに対して、
「私も強いことはいえないんだ」
と感じてしまうのだった。
つかさは、自分が書いた小説で、
「殺人予告メモ」
に近いものを書いたことがあった。
昔読んだ、例の、
「対になっているものに対しての、殺人予告」
ということではなかった。
あの予告メモというのは、探偵小説の中では、核心を突いたという部分ではなく、ただ単に、
「恨みのある人の名前を書いて、それが、ちょうど、村において、皆が対になっている」
ということに気づいたことで、その時点で、殺人事件がすでにぼ@@圧していて、まるで、自分が書いた殺人予告メモのように進んでいることに恐怖を感じたその人が、恨みを込めて書いたことを思い出して、怖くなって捨てたものだったのだが、それが、なぜ、捜査本部の手にゆだねられることになったのか?
そのことが、メモを書いた人は恐れていた。
何といっても、その人が犯人ではないのだ。
そして、その犯人が、なぜか、本人しか知らないはずの殺人予告メモを使って、自分の犯行に利用している。
それも、怖いのだが、何よりも、
「なぜ、犯人が、そのメモを持っているのかということ」
そして、
「その意味を分かったうえで、何の目的で、それを利用しようと思ったのか?」
ということである。
殺人事件というものが、これ以上進んでくると、
「俺は、ノイローゼになってしまう」
と思うと、
「犯人は、それを狙っているのか?」
と感じた。
さらに、そのメモの中には、自分の名前も書かれている。
ということは、自分も犯人からすれば、
「ターゲットの一人」
ということであり、殺される可能性もあるということで、
「警察からは、犯人として疑われる可能性があり、犯人からは、犠牲者として数えられている」
と思うと、それだけで、
「事件が解決するまで、地獄の毎日」
ということになるだろう、
だから、この男が、姿を隠したくなったとしても、無理もないことだ。
しかし、そうなると、犯人の思いツボであり、
「その行動だけで、警察は、その男の行方を捜すということで、自分に捜査の手が及ばないことがありがたい」
といえ、さらに、
「やつが、姿をくらましている間に、秘密裏にやつの始末をつければいい」
というわけである。
この犯人は、
「犯行をくらませる」
ということをするどころか、
「さらに、いろいろな小細工をして、捜査をかく乱している」
というのだ、
「今回の殺人計画メモ」
なるものも、事件をかく乱させるという意味では、効果が満点であった。
しかも、それによって、被害者を、二重に苦しめることになるということを考えると、犯人の頭の良さが分かるというものだ。
そういう意味で、
「トリックや謎解きを主題にして、探偵が、その謎を解き明かしていくという鮮やかさを本質とした、本格派探偵小説としての醍醐味ではないか?」
と言えるのであった。
「こんな殺人事件というものが、どのような形で終結したのか?」
ということを思い出してみると、
「中学時代に読んだ時は、大したことはなかった」
と思っていたが、今読むと、
「こんなに面白い小説だったのか?」
と感じた。
それは、
「最初に読んだ時期が、まだ中学時代だったから」
ということだろうか?
それとも、
「読めば読むほど、味が出る」
という小説だったからだろうか?
それとも、
「自分が女性で、女性特有の感じ方が男性とは違う何かがあるのだろうか?」
といろいろと考えてみたのだった。
そんないちかから、
「悪いんだけど、少し相談に乗ってもらいたいことがあって」
と声をかけてきた時は、さすがにびっくりした。
思わず腰が引いてしまったことも分かったし、その相手の態度が、今までに彼女に対して感じたことのないほど、後ろめたさを表に出しているのが分かったのだ。
それだけ、
「私に対して、何かを相談するというのが、屈辱だったということだろうか?」
と感じたわけで、まさにその通りだということが分かった気がしたのだ。
そんなことを考えていると、いよいよその話の日になって、
「実は、私、こんなものが机の中に入っていたんだけど」
といって、そこには、まさに、昔中学時代に読んだ小説に描かれていた、
「殺人予告メモ」
というのを思い出して、それを見せられた瞬間、
「殺人メモ」
と、つぶやいていた。
自分では無意識のつもりでいたが、実際には、その口調が強めだったことで、
「そうでしょう? つかささんもそう思うわよね?」
と、いちかは同意を求めてきた。
それにしても、いちかの口から、
「つかささんという名前で呼んでくるということが起こるとは、思ってもいなかった」
つかさは、名前で呼ばれることが多いので、呼ばれることに関しては、さほどの違和感はないのだが、相手は、いちかということと、初めて話す人が、最初から、名前で呼んでくるなどということはありえないと思っていただけに、その気持ちは強いようだった。
つかさは、いちかから名前で呼ばれたことに対して、ショックではなかった。